■監修者プロフィール
嶋田 毅(しまだ・つよし)
東京大学理学部卒、同大学院理学系研究科修士課程修了。戦略系コンサルティングファーム、外資系メーカーを経てグロービスに入社。グロービス経営大学院や企業研修において経営戦略、マーケティング、事業革新、管理会計、研究プロジェクトなどの講師、累計160万部を超えるベストセラー「グロービスMBAシリーズ」の著者、プロデューサーも務める。著書に『グロービスMBAキーワード 図解 基本フレームワーク50』(ダイヤモンド社)、『MBA100の基本』(東洋経済新報社)など。
【目次】
1.SWOT分析とは? ビジネスに役立つフレームワークの基本と目的
1-1.SWOT分析を構成する4つの要素「強み (Strengths)」「弱み (Weaknesses)」「機会 (Opportunities)」「脅威 (Threats)」
2.SWOT分析を行う際のポイント
2-1.目的を明確にする
2-2.メリットやデメリットを理解する
2-3.幅広い視野で意見を出し合う
2-4.最新の情報をもとに分析を行う
3.SWOT分析、どうやればいい? 実施方法をチェック
3-1.内部要因である「強み」と「弱み」を特定するには
3-2.外部要因である「機会」と「脅威」を特定するには
3-3.SWOT分析を誰よりも活用する! 戦略立案や意思決定への応用
4.SWOT分析の具体例は? 大手ファストフード店のケーススタディ
5.【テンプレート】SWOT分析を自社で実施してみよう
6.これだけは知っておきたい、SWOT分析の注意点
7.SWOT分析の代替手法はあるのか? 「クロスSWOT分析」や他のフレームワークとの比較
8.SWOT分析を使い、自社ビジネスの戦略を高めるために
1. SWOT分析とは? ビジネスに役立つフレームワークの基本と目的
ビジネス戦略の策定やプロジェクトの成功に大きく貢献する「SWOT(スウォット)分析」。いまや多くの企業・個人が取り入れている分析手法であり、事業の課題解決・意思決定、アイデア出しのために構造化されたフレームワークのひとつです。
SWOT分析は、企業やプロジェクトの「強み(Strengths)」、「弱み(Weaknesses)」、「機会(Opportunities)」、「脅威(Threats)」といった要素を明確にし、それらを適切に評価することで、最適な戦略を立案することを目的としています。今回はこのフレームワークを利用し、ビジネスの成功を実現する道筋を見つけるために、その基本的な活用方法や代替案まで詳しく解説します。
なお、まずは短時間でその内容を知りたい、おさらいしたい方は、以下の動画をおすすめします。
>>>【動画】忙しい起業家が1分動画で理解できる「SWOT分析」
[BUSINESS CLASS:The Series Episode 4] 早わかり「SWOT分析」
1-1. SWOT分析を構成する4つの要素「強み (Strengths)」「弱み (Weaknesses)」「機会 (Opportunities)」「脅威 (Threats)」
SWOT分析はビジネス戦略を策定するための有用なフレームワークであり、それぞれの要素は、組織の現状と未来の可能性を明らかにします。
1. 強み(Strengths)/内部要因
「強み(Strengths)」は組織の内部要因であり、自社が競合他社に対して有利なポイントを示します。わかりやすい例では、秀でた技術力、独自の製品、優秀なチームなどが該当します。
2. 弱み(Weaknesses)/内部要因
「弱み(Weaknesses)」も内部要因で、組織が改善すべき領域を示します。例えば製品の欠点や技術的な遅れ、人材不足などが挙げられます。
3. 機会(Opportunities)/外部要因
続いて外部要因である「機会(Opportunities)」は、市場や環境の変動によって生まれるチャンスを指します。新市場の登場、消費者の需要変化、さらには法律や政策の変更などが機会になり得ます。
4. 脅威(Threats)/外部要因
「脅威(Threats)」も外部要因であり、組織の成功を阻む可能性のあるリスクを示します。例えば新規競合他社の出現や法規制の厳格化、経済の不安定化などが考えられます。
