新型コロナウイルスのパンデミックの影響もあり、都会に住む人の地方移住への関心は、年々上昇している。内閣府が約1万人を対象にインターネット上で行なった「第5回 新型コロナウイルス感染症の影響下における 生活意識・行動の変化に関する調査」(令和4年)(※外部リンクに移動します)によると、東京都23区に住む20代の約半数が地方移住に関心を持っているという。それに呼応するように、「定額全国住み放題」や「空き家バンク」といったさまざまなサービスも登場。多拠点生活・地方移住の流れが広がっている。
今回は、Z世代を中心に多くの人に支持されているウェブマガジン「NEUT Magazine」の編集長であり、経営者でもある平山潤が、自身の友人であり、今年5月東京から山梨県北杜市に移住して暮らしている今野竣太(しゅんた)さん(23歳)に、Z世代が考える新しいライフスタイルについてインタビュー。北杜市へ足を運び、農場体験をしながらじっくりと話を聞いてきた。
しゅんたさん
東京よりも田舎の暮らしが魅力的? Z世代にインタビュー
こんにちは。NEUT MEDIA代表 / NEUT Magazine編集長の平山潤です。この連載では、マーケティングのなかでいわれている、若者の「〇〇離れ」のウソホントや、若者の新しいお金の使い方に注目。毎回ゲストを招き、インタビューしながら若者の実情を探っていきます。
第二回は、多拠点生活・地方移住の流れが広がっているなかで、実際にこのコロナ禍で都市から移住して田舎に住んでいるZ世代の方に取材し、地方生活の魅力や新しいライフスタイルに対する価値観を探りました。
(※第一回『「NEUT Magazine」編集長が聞く、Z世代の新しい消費Vol.1 〜若者がノンアルドリンクに1,000円以上出す理由〜』はこちら)
八百屋で働いて知った野菜のおいしさが、地方移住のきっかけに
平山:自己紹介をお願いします。
しゅんた:しゅんたです。僕はもともと、東京にある八百屋「イエローページセタガヤ」で働いていました。今年の5月から、山梨県北杜市にある「ROOSTER HEN HOUSE(以後、ROOSTER)※外部リンクに移動します」という改装中の牧場で住み込みで働いています。ここでは主に、株式会社Cultivate Metabolismが展開する農業に関心のある人に向けたサービスの準備と、農家の方の手伝いをしています。
平山︰なぜ北杜市に移住しようと思ったんですか?
しゅんた:イエローページセタガヤで働いたことが大きいです。そこで取り扱っていた北杜産の有機野菜のおいしさに感動して、野菜がつくられる過程をもっと知りたいと北杜市の農業に興味を持ちました。北杜市に通って農作業を手伝っているうちに、日本の農家の現状を知りました。
農業って、自然が相手で休みのない肉体労働。野菜などの作物を育てるだけでもとても大変です。しかも、僕が出会った農家の方たちは、農作業以外のさまざまなことも、すべて自力でやっていたんです。イエローページセタガヤでは野菜の詰め放題をやっていたんですが、それは「コンテナで野菜を運んで梱包作業を省き、農家の負担を減らす」という意図がありました。「そういうサポートをもっと近くですることができれば」と、北杜市への移住を決めました。
平山:北杜市での暮らしは、どんなところに魅力を感じていますか?
しゅんた:東京から車で2〜3時間。交通費も高くないので、行ったり来たりがしやすいのがメリットですね。農家の方から野菜をいただいたお返しに畑仕事をしたり、近くにオープンしたアート施設「GASBON METABOLISM」のスタッフと互いに改装作業を手伝ったり。そんなふうに気軽に助け合える関係性も魅力の一つですね。
平山:農家の視点に立つようになって、「消費すること」への意識は何か変わりましたか?
しゅんた:以前は、生活のなかで「食」というのが当たり前すぎて、何も考えずに野菜を食べていました。農家の思いや野菜がつくられる過程を知ったいまは、どんな野菜なのかわかった状態で買う大切さに気がつきました。「食」は、僕たちの身体に深く影響するものです。それだけでなく、音楽やアート作品と同じように、心も豊かにしてくれます。ですから、口にする野菜の背景をきちんと知ることが大事。それが野菜を選ぶ信頼感になるし、食べたときの満足感にも通じます。
北杜市で農業を体験したことで、栽培の現場や農家の方の考え方に触れ、帰ってからその農園の野菜を選んで買うというような「新しい循環のカタチ」をつくることで、体験や人との関わりがベースにある温かさを持った「消費」の心地よさを感じてくれる人が増えたら良いなと思っています。
平山:しゅんたさんは20代前半ですが、同世代にも地方での生活に関心のある人が増えていると感じますか?
