焼きたてチーズタルト専門店「BAKE CHEESE TART」やバターサンド専門店「PRESS BUTTER SAND」など、9つのブランドを展開する株式会社BAKE。同社が手がけるお菓子は美味しさだけでなく、個性的かつ美しいデザインも支持され、根強いファンを獲得しています。
これまで、商品のブランドづくりに力を注いできたBAKEでは、昨年から会社全体のコーポレートブランディングにも着手。商品と同様、長く愛される企業となるために、取り組むべきミッションをあらためて問い直しました。
「長く事業をやっていると、いろいろなものがズレていく。自社がつくる価値を、繰り返し見つめ直すことが大事です」
そう語るのは、BAKEのブランディングやクリエイティブを統括するCCO (Chief Creative Officer)の柿﨑弓子氏。デザイナー出身である柿﨑氏が語る、魅力的な会社や商品をつくるためのコーポレートブランディングの重要性、そのアプローチとは?
おいしさの次に、デザインが大事
――お菓子のつくり方、見せ方、届け方を通して、「お菓子を、進化させる。」というビジョンを掲げ食のクリエイティブに注力されていますが、その背景には、どんな思いがあるのでしょうか?
BAKEでは「おいしさは保ちつつも、新しい挑戦をする姿勢」を大切にしています。その一つがデザイン。食のクリエイティブに力を注ぐことで、商品の魅力を最大限に引き出すことです。ロゴやパッケージはもちろん、ブランドごとにキービジュアルをつくり、ストアデザインまで自社で手掛けています。
柿﨑弓子氏
――たしかに、包装紙一つとっても魅力的です。一方で、食品のパッケージは、似たようなものが多いといった印象もあるのですが、日本の食品のデザインについてどのように見ていますか?
日本人の傾向として食に対して保守的なところがあるため、デザインもそのようになっていったのではないかと思います。口に入れるものですから無理もないのですが、どうしても多様なものが認められにくい。パッケージのデザイン一つとっても、美味しそうに見える色はコレ、ビールならこう、中華ならこう、というふうに定番的な「シズル感」の表現がありますよね。
ただ、最近はそうした趣向も変化してきていると感じます。契機となったのは、2010年代からのクラフトブーム。大手食品メーカーが守ってきた定番の表現にとらわれず、自由で個性的なプロダクトをつくる会社やクリエイターが現れ始めました。見た目だけでなく、美味しさの表現にもチャレンジし始めていて、それを受け入れる消費者も確実に増えているのではないかと思います。「よなよなエール」のヤッホーブルーイングさんなんかもそうですよね。
看板商品の一つ「BAKE CHEESE TART」
ブランドは「家族」。プロダクトの性格までイメージする
――クリエイティブデザインにこだわってブランディングをされていることがよくわかりました。ここで改めておうかがいしたのですが、BAKEにとって「ブランド」とは何ですか?
私は、ブランドは「家族」だと思っています。まず「BAKE INC.」という大きな家があって、そのなかに「PRESS BUTTER SAND」や「Chocolaphil」といったさまざまなプロダクトがいる。同じ家族でも役割やキャラクターがそれぞれ違うように、プロダクトにも各々の個性があるんです。
実際、新しいプロダクトのコンセプトをつくるときにも、家族をイメージします。「この子は長男でしっかりした性格」とか、「この子は末っ子だから……」みたいに(笑)。そうすると、個々のブランドのキャラクターが立つだけでなく、ブランド同士の関係性も築けるんですよ。
――様々なプロダクトが住む「家」、器であるBAKE INC.自体のブランディングにも力を入れているのでしょうか?
