国際的な感覚と経営者への強い想い
——まずは「unito(ユニット)」を立ち上げるまでの経緯を教えてください。
僕は父の都合で3歳から7歳まで東ヨーロッパのルーマニアで育ちました。いろいろな人種がいる現地のインターナショナルスクールに通っていて、アジア人は僕と韓国人の女の子の2人だけでした。当時のルーマニアはEUにも加盟していなくて、ストリートチルドレンがたくさんいるような状況下でした。自分は日本人だから「ドライバーがいて、家政婦がいて……」という環境で、当時から「日本人は恵まれているな」と感じていました。その感覚はいまの仕事に繋がっているように思います。
その後日本に帰ってきて、日本の小学校に通うのですが、10歳を祝う二分の一成人式というイベントで夢を考える機会があり、そこで起業家を志そうと意識しました。当時から「仕事を楽しめないと人生を楽しめない」と感じていたんですよね。
株式会社Unito代表取締役の近藤佑太朗氏
——小学校4年生で起業家を志すというのはかなり早いですね。
僕の両親は教師で、忙しかったこともあり僕は祖父に可愛がってもらっていました。その祖父は、実家の酒屋を今でいうコンビニのような業態に転換した経営者で、男気あふれる性格でした。祖父が会社の従業員を大切にしている姿を自分は小さいころから見てきたこともあり、小学校のころから「経営者になりたい!」と思っていました。その後は、逆算的に、経営者になるためにはどうしたらいいのかと考えて進学先を決め、大学は国際経営学科に入学したのですが、推薦入学だったので、みんなが受験勉強しているときにアルバイトで30万円貯めて、一人でオーストラリアのタスマニア島へ旅行に行きました。
大学に通い始めてからは、国際交流の学生団体を立ち上げたり、個人事業主としてツアーガイドをやっていました。東京はすごく広いので、旅行者は迷ってしまうんです。そこで“あなたのためのオンリーワンツアー”を立ち上げたところ、月に数件予約が入るようになりました。利用者は海外の富裕層の方が多かったのですが、毎回、すごく感謝してくれるんです。彼らにとっては、5年もしくは10年に一度くらいしか旅行で東京に来られないかもしれない。そしてその貴重な時間を無駄にしたくない。僕がもっている知識をシェアすることで1日の価値が変わってくるわけです。海外旅行の1日の価値の重さを感じて、「観光・旅行業」にハマりまして、観光立国であるクロアチアのビジネススクールに留学しました。
——観光・旅行業への興味から、起業に繋がっていくのですね。
2015年、留学から帰ってきて、日本と世界を繋ぐ何かを作りたいと思っていたところちょうど民泊仲介のAirbnbが日本に上陸しました。当時はまだそれがどんなものなのか、日本では全く知られていない状態でしたが、日本法人の仕事を少し手伝っていた時期がありました。当時、世界最大だった高級ホテルチェーンの部屋数が10万部屋程度だったのですが、インターネットが普及してAirbnbというサービスができたことで、あっという間にその数を越えることになりました。テクノロジーが広がり、人々の生活を変え、民泊の新しい法律ができていく流れを間近で見られたのは刺激的な体験でした。
その後、大学4年生の時にAirbnbの運営代行ビジネスを始めました。法律も整備されていないなか、不動産会社と協力をして、客付けができていない空き部屋を「ホテルになるので登録させてください」とお願いしてまわりました。1年のうちに7都道府県に広げられ、学生ながら良い経験をさせてもらえました。そして、自分も新しいサービスを作りたいという想いが強まり、大学4年生だった2017年に起業しました。
スマホ完結。クレジットカード決済でその日から利用可能な
使った分だけ家賃を払う家
——起業時、特に苦労したこととはどういったことでしたか。
