SNSの登場で、経営者の「思い」や「考え方」をカジュアルに発信できるようになった昨今。ビジネスオーナー自ら発信し、「共感」を集めることで自社のファンを増やすことも、珍しいことではなくなりました。コミュニケーションの方法が多様化され、変化を続けているいま、「届ける」ことの意味、方法、トーンや目線といったことだけでなく「受け取る」側の印象、捉え方についても重視し、届けたい声やメッセージがちゃんと伝えられるようにするためのアップデートは不可欠と言っていいでしょう。
Z世代の若者を中心に多くの人に支持されているウェブマガジン「NEUT Magazine」の編集長であり、経営者でもある平山潤氏。政治やジェンダーなど、センシティブな情報を扱いつつも、これまで大きな批判や炎上はしたことがないとのこと。若い世代はインターネット上のコンテンツに敏感で、良いものは広め、悪意を感じたものには見向きもしない傾向にあるそうです。では、彼らに好意を持ってもらい、不要な炎上を招かないようなコンテンツは、どうすればつくることができるのでしょうか? 「まずは『若者』をひとくくりにせず、彼らのことをよく知ること」が最初の一歩だと語る平山氏に、その理由を綴っていただきました。
1996年から2015年のあいだに生まれた人たちは、Z世代と呼ばれるとともに、「ソーシャルネイティブ」とも言われ、スマホやSNSに幼少期から慣れ親しんでいることが特徴です。また、1980年から1995年のあいだに生まれたミレニアル世代は、幼少期にインターネットやスマートフォンが普及したことから「デジタルパイオニア世代」とも呼ばれています。ともにスマホに慣れ親しんでいる世代ではありますが、インターネット上での発信方法に大きな違いがあります。
NEUT編集長・平山潤氏
「ミレニアル世代」と「Z世代」の発信における違いとは
まず、ミレニアル世代とZ世代のSNSにおける発信方法について、僕が感じたことをお話しします。スマホ第一世代であるミレニアル世代は、インターネットの普及による世の変化を間近で見てきました。SNSの拡大により、そしてそれが比較的新しい現象だったためか自分と周りの人生とを、SNSを通して比較する人が増え、理想の自分を発信し「完璧主義」を好む人は少なくありません。例えば、SNS上では撮影した写真にフィルター機能を使って日常をきれいに、もしくは鮮やかに見せるなど、「完璧で悩みがまるでないような」投稿を好む傾向にあるように感じます。
対してZ世代は、リアリストが多い印象です。幼少期からデジタルな環境で育ち、膨大な情報を日々吸収しているこの世代にとって、個人の抱える違和感や悩みをネットで検索すれば、すぐにアクセスすることができる環境に自然といました。また、SNSも彼らにとって新しいものではなく、自然と日常の一部に最初からあるものだからか、SNSを使って完璧ではない世の中を冷静に見つめ、社会課題に対する意識を強く持っていたり、ありのままの自分を重視したりとフラットにSNSを使っている傾向にあると思います。Instagram上では、フィルターを使わずに寝起きやすっぴんの姿をあげる人もみられます。Twitterを見ていても、Z世代の若者は綺麗事だけではなく社会に対する率直な意見を述べ、自分の抱く弱みや悩みなどを赤裸々につぶやいています。
この違いはポップカルチャーでも共通しているように感じます。例えば2010年に公式デビューしたカナダのラッパー・Drakeは、自身の弱い部分をさらけ出した曲をリリースし、従来の「男らしさ」を強調するヒップホップシーンとはかけ離れた表現方法により、世界中の若者から支持される歌手となりました。それに続くように、2010年以降「エモラップ」や「鬱ラップ」と呼ばれる、内省的な感情をラップするアーティストが増えました。つまり、Z世代の若者からの共感につながるのは、エモーショナルな側面など、人間らしさを見せるものだと言えます。ここで大切なのは、つくり手がフィルターをかけずに物事を見ること、いままでとは異なる新しい世代の情報を収集し、それらの価値観に耳を傾けること。それが、若者から共感され、傷つけない「誠実なコンテンツ」につながると考えています。
国内だけでなく、国外の情報も敏感にキャッチする
先述したように、同じ社会を生きる若者のあいだでも世代によって特徴が異なります。これらの世代の心をつかむには、まずそれぞれの特徴を理解し、さらに現代社会の価値観に合わせて発信することが重要です。
