“想い”が引き寄せた共同経営者
株式会社テーブルクロスについて教えてください。
城宝 薫 (以下、城宝):私たちの会社は、利益だけを求めているのではなく、CSV(Creating Shared Value)、いわゆる共通価値の創造を目的として社会課題の解決に取り組み、その結果として経済的な価値を生み出すことも目指しています。その背景には、高校1年生のとき(2009年)に、姉妹都市の親善大使として2週間滞在したアメリカ・オークランドでの経験がありました。現地のNPOスタッフが、「社会課題を解決したいのであれば、利益を生む持続可能な仕組みをつくらなくてはいけない」という話をしてくれたんですね。それまで社会貢献をするには寄付や無償のボランティアしか方法がないと思っていたので、そういう形でビジネスを行えることに驚き、興味を持ちました。
2014年、大学3年生のときに起業されたそうですね。
城宝 :飲食店でアルバイトをしていたことも影響し、飲食と社会貢献を組み合わせたビジネスモデルを組み立てて、2014年に会社を立ち上げました。祖父が起業家で、子どもの頃から会社や経営の話を聞いて育ったのも大きかったと思います。「誰のために、何をするかだよ」というのが祖父の口癖でした。子どもの頃に訪れたインドネシアで、自分とあまり歳の変わらない子が思うように食事を取れていないことに衝撃を受けたことが原体験となり、レストランの予約が1件入るごとに、ゲスト1人あたり10食の給食を支援するスキームをつくりました。現時点で、約69万食(2024年8月時点)の給食を届けることができています。
(左)株式会社テーブルクロスCEO城宝薫氏。(右)同社COOトソ・セルカン氏。
5年後の2019年にセルカン氏が共同経営者として加わっていますね。
トソ・セルカン (以下、セルカン):私はトルコのボアズィチ大学を卒業したあと、トルコの通信会社で働いていました。あるとき、若者のダボス会議(世界経済フォーラム年次総会)と呼ばれる“One Young World”のサミットにトルコ代表の1人として出席しました。同世代の人たちが社会課題に真剣に取り組んでいる姿を見て、自分も彼らと同じように取り組みたいと思ったんです。アメリカにTOMS(トムス)という靴メーカーがありますが、彼らは「1足の靴が売れるたびに、途上国の子どもたちに新しい靴を1足贈る」ことを決めて経営を続けています。自分も同じようなビジネスをやりたいと一念発起し、eビジネスの修士号を取得することに決め、欧米以外の国へ留学したかったので、日本の大学院に進学。その後、日本で感銘を受けた多様な食文化を外国人観光客に向けて紹介したいと考え、東京での食体験の予約プラットフォーム「Tokyo by Food」を立ち上げました。飲食店に予約が入ると、途上国に給食を届けるというスキームでした。
テーブルクロスとまったく同じコンセプトで、同じようなサービスを立ち上げていたんですね。
セルカン :そうなんです。
城宝 :そうしたら、共通の知人が「同じことをやっている」と気がついたんですよ。その方から紹介してもらい、約半年でセルカンにジョインしてもらいました。共同で経営することになるので、主に条件面のすりあわせをしっかり行いました。この段階をおろそかにし、後々もめるケースをよく耳にしていたためです。とはいえ、私たちの場合は「お金よりも、自分たちのやりたいことを優先したい」という点が共通していたので、インバウンド用に投資した中で迎えたコロナ禍も、なんとか乗り切ることができたと思います。
どのように乗り越えていったのでしょうか?
城宝 :実は、コロナ禍の3年間、ずっと黒字だったんですよ。雇用調整助成金ももらわずに。厚生労働省の雇用調整助成金を利用する条件をクリアすることが厳しかったんです。それもあって、かなり早い段階で「コロナ禍も働いて会社を継続する」ことに舵を切ったんですね。2019年から農林水産省と協働で「EAT! MEET! JAPAN」というプロジェクトを立ち上げており、プラットフォーム事業とは別に、コンサルティング事業が会社のポートフォリオにあったことも功を奏しました。新規に起業されるお客様や、新規にインバウンド向け事業を始めたいお客様向けのマーケティングの伴走をしていたんです。コロナ禍は何年続くか分からないので、こちらを柱にして会社を存続させようと。
セルカン :まずは固定費を徹底的に見直しました。会社で払っている固定費をリストアップして、大きなものから順番に削っていきました。
城宝 :コロナ禍が始まった2020年の3月にはこの作業をしていました。オフィスは登記の問題があるので、年間1万円で済むところへ変更し、固定電話も解約しました。
そのような経営の意思決定は2人で行われていったのでしょうか?
