【目次】
VUCAとは、変化が激しく予測が難しい社会や経済情勢を指す概念
VUCAが経営層に注目されている背景
VUCA時代に必要とされるスキル
VUCA時代に求められるマネジメントとリーダーシップ
VUCA時代に役立つ手法
VUCA時代を生き抜くカギは、変化に対して柔軟かつ迅速に意思決定すること
VUCAとは、変化が激しく予測が難しい社会や経済情勢を指す概念
VUCAとは、経済や社会全体において目まぐるしく変転する予測困難な状況を指す概念のことです。近年、この「VUCA」という概念が、いたるところで頻繁に引用されています。VUCAは元々、冷戦後の1990年代後半に米軍で使われるようになった軍事用語です。複雑化した軍事情勢や刻々と変わる戦況を把握し、その時々の状況に応じて対処するために用いられていました。2016年の世界経済フォーラム(ダボス会議)で引用されたのを契機に、今では経済やビジネスの世界でも日常的に使われています。
VUCAは、「Volatility(変動性)」「Uncertainty(不確実性)」「Complexity(複雑性)」「Ambiguity(曖昧性)」の4つの英単語の頭文字を取った言葉です。それぞれの言葉についても説明します。
Volatility(変動性)
Volatilityの意味は、テクノロジー、価値観、顧客ニーズなどの急激な変動・変化です。新たなテクノロジーの登場や社会環境の変化によって、ビジネス環境がたえず揺らいでいる状況のことを指します。
Uncertainty(不確実性)
Uncertaintyの意味は、自然環境、政治、国家、制度などの不確実性です。明確な結果を予測することが難しく、その結果に影響を及ぼす要因もまた明確でない状況を示しています。
Complexity(複雑性)
Complexityは、グローバル化などによるビジネスの複雑化を表す言葉です。市場、技術、組織などが複雑に絡み合い、組織や個人が直面する課題の解決が難しくなる状況を示しています。
Ambiguity(曖昧性)
Ambiguityは、英語のニュアンスとしては「複数の意味を持っている状態」を指し、あるひとつのものの意味や解釈の可能性が複数存在するという意味です。つまり、「Volatility(変動性)」「Uncertainty(不確実性)」「Complexity(複雑性)」の3要素が組み合わさることで生じる曖昧さを示しています。
VUCAが経営層に注目されている背景
VUCAという概念が広まり、特に経営層に注目されている背景には、何があるのでしょうか。ここでは、その背景について紹介していきます。
VUCAに対応できる人材育成や組織づくりが企業の成長に不可欠となっている
経済産業省の経済産業政策局が2019年3月にまとめた「人材競争力強化のための9つの提言(案)(外部サイトに移動します)」という提言書で、「経営トップが率先して、VUCA時代におけるミッション・ビジョンの実現を目指し、組織や企業文化の変革を進めること」が経営競争力・人材競争力を強化するための3つの大原則のひとつとして挙げられています。そのため、VUCA時代に適した人材育成や組織づくりは企業にとって喫緊の課題だと経営層は注目しているのです。
関連記事:人材育成とは?必要性や課題と解決方法、手法について解説
ビジネス環境の急激な変化や予測が難しくなっている
ビジネス環境の急激な変化や予測の難しさという点も、経営層がVUCAに注目している背景のひとつです。現代は、気候変動による災害や先進国の少子高齢化など、急激に外部環境は変化し、その影響を大きく受けます。新型コロナウイルス感染症の拡大が、人々の生活様式を一変させたことも記憶に新しいところです。インターネットの普及やAIの進化など、技術の急速な発展も世界の様相を変えています。予測困難な変動性と複雑性は増す傾向にあるので、今後も目まぐるしく市場や人々のニーズは移り変わっていくでしょう。企業の経営層には情報分析や独自の視点で状況を読み解き、VUCA時代に対応する戦略を立てることが求められています。
VUCA時代に必要とされるスキル