ジェンダー・セクシュアリティー・人種・セックス・環境問題・メンタルヘルスなど、世間で<エクストリーム>だと思われるようなトピック・人について取り上げている「NEUT Magazine」では、編集部側が積極的に若い世代の情報収集をしてつねに考え方や価値観をアップデートすることを心がけています。
特に欧米では、個人のアイデンティティーへの尊重を求める運動、アイデンティティーポリティクスが進んでいるため、現地のメディアや映画、SNSなどをよくチェックしています。また、コンテンツを発信する際に当事者性のないトピックを扱う場合は、そのトピックに身近な人から意見をもらいます。制作過程で少しでもセンシティブな内容だと思ったら、自己解決せず、第三者に確認してもらうようにして最大限配慮しています。言うまでもありませんが、Z世代に価値観が「古臭い」と思われてしまったら、例えほかの面でいいところがあったとしても、コミュニケーションをとったり、メッセージを届けるのは難しくなります。
若い世代向けコンテンツをつくる際、知っておくべきメディア
実際に情報収集として役立つメディアをいくつかご紹介します。まずは、Z世代がつくり手のウェブサイト「NO YOUTH NO JAPAN ※外部リンクに移動します」はU30世代のための政治と社会の情報を発信していて、若い世代が何に興味関心があり、何を知らないのかなどを知ることができます。また、イギリスのマガジン「gal-dem ※外部リンクに移動します」もおすすめです。さまざまな人種の人たちが発信しているgal-demでは、日本でマイノリティーと呼ばれる人たちが、自分たちを取り巻く問題を自身の言葉で語っていて、私たち発信者がマイノリティーの人たちに対してどのような配慮が必要なのかを知ることができます。
最近ではアジア人へのヘイトクライムが増加するなど、アジア人のアイデンティティーについて考える機会も増えてきました。逆に世界の問題を日本語に翻訳して国内に向けて発信しているメディアから、海外の社会課題を学ぶことができます。また、ポップカルチャーも含め、アジア人に関するニュースを知るメディアとしては、「Asian Feed ※外部リンクに移動します」や「Very Asian ※外部リンクに移動します」がおすすめです。
オフラインから、「身近な人を傷つけない」意識を持つこと
発信者の価値観や思考は、良くも悪くもコンテンツに反映されます。結局は、友人や家族間でのコミュニケーションなど、日常から人を傷つけない意識を持つことが、最も「人を傷つけないコンテンツづくり」につながります。
では、「人を傷つけない」方法を知るにはどうすれば良いか。それは、地道な作業ではありますが、自分の知らない世界の問題について学び、気になるキーワードがあったら自分で調べて知識として取り入れること。情報が溢れるようにある現代で情報をそのまま鵜呑みにするのは危険なので、それを参考にし自分で判断し考えることは必須と言えます。実際、誰もが程度は違えど、なんらかのマイノリティー性を持っていると思います。いろんな人の意見やストーリーを知るなかで、意外なところで共感するなど自分に対しての新たな発見もあるかもしれません。そうすることで、さまざまな価値観を知ることができるだけでなく、自分が多様な社会の一部、つまり当事者であることを認識するきっかけにもなります。結果、Z世代にも、ミレニアル世代にも届くコンテンツを発信できるようになるのです。
■プロフィール
平山 潤
1992年神奈川県相模原市生まれ。成蹊大学卒。ウェブメディア「Be inspired!」編集長を経て、現在は「NEUT Magazine」創刊編集長を務める。同メディアでは、「既存の価値観に縛られずに生きるための選択肢」をコンセプトに、先入観に縛られない視点を届けられるよう活動中。
NEUT Magazine ※外部リンクに移動します
■スタッフクレジット
文:平山潤、Honoka Yan 写真提供:kuno mirei<メインカット>、Takanobu Watanabe<平山潤ポートレートカット>、平山潤<記事内> 編集:服部桃子(株式会社CINRA)
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