実は、僕は最初の家を借りるとき、5、6回、断られているんです。大学4年生のとき、周囲が就活をしているあいだに起業した僕はTwitter(現X)で起業活動を発信したりして、学生起業家として多くの人に応援してもらっていました。でも、保証会社の審査に通らない。就職が決まった人は通るのに。学生時代にビジネスをしていたため、貯金額は普通の大学生よりかなり多かったと思います。でも、それは関係ないんですよね。周囲に「起業する」、「世界を変える」とか言っておいて、暮らしのインフラの部分の契約もできないことがとにかく悔しかったんです。
だから、まずデポジットを払えれば、クレジットカード決済で契約できるサービスが必要だと考えました。さらに、賃貸契約できたとしても、水道や電気、Wi-Fiの契約、家具搬入を考えると、生活を整えるのに2週間くらいの時間がかかってしまう。だから「ユニット」ではスマホ完結で、クレジットカード決済でその日から利用できるようにしました。
——「ユニット」は使った分だけ家賃を支払うというサービスですが、どうしてこのサービスが生まれたのでしょうか。
僕は出張が多くて、月の半分しか東京にいない、つまり自分のマンションに住んでいないという生活をしていました。お隣さんも同じ家賃9万円を払っているとして、毎日部屋にいると考えると自分の方が損をしているような気がして、家賃システムに疑問を感じました。この制度を不合理だと感じている人は多いだろうなと思い調べると、不動産賃業は300年前の江戸時代からはじまり、そこから一度も大きな料金体系の変化がないことがわかりました。だから僕が課題に感じていたこの家賃システムに大きなイノベーションが起きれば、たくさんの人がハッピーになるのではないかと考えたんです。
——イノベーションのアイデアが浮かんだとして、既存の規制や法律は障壁にはならなかったですか。
2018年、住宅宿泊事業法(民泊新法)が施行されたおかげで、「ユニット」の事業はスムーズにできています。例えば、「Re-rent Residence 渋谷」は、エントランスに「民泊施設」と掲げている通り「民泊免許付き賃貸」です。民泊免許を持つのは事業会社である「ユニット」です。法律上は全く問題ないのですが、日本で初めてのケースなので、利用者の中には不安に思われる方もいます。そこで、2023年2月に内閣府のグレーゾーン解消制度を通し、利用者が「毎月の料金変更」でリスクを負わないことを明らかにして、よりクリアな運営にしました。
この物件でいうと、家賃月額25万円ですが、留守にするときは民泊として部屋を貸し出せます。複数のクローゼットや冷蔵庫には鍵がかかっているのでプライバシーは守れますし、清掃がこまめに入るので清潔さも保たれます。例えば、ひと月のうち1日帰って来なければ「1泊6000円、月額の家賃が下がる」という仕組みです。
「Re-rent Residence 渋谷」の一室。ソファ、ベッド、テーブルセット、キッチン、冷蔵庫など、生活に必要なものは一式揃っている
ベッド下の引き出し収納にはダイヤル式の鍵が付いている
冷蔵庫の扉にも鍵が。人が暮らす空間を貸す・借りるということを実現させるためには、安心感を担保するオペレーションが必要だ
未来では「シェア」が当たり前に。
共有する感覚は若年層を中心にもう根付いている
——コロナ禍は観光業やホテル業が大きな打撃を受けましたが、「ユニット」はどのように乗り越えたのでしょうか。
「ユニット」が持つ自社物件は宿泊客が減少してネガティブな状況でしたが、プラットフォーム事業に主軸を置き全国のホテルを掲載したところ、コロナ禍で空室が多いときにちょうど「ホテルに住みたい」という人も増えてきたので、その流れが追い風になりました。結果的に、短・中期滞在者向けのサイトとしては日本で一番大きなサイトに成長しました。
——生活様式については揺り戻しも含め変化が絶えませんが、「自分の部屋をシェアする」という感覚はどのように広がってきたと考えますか。