城宝 :私が1人で先走って決めていくので、それをセルカンがたしなめながらまとめていく感じです(笑)。
セルカン :いつも検討中の共有がないので(笑)。でも、そのときは迷っている時間もなかったですし、みんなで働いて乗り切ると決めたので、比較的すぐに方針が決まりました。コロナ禍の間、プラットフォーム事業の売上はゼロでしたが、コロナ禍が終わったときにすぐに走り出せるよう、コンテンツを増やすなど、投資は続けていました。
「食を通じて幸せをひろげる」ための仕組みづくり
「Food for Happiness Program」(外部サイトに移動します)を通じて提供された学校給食を食べる子どもたち。
「Food for Happiness Program」についても教えていただけますか。
城宝 :「byFood.com」を通じて1件予約が入ると、ゲスト1人につき世界の子どもたちへ10食の給食を届けるという学校給食プログラムです。また、支援先に対して一緒に寄付をしたいという個人・法人の方にも門戸を開いています。例えば、従業員同士で相互にほめるアプリを開発している企業様は、1人ほめると1食寄付といったような感じで、自社のサービスと連携させる形でこのプログラムを活用いただいています。コロナ禍でも寄付は少ないながら、止まらずに続いていました。
「byFood.com」はもともとセルカン氏が立ち上げられていた事業ですよね?
セルカン :はい、「Tokyo by Food」がベースになっています。もともと、世界のフードトラベルのプラットフォームをつくりたいと思っていました。食事だけでなく、食事にまつわる体験もコンテンツとして一緒になったものです。ただ、当時携わっていたのは私1人だけで、予算も50万円のみでした。いろいろな人に助けてもらってつくっていました。
城宝 :「byFood.com」は、1つのウェブサイトではあるんですが、予約や支払い、伝票作成など、実は裏側で様々なものが動いているんです。加えて食関連商品のECサイトとしての面もあって、海外から注文が入ると、店側は伝票から明細まで自動で発行でき、外国語に明るくない場合でも対応できるようにつくってあります。
セルカン :日本の場合、飲食店の予約は約9割が電話経由という状況なので、日本語が話せない外国人でも予約できるようにシステムから自動で店に電話をし、予約情報を伝えるフローになっています。電話を受けた店側は「1」を押したら予約可、「2」を押したら不可と回答できるようになっています。いずれはAIを使ってもう少し細かな対応ができるようにしたいですね。
給食が提供される国はどのように選ばれるのでしょうか?
城宝 :最初はインドネシアやケニアで行っていましたが、コロナ禍のあたりからアフリカのマラウイに絞って行っています。1食あたり15円を原資として出させていただいている都合上、GDPの低い国でないと支援にならないという現状があります。例えば今、フィリピンだと1食あたり40円でも足りないんです。
セルカン :世界にはいろいろな支援団体がありますが、支援のその先を直接確認したいということもあって、支援先のNPOは自分たちで選んでいます。毎月送られてくるレポートを見て、支援が正しく届いていることも確認しています。
円安が続いていますが、支援も影響を受けていますよね?
城宝 :経営に関して言えば、円安もありますし、物価高騰の影響もあります。これは経済の原理でもあるので、自分たちだけではどうにもならない問題ですが。ただ、支援に関しては、連携するNPOの協力もあり、このような情勢でも変わらず給食を届けられているので、ありがたいです。
会社のあるべき姿を追求してつくったチーム
株式会社テーブルクロスのメンバーたち。一人ひとりの個性が光っている。
テーブルクロスのスタッフはグローバルなメンバーで構成されていますね。どのようにチームをつくりあげてこられたのでしょうか?
城宝 :狙ってつくったというより、必然的にそうなっていった、というのが正しいと思います。日本語が話せなかったとしても、組織に必要なスキルを持っている人であれば採用、というスタンス、ジョブ型採用と言われているようなスタンスです。それを続けていたら、こうなりました。
採用手法としては専門のエージェントなどを通されているのでしょうか?