VUCA時代において、経営層にとって重要となるスキルをいくつか紹介します。
情報処理力
情報処理力とは、情報を集め、集めた情報を適切に分析し有効に活用する能力を指します。ビジネス環境、業界動向、技術の進化、市場のニーズなど、多岐にわたる情報を即座に収集・分析し、組織全体の方向性を決定するための洞察を得ることが重要です。分析内容を戦略的な意思決定に結びつける能力が問われる経営層にとって欠かせないスキルといえるでしょう。
状況把握力
状況把握力とは、その時々の状況を正確に把握し、理解する力です。現状の理解をもとに、次の行動を判断するための基盤を整備する能力と言い換えることもできます。変化が激しいVUCA時代において、経営層が担う役割のひとつとして、現状を的確に把握して、組織全体を適切な方向に導くことが挙げられます。市場の動向や競合の動き、社内の状況など、多角的に状況を評価し、組織の舵取りをするスキルが求められるのではないでしょうか。
問題解決力
問題解決力とは、予測不可能な問題が突如発生した場合でも、冷静に情報を収集、分析したうえで、適切な解決策を見つけ出して実行する力です。状況が急激に変化し、これまでの方法や考え方が通用しなくなった場合でも、最善策を見つけ出し、問題解決に導くスキルがこれからの経営層には求められています。
意思決定力
意思決定力とは、さまざまな情報をもとに問題解決方法を選択し、行動に移す力です。VUCA時代において、情勢やリスクを見定めて迅速に意思決定を行うスキルの難易度は、高くなっているといえるでしょう。将来の見通しが立たず、不確実性の高いビジネス環境の中で企業を成長させていくためにも、経営層には的確な判断を下し、必要な行動を決定するスキルが求められます。
柔軟な対応力
柔軟な対応力とは、変動する状況に合わせて計画や方向性を変え、臨機応変に対応する力のことです。変化の激しいVUCA時代には、固定観念を捨て、新たな視点やアプローチを取り入れる柔軟性が求められます。
VUCA時代に求められるマネジメントとリーダーシップ
VUCA時代に必要とされるスキルを5つ紹介しましたが、VUCA時代にはどのようなマネジメントやリーダーシップが求められるのでしょうか。3つのポイントにわけて説明します。
データに基づいた意識決定(データドリブン)を重視する
VUCA時代に求められるリーダーシップとしてまず挙げられるのは、データの分析結果をもとに意思決定する「データドリブン」による意思決定を重視することでしょう。必要なデータや情報をいかに収集して分析し、迅速な意思決定に活かせるかどうかが、先を見通すことが難しいVUCA時代を生き抜くカギといっても過言ではありません。確実性の高い意思決定を行うために、リーダーは曖昧な判断材料をできる限り排除し、データに基づいて意思決定をすることが重要です。
関連記事:データドリブン経営とは?メリットや実践のステップを解説
今、解決すべき課題(イシュー)を明確に示す
VUCA時代では、解決すべき課題や論点、すなわち「イシュー」もまた状況によって変わります。そのため、リーダーはその時々で組織が抱えているイシューを明確にすることが重要です。また、イシューを示すと同時に、その解決のために取り組むべきことは何かも併せて提示することが、リーダーには求められます。適切なタイミングで適切に課題を設定するためには、物事をきちんと論理立てて考えて整理する力も必要になるでしょう。
組織や従業員を支援して信頼関係(エンゲージメント)を引き上げる
VUCA時代は、変化が激しく予測困難な世の中であるため、組織は自律的に、柔軟に、スピーディーに機能することが求められます。組織がそのように機能するために必要なのが、従業員の「エンゲージメント」を高めることです。従業員のエンゲージメントとは、所属する会社に貢献したいという自発的な意欲のことを指し、エンゲージメントが高い従業員は、仕事のモチベーションや自社への帰属意識が高い傾向にあります。経営層に求められるのは、組織に所属する従業員が仕事に熱意や意欲を持てるような環境を整えることといえるでしょう。