2000年くらいに日本でもシェアハウスができましたが、当時は他人と住むことが流行るなんて想像できなかったと思います。しかし、いまはミレニアム世代の3人に1人はシェアハウスに住んだことがあるというくらい広がっています。シェアカーも気持ち悪いと思う人はほとんどいない。人と何かを共有する感覚が、若年層を中心に根付いています。
そうなると、2030年、2050年の未来では、シェアリングエコノミーや、サーキュラーエコノミーのような「物を消費せずに共有していく」という概念は間違いなく広がっていくと考えています。そして暮らしの多様化は間違いなく進んでいくと思います。多くの人の一日の三分の一は睡眠、残りの三分の二は起きて活動していますが、そのうちの8割は仕事です。その仕事の部分がハイブリッドな形に移行しているので、その先に、暮らしの多様化が来ることが予想されます。既存の賃貸か持ち家かのような議論ではなく、賃貸と宿泊の中間、グラデーションのあいだにサービスが広がっていくのではないかなと思います。そのグラデーションのなかには半分所有、半分賃貸の人がいたり、半分賃貸、半分宿泊する人もいる。それにつれて業界にもいろいろなプレイヤーが出てくると思います。
——家賃システムしかり、暮らし方が多様化することで、生活者の価値観はどのように変化すると考えられますか。
僕は「地元が増えることが人生における豊かさ」だと思っています。100年前の人は、人生で地元以外に行く場所といえば2か所くらいだったという話を聞いたことがあります。それがいまでは10倍以上、人によっては100倍くらいになっています。ただ、それでも「地元」と呼べる場所は1カ所か2カ所かなと思います。僕は、未来の人は「地元」と言える場所が30か所くらいできるのではないかと思います。“帰れる場所”である地元がたくさんあるというのは、その人の人生を豊かにすると信じています。人との繋がりも生まれ、より幸せになるのではないでしょうか。
——「ユニット」が目指す未来はどのようなものでしょうか。
僕たちはあくまでもニッチなプレイヤーです。1か月のうち5日〜10日、家を留守にする人がマジョリティーではないことは理解しています。おそらく、暮らしマーケットだとマイノリティーです。賃貸市場全体の1%とか2%くらいではないでしょうか。ただ、「暮らし」というマーケットは超巨大であり、今後シェアを10〜20%と拡大していけたら、将来的にはこれが新しい日本の暮らし方のひとつになると思っています。これまでの家賃制度に課題を持つ人たちに向けてどんどん広めていき、ニッチトップになりたいですね。
——最後に、起業家や経営者の方々に、メッセージをお願いします。
テクノロジーが発展している激動の中で、自分の意思決定で何か物事を生み出していけるのは幸せなことです。僕は、日本で経営者ができるというのはすごく運がいいと思っているんです。世界では戦争が起きている中、この時代に日本人として生まれていること自体とても幸運なことです。だから、絶対になんにでも挑戦するべきです。使命だとすら思いますね!これから何かに挑もうとする人に、僕はいつもこう思って応援しています。頑張れ!
■プロフィール
近藤佑太朗
1994年、東京生まれ。幼少期の3年半、父の仕事の都合上、東ヨーロッパのルーマニアで育つ。大学1年次、国際交流を軸に活動する学生団体 NEIGHBORを設立。明治学院大学経営学部国際経営学科卒業。クロアチアのビジネススクールZSEMで観光学を学ぶ。帰国後、複数の旅行系スタートアップで修行し起業。株式会社Unitoの創業者兼代表取締役。東京を中心に1,200室以上の外泊するほど家賃が安くなるサブスク住居「unito」を展開。新しい暮らし創出協議会主幹、⼀般社団法⼈シェアリングエコノミー協会幹事。世界起業家団体EO Tokyo Central GSEA推進担当理事。
株式会社 Unito(外部サイトに移動します)
■スタッフクレジット
文:野口理恵 写真:島津美沙 取材・編集:舘﨑芳貴(RiCE.press)