2. SWOT分析を行う際のポイント
SWOT分析は、企業が自身の強み、弱み、機会、脅威を評価し、戦略的な意思決定を行うための有力なツールです。しかし、より効果的なSWOT分析を行うためには、いくつかの重要なポイントを押さえておく必要があります。これらのポイントを理解し実践することで分析の精度が高まり、ビジネスの競争力を強化するための実践的な洞察を得ることができます。以下に、SWOT分析を行う際に特に注意すべき要点を紹介します。
2-1. 目的を明確にする
SWOT分析を効果的に活用するためには、まず目的を明確にすることが大切です。目的を明確にしないまま分析を始めると、SWOT分析そのものが目的化し、本来の目標達成に寄与しない結果に陥ってしまう可能性があります。
例えば、新規市場への参入、既存事業の強化、競合他社との差別化戦略構築など、具体的な目的を設定することで、分析が一貫した方向に進み、実際のビジネス戦略に直結する洞察が得られます。
目的を明確にするプロセスでは、組織のビジョンやミッションを再確認し、それに基づいた具体的な目標を設定します。「市場シェアの拡大を目指すための戦略策定」や「新製品の開発に向けた内部資源の評価」など、具体的な目的を持つことで、分析の焦点が定まり、結果として実行可能な戦略を導き出すことができます。
さらに目的が明確であれば、分析の過程で収集するデータや情報の選定が容易になるため、時間とリソースを効率的に活用できます。
2-2. メリットやデメリットを理解する
SWOT分析はビジネス環境を包括的に評価するための便利なフレームワークですが、その効果を最大限に引き出すためには、メリットとデメリットを正しく理解することが重要です。
メリット:
1. 包括的な視点で全体像を把握できる:SWOT分析は内部環境(強みと弱み)と外部環境(機会と脅威)を総合的に評価するため、ビジネスの全体像を把握するのに役立ちます。
2. シンプルで使いやすい:フレームワークが非常にシンプルなため、経営陣から現場のスタッフまで幅広く利用でき、チームを超えて共有できます。
3. 戦略の明確化:フレームワークにより、自社の強みを活かし弱みを補う戦略、あるいは機会を活かし脅威を緩和する戦略を具体的に策定しやすくなります。
デメリット:
1. 主観的な判断に偏る:分析が担当者の主観になりやすく、バイアスがかかる可能性があります。これにより、分析結果が過度に楽観的、または悲観的な結論に至るリスクがあります。
2. 定性的な評価が中心:SWOT分析は定性的な評価が中心となるため、具体的な数値データに基づく詳細な分析には限界があります。
3. 情報の更新が必要:外部環境の変化に対応する必要があるため、定期的な見直しと更新が必要です。古い情報に基づいた分析は、誤った戦略につながる可能性があります。
2-3. 幅広い視野で意見を出し合う
前述のデメリットでも触れたように、SWOT分析を効果的に行うためには、幅広い視野、多様な視点から意見を出し合うことが重要です。例えば分析を行うチームに、マーケティング、人事、ITシステムなど各部門から代表を集めることで、特定の部門や視点に偏らない、バランスの取れた分析ができます。
また個々の意見や先入観が分析に影響を与えることを避けるために、議論の過程で各メンバーが自由に意見を述べられる環境を整えることも大切です。分析を行う際はファシリテーターの役割を設定し、意見の出し合いを円滑に進めることも有効です。
2-4. 最新の情報をもとに分析を行う
SWOT分析を行う際には、最新の情報を基にすることが極めて重要です。市場の動向や競合他社の動き、新たな技術の進展など、外部環境の変化を適宜把握することで、機会と脅威を正確に評価することができます。例えば、新技術の登場により市場が急速に変わる場合、その影響を考慮した戦略を策定することが必要です。
また最新の市場情報を収集するためには、信頼性の高い情報であることも重要です。業界レポートや顧客調査など、客観的で信頼性の高い情報をもとに分析を行うことで、より精度の高いSWOT分析が可能になります。