VUCA時代では、トップダウンによる一方的な指示よりも、相互理解と協力に基づく組織運営が求められます。経営者がリーダーとして従業員の声に耳を傾けることは、従業員の能力を最大限に引き出すことにつながりますし、組織や従業員との間で対等な信頼関係の構築にもつながるでしょう。そういった行動をとることにより従業員と企業の信頼関係をベースにした「エンゲージメント経営」を実現することも可能となります。
VUCA時代に役立つ手法
最後に、課題の発見から意思決定まで、変化する状況に合わせて活用できる手法を3つ紹介します。VUCA時代に対応するひとつの手段として、取り入れることを検討してみてはいかがでしょうか。
OODA(ウーダ)ループ
OODA(ウーダ)ループは、Observe(観察)、Orient(適応)、Decide(決断)、Act(行動)という4つのステップを短期間に繰り返すことで、意思決定のスピードと精度を上げ、対応策を見つけ出す手法です。変化が早く激しいVUCA時代において、早期に状況を把握して適応するために役立つといわれています。
アジャイル
アジャイルとは「素早い」「機敏な」といった意味を持つ言葉です。本来はソフトウェア開発で使われる用語で、「変更・修正があることを最初から計画に織り込む」「短い期間でリリースし、フィードバックを受けて改善する」という手法を指します。
このアジャイル開発のアプローチは、これからの企業経営やビジネスにおいても応用することが可能です。不確実性の高いVUCA時代では、意思決定までの間に世の中の課題やニーズが変わってしまい、途中で戦略の変更を余儀なくされるケースも少なくありません。そうしたケースにも有効なアプローチが、先々変更や修正があることをあらかじめ想定しておき、状況に応じて細かく修正していくといったアジャイルなアプローチだといえるでしょう。
デザイン思考
デザイン思考とは、デザイナーやクリエイターがデザインする際に用いるプロセスを、ビジネスや経営の問題解決に活かしていくための思考法です。ユーザーのニーズや感情、経験に焦点を当て、それらを起点として解決すべき問題を抽出し、解決策を見出すという点が特徴で、商品や新規事業の開発に役立てることができます。まわりの状況が目まぐるしく変化するVUCA時代だからこそ、従来のような仮説検証型とは異なる、ユーザーを起点に本質的な課題やニーズを発見するデザイン思考は現代における新たな価値創造やサービス改善には欠かせないフレームワークといえるでしょう。
関連記事:デザイン思考(デザインシンキング)とは?具体的なプロセスを解説
VUCA時代を生き抜くカギは、変化に対して柔軟かつ迅速に意思決定すること
ここまで、VUCAとは何か、VUCAが経営層に注目される背景、VUCA時代に求められるスキルなどについて見てきました。あらためて、この記事のポイントを以下にまとめます。
・VUCAとは、「Volatility」「Uncertainty」「Complexity」「Ambiguity」の頭文字を取った造語で、不確実性が高く、将来の予想が困難な現代の経済や社会状況を指す
・VUCAが経営層に注目されているのは、企業における人材育成や組織づくりの重要性、ビジネス環境の急激な変化や予測の難しさなどが背景にある
・VUCA時代のマネジメントやリーダーシップでは、データに基づいた意思決定、明確な課題設定、従業員のエンゲージメントの向上などが求められる
以上のポイントを参考に、変化が激しく先行きが不透明なVUCA時代においても、その時々の状況に合わせた手法を柔軟かつ迅速に取り入れながら、ビジネスを成功に導いていきましょう。
(免責事項) 当社(当社の関連会社を含みます)は、本サイトの内容に関し、いかなる保証もするものではありません。 本サイトの情報は一般的な情報提供のみを目的としており、当社(当社の関連会社を含みます)による法的または財務的な助言を目的としたものではありません。 実際のご判断・手続きにあたっては、本サイトの情報のみに依拠せず、ご自身の適切な専門家にご自分の状況に合わせて具体的な助言を受けてください。