監修者プロフィール:
内山 智絵(うちやま ちえ)
公認会計士
大学在学中に公認会計士試験に合格。大手監査法人の地方事務所で上場企業の法定監査などに10年ほど従事したが、出産・育児をきっかけに退職。現在は個人で会計事務所を開業し、中小監査法人での監査業務を継続しつつ、起業女性の会計・税務サポートなどを中心に行っている。
【目次】
源泉徴収とは給与や報酬から天引きして所得税を納税する仕組み
源泉徴収の対象となる所得
源泉徴収の計算方法
源泉徴収の手続き
源泉所得税納付の際の注意点
源泉徴収のまとめ
源泉徴収とは給与や報酬から天引きして所得税を納税する仕組み
源泉徴収とは、会社員やパート、アルバイトの方などの1月~12月までの給与や報酬から所得税をあらかじめ差し引き、給与や報酬の支払いもとの企業などが代わりに所得税の納税する制度です。
源泉徴収制度の目的は、納税の確実化と税収の安定化をはかることです。毎月、源泉徴収によって所得税が給与などから天引きされるため、一定の税収を確実に得られ、税収も安定します。納税者は年末調整や確定申告の際に、不足の税額を支払う、もしくは還付される仕組みとなっています。
源泉徴収を行うことで、一定の条件に当てはまらない限り、確定申告を行う必要がなくなり、従業員の負担を軽減させることができます。一方で、企業側には計算ミスや手続きミスが起こると、企業の責任となるため、注意が必要です。
所得税は、1月~12月分の所得に対して課税されます。前年の所得や家族構成などを参考にしながら概算で税額を計算して源泉徴収を行います。企業が源泉徴収を行うことで、従業員は条件に当てはまらない限り確定申告を行う必要がなくなりますが、以下の条件に該当する場合は、自身での確定申告が必要となります。
・給与所得が2,000万円を超える場合
・2ヶ所以上から給与をもらっている場合
・副業での所得が20万円を超える場合
・住宅ローン控除を初めて受ける場合
・医療費が100,000円以上かかったので、医療費控除を受けたい場合
・ふるさと納税でワンストップ制度を使わない場合
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源泉徴収の対象となる所得
源泉徴収の対象となる所得は、給与所得、退職所得、報酬や料金です。それぞれについて解説します。
給与所得
源泉徴収の対象となるのは、従業員に支払われる給与や賞与(ボーナス)です。給与支払者である企業側は、所得税法に基づいて計算し、源泉徴収された税額を給与明細に明記します。
給与所得には、基本給のほか、残業手当や家族(扶養)手当などの各種手当なども含まれますが、通勤手当などの一定金額以下のものは、国税庁の「No.2582 電車・バス通勤者の通勤手当(外部サイトに移動します)」のとおり非課税となります。たとえば、公共交通機関(電車・バスなど)のみを利用している場合は、1ヶ月あたり15万円までは非課税です。
退職所得
退職金などの従業員の退職によって支払う手当は退職所得となり、源泉徴収の対象です。退職金の金額や勤務年数などによって定められている控除額を適用し、税額を計算します。
報酬や料金
国税庁「No.2792 源泉徴収が必要な報酬・料金等とは(外部サイトに移動します)」でも確認できる通り、弁護士、税理士、公認会計士、司法書士等の特定の資格を持つ方々に支払う報酬や、講演料なども源泉徴収の対象です。これらの報酬は支払う際には、一定の割合(国税庁「No.2792 源泉徴収が必要な報酬・料金等とは(外部サイトに移動します)」)で税金を天引きし、税務署に納付しなければなりません。
源泉徴収の計算方法
給与所得、退職所得、報酬や料金、それぞれの源泉徴収の計算方法を説明します。
給与所得の源泉徴収
給与に対する源泉徴収の金額は、給与の支払方法(月払いや日払い)や社会保険料の金額、家族構成などによって変わります。そのため、扶養家族の数や社会保険料控除額を基に国税庁が提供する「給与所得の源泉徴収税額表(月額表)(外部サイトに移動します)」に従って税額を計算します。
賞与に関しても給与と同様の計算方法で、国税庁が提供する「賞与に対する源泉徴収税額の算出率の表(外部サイトに移動します)」に従って税額を計算します。
退職所得の源泉徴収
退職所得に対する源泉徴収額は、退職金の総額から勤務年数などに応じた控除額を差し引いた所得金額に、所得額ごとの税率を適用して計算します。退職所得控除額の計算方法は下記のとおりです。ただし、前年以前に退職金を受け取ったことがある場合など、計算方法が異なる場合もあります。不明な点がある場合は、顧問税理士などに確認しましょう。
退職所得控除額が計算できれば、退職所得の金額が算出できます。
退職所得額の計算方法は下記の通りです。
(一般退職)退職所得の金額=(収入金額-退職所得控除額)×1/2
源泉徴収税額は、国税庁HPにある「退職所得の源泉徴収額の速算表(外部サイトに移動します)」に基づいて計算します。
たとえば、勤続年数10年、退職金500万円の一般退職の場合