しゅんた:実際に地方に移住しないまでも、自然豊かな地方の暮らしに憧れたり、農業に関心を持ったりする人は結構いると思います。ただ、「農業をやってみたい」と思っても簡単に始めるのが難しいとか、きっかけがない場合もある。それに農業を始めるには、ある程度コストがかかるので、経済的にそれほど安定していない若者にとって、ハードルが高いのも事実です。そういう同世代を含めて、農業に関心のある人が気軽に農業体験をできる機会をつくっていきたいんです。
ROOSTERは、ライフスタイルのなかに「農」に触れる時間を取り入れることを提案してい ます。そのためには、楽しくやれることが大切。やんわりと農業に関わることから始められる環境がないと、若者の農業人口って増えていかないですよね。そもそも「食」ってすごく身近で当たり前のこと。本来、誰もが農業のことを知っていてもいいはずなのに、都会では実感できないものになってしまっている。だから、例えば、忙しいなかでも、一週間に一回野菜を見に来るだけで良いとか、気軽な農業体験を提供できる場をつくっていきたいんです。普段はある程度、僕たちが野菜の世話をして、それを共有しながら、収穫は本人がするという方法もあると思います。
平山:気軽に「農」を体験できる場所として、若者からも注目されそうですね。
しゅんた:北杜市で、工場跡地を改装した多目的施設「GASBON METABOLISM」がオープンしました。また、ROOSTERでも農業体験やファームステイだけでなく、イベント会場として貸出するなど、さまざまな楽しみ方を提案していきます。これから北杜市は、東京のカルチャーも、カジュアルな「農」も楽しめる、新しい「遊び場」の先駆けになっていくはず。そういう地方への入口をたくさんつくっていくことで、Z世代の地方への関心や移住ももっと進んでいくんじゃないでしょうか。
左から平山潤、しゅんたさん
まとめ:地方で見つける新しい「遊び場」
しゅんたさんのように都市から出て地方の畑の近くに住む若者は、まだまだ珍しい存在だ。
山梨県北杜市は東京からのアクセスが良く、アートや音楽など、カルチャーを楽しめる施設が続々誕生し「遊び感覚で“農”に参加できる環境」が整えられているという魅力があった。
実際に農業体験をしながら取材を行い、じゃがいもを掘って普段は触れない土に触ったり、飼育している鶏や山羊と戯たりして、リフレッシュすることができた。さらに、農業体験の貴重さ、都心から離れた場所にも居場所があることの安心感を感じた。
また、しゅんたさんの話から、いまの若い世代は「コミュニティーとのつながり」や「口にする野菜などの作物の背景や生産者をきちんと知ること」「自然のなかで暮らすこと」の大切さを認識しているということがわかった。
しかし、都市に住む若者にとって、経済的なことも含め、自分で田舎に畑を持ち管理することはハードルが高いというのが現状だ。
今後、北杜市で行われているような環境づくりが、若者が地方に関心を持つきっかけとなるキーポイントになるのではないだろうか。「農」と「遊び」のバランスが取れたエリアが増えていけば、都市と地方を行き来したり、都市から出て畑の近くで暮らしたりといったライフスタイルが、若者にとって身近な選択肢の一つになっていくと考えられる。
■プロフィール
平山 潤
NEUT MEDIA株式会社 代表 / NEUT Magazine編集長。1992年神奈川県相模原市生まれ。成蹊大学卒。ウェブメディア「Be inspired!」編集長を経て、現在は「NEUT Magazine」創刊編集長を務める。同メディアでは、「既存の価値観に縛られずに生きるための選択肢」をコンセプトに、先入観に縛られない視点を届けられるよう活動中。
NEUT Magazine ※外部リンクに移動します
今野竣太
1998年生まれ。八百屋をきっかけに北杜市を知る。新しい遊び場を作るために北杜市で頑張ってます。
ROOSTER HEN HOUSE ※外部リンクに移動します
■スタッフクレジット
文:Nao 撮影:TATSUMI OKAGUCHI 編集:平山潤(NEUT Magazine)
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