このほかにも、現在の自社の状況を正確に反映した分析を行うために、業績データや顧客フィードバック、従業員のスキルセットなど、内部情報を最新の状態に保つことで自社の強みと弱みを正しく評価することができます。
3. SWOT分析、どうやればいい? 実施方法をチェック
前述の4つの要素を深く理解して分析することで、自社のビジネスの目指すべき方向を見極めることができ、戦略を効果的に策定することができるようになります。
では実際に、どのようにそれぞれの要素を深掘りし、SWOT分析に組み込んでいけばいいのでしょうか。その実施方法をチェックしてみましょう。
3-1. 内部要因である「強み」と「弱み」を特定するには
SWOT分析の実施時に最初に検討すべきは、組織の内部要因、すなわち「強み」と「弱み」を見つけることです。
強みを特定するためにはまず、日ごろベンチマークとしている競合他社の製品やサービス、ビジネスへの考え方などを調査・分析したり、顧客視点で自社を振り返ったりしてみましょう。これにより、自社の優れている領域を洗い出すことができます。
業界でのノウハウや技術力、独自性のある製品やサービス、資産など、自社の競争力を生み出す強みの要素をリストアップしましょう。
一方、弱みを明らかにするためには、自社が競合他社に対して劣っている、または改善が必要な領域を探すことや、顧客が自社の製品・サービスを選ばなかった理由を考える必要があります。
マーケティングの課題、人材の欠如、現在コスト負荷が大きい領域など、ビジネス運営において障害となる要素を挙げてみましょう。
3-2. 外部要因である「機会」と「脅威」を特定するには
内部要因が特定できたら、次は外部要因、つまり「機会」と「脅威」を探す必要があります。
機会は自社の置かれた環境に対し、プラスになるものを指します。市場の動向が追い風であることや技術の進歩、社会的なトレンドなど、新たなビジネスチャンスを生み出す可能性のある要素に目を向けましょう。
脅威を特定するためには、競合他社の戦略、市場の変動、経済状況、政策や法規制の変更など、自社のビジネスに対するリスクを含む要素をリストアップします。
内部要因と外部要因の評価を通じてSWOT分析を実施することで、自社の強みと弱み、機会と脅威を把握でき、戦略的な決定を下すための有力な情報として整理し、次の一手を打つことができます。
3-3. SWOT分析を誰よりも活用する! 戦略立案や意思決定への応用
このように内部要因である強みと弱みを正確に理解することで、企業は自身の能力と限界を明確に認識できます。強みを最大限に活用し、弱みを改善する戦略を練ることで、競争力を維持し、ビジネスのパフォーマンスを向上させることが可能となります。
外部要因を明らかにすれば、機会を活かす戦略を立案できます。脅威から組織を守る戦略を策定することで、持続可能な成長を目指す戦略が立案できます。
4. SWOT分析の具体例は? 大手ファストフード店のケーススタディ
SWOT分析を構成する4つの要素をより理解し、自社で展開するためには、他社の事例を当てはめて考えてみることも参考になります。大手ファストフード店を対象に、SWOT分析を行ってみましょう。
まず、内部要因について。「強み」としては、幅広い年齢層に対するブランド認知度の高さ、広範囲にわたる店舗ネットワークと、商品の開発力やそれを支える技術力、そして独自のサプライチェーン管理が挙げられます。これらは、競争力を維持し、市場で成功を収めるための重要な要素です。
一方、「弱み」には、価格競争による商品単価下落=利益の減少、またそもそも安価なファストフードであるため、利幅自体が薄く、広範な投資が難しいことなどが考えられます。
外部要因に目を向けると、「機会」としては消費者の健康志向、DXの浸透によってさまざまな技術を活用しやすくなっているといったトレンドも追い風となるでしょう。
「脅威」として外部要因を見ると、競合他社からの攻勢、食材価格自体の上昇、環境対応規制の強化などが挙げられるでしょう。