退職所得控除額は、400,000円×10年=4,000,000円
退職所得金額は、(5,000,000円-4,000,000円)×1/2=500,000円
源泉徴収税額は、 (500,000円×5%)×10.21%=2,552円
報酬や料金の源泉徴収
報酬や料金に関する源泉徴収税額の計算方法や税率は、報酬などの種類によって異なります。詳細は、国税庁のHP「No.2792 源泉徴収が必要な報酬・料金等とは(外部サイトに移動します)」で確認できます。
たとえば、専門家への報酬や講演、原稿料の支払いの場合には、下記の計算式で計算します。同一人に1回に支払う金額が100万円を超える場合、100万円を超える部分は、20.42%の税率になるので注意が必要です。詳細は国税庁「No.2795 原稿料や講演料等を支払ったとき(外部サイトに移動します)」で確認できます。
100万円を超えない場合と超える場合の計算式は下記のとおりです。
・同一人に1回に支払う金額が100万円を超えない場合
源泉徴収税額=支払金額×10.21%
下記の計算式で計算します。
・同一人に1回に支払う金額が100万円を超える場合
源泉徴収税額=(支払金額-100万円)×20.42%+102,100(100万円分の源泉徴収税額)
源泉徴収の手続き
源泉徴収の手続きにおける「源泉徴収票の発行」「納付手続き」の方法について説明します。
源泉徴収票の発行方法
・給与所得
給与支払者は、年末調整後の12月~翌年1月末までに源泉徴収票を作成し、従業員に交付しなければなりません。源泉徴収票のフォーマットは国税庁のホームページ(外部サイトに移動します)よりダウンロードできます。
支払者である会社および従業員の方の情報(住所や氏名など)、従業員の方の年間の収入額や所得控除額、源泉徴収された税額など、該当する箇所に以下の内容を入力、もしくは記載します。
従業員が退職した場合には、退職後1ヶ月以内に源泉徴収票を退職者に交付する必要があります。
・退職所得
退職所得を支払った場合には、退職所得の源泉徴収票には、支払った従業員の情報や支払金額、源泉徴収税額などを記載する、「退職所得の源泉徴収票・特別徴収票」を作成し、税務署に提出するとともに、退職者に交付する必要があります。退職所得の源泉徴収票・特別徴収票のフォーマットは国税庁のホームページ(外部サイトに移動します)よりダウンロードできます。
・報酬や料金
報酬等に対して源泉徴収を行うと、源泉徴収票の代わりに報酬の支払者の情報や報酬内容、支払額や源泉徴収税額などを記載する「支払調書」を作成し、税務署に提出する必要があります。ただし、報酬等の支払者への交付義務はありません。報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書のフォーマットは国税庁のホームページ(外部サイトに移動します)よりダウンロードできます。
納付手続き
源泉徴収した所得税は原則、給与や賞与などを支払った翌月10日までに毎月、税務署に納付することが義務付けられています。納付期限を守らないと、延滞税が課されることがあるので注意が必要です。ただし、給与の支払人数が常時10人未満の場合などには、納期の特例手続きを行うことで半年分をまとめて納付可能です。特例の詳細は、国税庁HP「No.2505 源泉所得税及び復興特別所得税の納付期限と納期の特例(外部サイトに移動します)」で確認できます。
なお、「国税クレジットカードお支払いサイト(外部サイトに移動します)」などを活用すれば、オンラインで手軽に納付手続が行えます。アメリカン・エキスプレスのビジネス・カードでもお支払いいただけます。
源泉所得税納付の際の注意点
源泉徴収義務者は、源泉徴収した税額を適切に管理し、税務署に報告する義務があります。税務署への報告は法的義務です。また、毎年1月末までに、従業員などに交付した前年度分の源泉徴収票や支払調書を指す法定調書を、税務署に提出しなければなりません。
税務署は「源泉徴収義務者から報告された内容」と「納税者の申告内容」を照合し、正しく納税されているかを確認します。源泉徴収を正しく行わなかった場合、加算税や延滞税などのペナルティが課される可能性があります。適切な手続きを行わないことで、企業の信用を失うリスクもありますので注意が必要です。
源泉徴収のまとめ
源泉徴収についての要点を以下にまとめます。
・源泉徴収は、給与や報酬からあらかじめ税金を差し引くことで、会社員やパート・アルバイトの方などの所得税の納税を簡便にする制度
・源泉徴収の対象となる所得:給与所得(賞与も含む)、退職所得、専門家への報酬など
・源泉徴収票は1年分の所得や税額を記入する書類で、翌年の1月に管轄の税務署に提出する法定調書の1つ
・源泉徴収を正しく行わないと、加算税や延滞税などのペナルティが課され、企業の信用を失う可能性があるため注意が必要
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