城宝 :今はリンクトインですね。エージェントにコストをかけるなら、その分をスタッフに還元したほうがいいと考えています。
セルカン :今は社内からのリファラル(紹介)も多いです。現在、全部で60名くらいの組織になっていますが、そのうち10名はリファラル採用です。
城宝 :特に狙っていたわけではないのですが、8名のマネージャーのうち6名が女性で、子育て中の人もいます。国籍もフェアに見ているので、日本、アメリカ、オーストラリア、ウルグアイ、フランス、トルコ、ペルーなど、社内は多国籍です。48名が日本採用で、残りの約10名は、フィリピン、インドネシア、トルコ、アルジェリアなどに在住。主にITのエンジニア職がフルリモートとして海外にいます。
セルカン :結局、最後は人柄だと思っています。日本人でもそうでなくても、変な人は変ですし、いい人はいい人です(笑)。
テーブルクロスのこれからの展望についても教えてください。
セルカン :グローバル展開ですね。もともと自分は、「Tokyo by Food」を、フード・エクスペリエンス(食にまつわる体験)ができる場をつくりたいと思って始めた、という経緯があります。「byFood.com」も今年の7月から中国語対応を始め、より多くの方に使っていただけるようになりました。今後、日本だけでなく、海外でも同じようにサービスを展開できればと思っています。
城宝 :今、再びインバウンドが盛り上がっていますが、日本は2030年に訪日外国人旅行者数6,000万人、消費額15兆円を目指すと発表しています。ここには地方への誘客の強化や、オーバーツーリズムの防止なども盛り込まれています。きちんと受け入れ態勢が整い、世界中のお客様が地方都市を訪れれば訪れるほど、地域社会は活性化し、学校給食も届けられるということになります。コロナ禍を経て、今、テーブルクロスでも前年対比の収益が300〜400%という状況にあります。目先の業務にしっかり取り組みながら、次の候補地となる国の選定にも入りたいと思っています。
最後に、仲間である経営者の皆さんに向けてコメントをいただけますか?
城宝 :テーブルクロスは今、経営でいうところの「組織100人の壁」や、「売上何十億円の壁」といった成長の転換点にいます。経営者として、まずはそういったタイミングで必要になる知見を吸収したいと思っています。一方で、円が他国の通貨に比べてこれだけ弱くなっている中でグローバル組織を運営するのは、採用や広告費など、コストの面でも苦労は多いです。切磋琢磨しながら、成長は止めないという精神で前を向いていきたいと思います。そして、そこで得た知識や経験は、できるだけ多くの企業や経営者の方々にもシェアしていければいいなと思っています。一緒に頑張りましょう!
セルカン :今までの経験を踏まえて、「少ないリソースで何ができるか?」ということはいつも考えています。会社が大きくなるタイミングでも、その姿勢は変えずにアプローチしていくのが大事かなと思っています。
■プロフィール
城宝 薫(じょうほう・かおる)
株式会社テーブルクロス CEO/最高経営責任者
1993年生まれ。幼い頃のインドネシアへの家族旅行や、中学高校時代の生徒会活動、親善大使活動などを通してボランティアや社会貢献に関心を抱く。起業家の祖父の影響で創業に興味を持つ一方、親善大使として訪れたアメリカNPOの実情を見て、ビジネスと社会貢献を両立させる道を知り、2014年、立教大学経済学部在籍中に株式会社テーブルクロスを創業。
トソ・セルカン
株式会社テーブルクロス COO/最高執行責任者
トルコ出身。ボアズィチ大学卒業後、大手通信会社に入社。IT分野について学ぶため、新潟県にある国際大学の大学院へ留学。日本のEコマース企業に就職し、在籍中に、東京を訪れる外国人観光客に日本食の情報を提供するプラットフォーム「Tokyo by Food」を立ち上げ、1件の予約でゲスト1人あたり10食の給食を提供する「Food for Happiness Program」を開始。2019年、同様のサービスを展開していた株式会社テーブルクロスの共同経営者となる。
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■スタッフクレジット
取材・文:小林 渡(AISA) 編集:日経BPコンサルティング