例えば機会である健康志向のトレンドを受けて、強みである商品開発力を活かせば、ヘルシーメニューの強化ができるでしょう。また店舗内のDX化の推進により、AIやロボットを活用してオペレーションを効率化することも、戦略のひとつとなり得ます。
5. 【テンプレート】SWOT分析を自社で実施してみよう
※このテンプレート画像を利用し、自社のSWOTを当てはめてみましょう。
要素を理解し、具体例から深掘りができたなら、上記のテンプレートを使用し、自社の戦略策定のためのSWOT分析を行ってみましょう。
6. これだけは知っておきたい、SWOT分析の注意点
SWOT分析を行う際に一番大切なのは、客観的かつ現実的に自社の状況を評価することです。分析は具体的かつ明確であるべきで、抽象的な表現や曖昧な情報は避けましょう。
自社の戦略を練るビジネスパーソンであれば、自社への想いや熱が入ることがあるでしょう。しかしその点にしっかりと注意し、自社の能力を過大評価したり、外部環境の脅威を過小評価したりすることなく、事実に基づいた評価を行うことが重要です。
1人でSWOT分析を行うのではなく、チームでこれを行うと、考え漏れが減りますし、事実に関する間違いを発見しやすくなります。さらにチームメンバーの認識のすり合わせができるためさらに効果的です。そして効果的なSWOT分析を行うためには、分析の結果を具体的な戦略やアクションに結びつけることが不可欠です。例えば、自社の強みを活かして新たな機会を捉える戦略や、弱みを補うための改善策をしっかりと考えることが求められます。
分析の結果をそのままにせず具体的な行動計画に変換し、それを実行に移すことで、SWOT分析の真の価値を引き出すことができます。
7. SWOT分析の代替手法はあるのか? 「クロスSWOT分析」や他のフレームワークとの比較
ビジネス環境の分析手法として広く知られているSWOT分析には、より詳細な洞察を得るためのバリエーションや他の分析手法が存在します。「クロスSWOT分析」はそのひとつで、SWOT分析で洗い出した「強み」もしくは「弱み」と、「機会」もしくは「脅威」を掛け合わせて4つのセルを作ることで、より深い洞察を得ることが可能です。例えば「強み」と「機会」を掛け算することで、どのようなポジティブな戦略の可能性があるか検討することができます。
また、他のフレームワークとしては、「政治(Politics)」「経済(Economy)」「社会(Society)」「技術(Technology)」の観点からマクロ環境を分析する「PEST分析」、業界の競争状況、さらには魅力度を評価する「5フォース分析」などがあります。これらの手法はSWOT分析と異なり、より特定の視点にフォーカスを当ててビジネス環境を評価します。
各分析手法はそれぞれ特有の視点と利点を持つため、自社の状況や目的に最も適した手法を選択し、適切に活用することが重要です。これにより、さらに深く、幅広いビジネスの洞察を得ることが可能となります。
8. SWOT分析を使い、自社ビジネスの戦略を高めるために
結果として、SWOT分析はビジネスの方向性を定め、意思決定を促進するための基盤を提供します。これにより、組織は競争力を維持し、持続可能な成長を達成することができます。
SWOT分析は自社の戦略立案や意思決定に非常に効果的なツールです。組織の強み、弱み、機会、脅威を深い洞察を通じて明らかにし、これらの知識を基に戦略を練ることで競争力を高め、ビジネスを成長させることが可能となります。
SWOT分析は、企業の競争力を理解し、未来の戦略を策定するための有効なフレームワークです。しかしながら、その効果は分析をどのようにビジネスに活用するかによって大きく左右されます。
大切なのは、分析結果を具体的な行動計画に変換し、それを実行に移すこと。また自社の状況や目的に応じて、SWOT分析だけでなく、ほかのフレームワークを適切に組み合わせることで、より深い洞察を得ることができるでしょう。これらすべてが、自社の成長に繋がる戦略を作り出すための重要なステップとなります。ぜひ、活用してみてください。
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文・編集:日経BPコンサルティング