そうですね。各ブランドの魅力を底上げするためには、やはり器、つまりコーポレートブランディングにも力を入れる必要があると思っています。
ただ、これまでは正直、そこがあまりできていませんでした。特に初期の「BAKE CHEESE TART」や焼きたてカスタードアップルパイの「RINGO」などは、それぞれのブランド自体を尖らせることに意識を集中していて、会社としてのBAKEの存在はあまり表に出していなかったんです。最近になってようやく、SNSなどで「チーズタルトとバターサンドって、同じ会社がやってたんだ!」といった声も見かけるようになりましたが、まだまだ浸透しているとはいえません。いまは、BAKEという会社自体も好きになっていただけるよう、しっかり発信していくフェーズなのかなと思います。
2021年7月にリニューアルしたBAKEのコーポレートロゴ
そこで、いまちょうどBAKE自体のリブランディングに着手しています。昨年の7月から1年をかけて会社としてのミッション・ビジョン・バリューやビジュアルを整理し、今年7月1日に新CI(コーポレート アイデンティティ)を公表しました。今後は社内外への浸透に注力していければと考えています。
リブランディングに際し、名刺のデザインなども刷新
会社の価値を見つめ直すことが、リブランディングのヒントになる
――なぜ、このタイミングでリブランディングをすることになったのでしょうか?
BAKEは創業以来、8年間にわたって「お菓子を、進化させる。」ことに取り組んできました。もちろん、まだまだ発展途上ですが、そろそろ次のステップとして「その先」のことも積極的に伝えていきたいと思ったんです。
つまり、「『お菓子を、進化させる。』ことで、どんな社会をつくりたいのか?」。そのミッションを改めて問い直すために、社員や開発現場、ストアの店長たちなど、あらゆる従業員にアンケートをとり、声を集めました。
そこから導き出されたミッションは、「しあわせに、BAKEる(バケる)」。私たちは、お菓子を通して「しあわせ」を届けたいと思っていますが、そのためにはまず自分たち自身がしあわせでなければいけません。商品を考える人、つくる人、営む人など、ひとつのブランドに関わる一人ひとりが、いつでもしあわせを手に入れられるBAKEであり続ける。そんな私たちのしあわせが、食べる人のしあわせへと「BAKEる(バケる)」。そんな想いが込められています。
――社外だけでなく、従業員に向けたインナーブランディングの狙いもあるわけですね。
そうですね。これまで懸命に走り続けてきて、BAKEのお菓子は少しずつ世間の皆様に認知していただけるようになりました。しかし、一方で外側に目が向きすぎていて、社内のコミュニケーションが十分でないところはあったと思います。
これから先、事業を長く継続するためには、社員が想いを共有し、継承していくことが不可欠です。そのために、「自分たちは何のためにこの仕事をするのか」「社会に対してどんな意義があるのか」ということを、会社として従業員に示す必要があったんです。
――それは多くの企業にとって必要な考え方だと思います。同じようにコーポレートブランディングに着手されていたり、これから実施を検討している経営者に向けて、アドバイスをいただけますか?
一番大事なのは、自分の会社がやっていること、つくっているものの価値を何度も繰り返し見つめ直すことだと思います。長く事業をやっていると、いろいろなものがズレていくと思うんです。社会のニーズや時代とズレていくこともあるでしょうし、経営陣の思いと従業員の認識がズレていくこともあるかもしれません。
私たち自身も、今回コーポレートのリブランディングをしてみて、気づかされたことがたくさんあります。例えば、従業員の声を集めたときに驚いたのは、みんな想像以上に熱い想いを持って仕事に取り組んでいたこと。そんな現場の声から、会社の新しい価値に気づくこともたくさんありました。
おそらくどんな会社にも、自分たちが気づいていない価値があります。まずはそれを掘り起こし、言語化する。それが魅力的な会社やブランドをつくる第一歩ではないかと思います。
■プロフィール
柿﨑弓子
武蔵野美術大学 視覚伝達デザイン学科卒業後、デザイン事務所を経て、2016年に株式会社BAKEに入社。各ブランドのプロモーションや店舗グラフィックの制作、PRESS BUTTER SANDなどの立ち上げに携わる。現在は同社chief creative officerとして、同社のクリエイティブを統括。
BAKE INC. ※外部リンクに移動します
■スタッフクレジット
取材・文:榎並紀行(やじろべえ) 編集:服部桃子(CINRA)
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