【目次】
ストックオプションとは自社株式をあらかじめ定められた金額で購入できる権利
ストックオプションの仕組みと流れ
ストックオプションの種類
ストックオプションを導入する主なメリット
ストックオプションを導入する主なデメリット
ストックオプションを導入する際の注意点
ストックオプションのまとめ
ストックオプションとは自社株式をあらかじめ定められた金額で購入できる権利
ストックオプションとは、あらかじめ定められたある一定の価格(行使価格)で自社の株式を取得できる権利です。株式を発行している会社が役員や従業員に対して付与するもので、将来的に権利を行使して株式を購入し、売却することで利益を得ることができます。
一般的なのは、IPO(新規上場)を目指すスタートアップ企業やベンチャー企業などが、インセンティブプランとして活用している、税制における優遇措置が適用される「税制適格ストックオプション」です。まずは、この税制適格ストックオプションについて説明していきましょう。
税制適格ストックオプションを付与された役員や従業員は、上場後、一定期間が過ぎた後に権利を行使し、行使価格で株式を購入します。購入した株式を、将来的に株価が上がったタイミングで売却することにより、キャピタルゲイン(行使価格と売却額の差額)を得ることができます。
税制適格ストックオプションは、「無償でもらった権利が、将来会社が成功したときに大きな価値になる」ことがあるので、優秀な人材の労働意欲向上も期待できます。
なお、従来は社内の役員および従業員等に限定されていた税制適格ストックオプションの対象者は、2019年7月に施行された「中小企業の事業活動の継続に資するための中小企業等経営強化法等の一部を改正する法律(外部サイトに移動します)」により、スタートアップ企業やベンチャー企業の成長に貢献する社外の高度人材にも適用されるようになりました。改正の目的は、スタートアップの高度人材活用を推進して企業の成長を後押しすることであり、事業計画の認定を受ければ株式を売却するまで課税を繰り延べる税制優遇措置の対象となります。
また、税制適格ストックオプションと混同しやすいものとして、「新株予約権」や「従業員持株会」という言葉を聞いたことがある方も多いかもしれません。以下に、税制適格ストックオプションとの違いについて紹介します。
新株予約権との違い
新株予約権とは、予約権を発行した企業に対して行使することにより、その会社の株式の交付をあらかじめ定められた金額で受けられる権利です。新株予約権は、役員や従業員が対象の「社内向け」、資金調達や買収防衛のため社外投資家などに発行する「社外向け」、既存株主に無償発行する「無償割当」、株主総会の決議のもと、第三者に有利な条件で発行する「有利発行」の4つがあります。
ストックオプションは新株予約権の一種で、このうちの「社内向け」にあたります。
従業員持株会との違い
従業員の毎月の給与から拠出金を天引きし、集めた拠出金で自社株を共同購入するのが従業員持ち株会です。福利厚生の一環として導入する企業が多く、会社は給与控除のほか奨励金の支給などによって取得のハードルを下げ、従業員の資産形成をサポートします。
ストックオプションで得られるのは「権利」ですが、従業員持ち株会では実際に株を購入し、拠出金に応じて配当金を受けられる点が大きな違いです。
ストックオプションの仕組みと流れ
ストックオプションの具体的な仕組みや流れはどのようになるのでしょうか。ここでは、税制適格ストックオプションの権利付与から権利を行使して株式を購入、売却して対象者がキャピタルゲインを得るまでの流れを紹介します。
1. 会社が従業員に税制適格ストックオプションの権利を付与する
会社は、税制適格ストックオプション1個あたりの権利行使価格を決定し、「権利行使価格で株式を購入する権利」を従業員や役員などの対象者に付与します。
2. 税制適格ストックオプションの権利者が権利を行使する
上場後、一定期間が経過したら、税制適格ストックオプションの権利者が権利行使価格で自社株式を購入します。
3. 権利者が株式を売却し、キャピタルゲインを得る
会社の価値が上がり、株価が上昇した時点で権利を行使して株式を売却することにより、権利者はキャピタルゲインを得ることができます。
例えば、1株100円を行使価格とする税制適格ストックオプションを付与され、一定期間が経過して1株1,000円になった時点で権利を行使した場合、1株あたり900円安く株式を購入することが可能です。仮に1,000株購入したとして、この時点で売却すると、1,000株×900円=900,000円のキャピタルゲインになります。
ストックオプションの種類
ストックオプションには、税制適格ストックオプションを含め、主に以下のような種類があります。
・ 税制適格ストックオプション
・税制非適格ストックオプション
・株式報酬型ストックオプション
・有償ストックオプション
・信託型ストックオプション
ここでは、それぞれの特徴を見ていきましょう。
税制適格ストックオプション
税制適格ストックオプションとは、決められた価格で株式を取得する権利が無償で付与され、会社の業績が向上したときに権利を行使することによってキャピタルゲインを得ることができるストックオプションです。「租税特別措置法第29条の2(外部サイトへ移動します)」の要件を満たすものを指し、権利行使時の課税が免除されるなどの税制優遇が受けられます。ただし、契約締結から2~15年以内(設立5年未満の未上場企業の場合)に権利を行使する必要があります。スタートアップ企業やベンチャー企業などで、福利厚生として活用されるのが一般的です。
税制非適格ストックオプション
税制非適格ストックオプションは、株式取得の権利を付与される人が、金銭の支払いなどを行わずに権利を取得することができるストックオプションです。
無償で権利付与される点では税制適格ストックオプションと同じですが、租税特別措置法第29条の2の要件を満たしておらず、権利行使時に給与課税が適用されます。また、権利行使後の株式売却時にも譲渡所得として課税対象になります。
権利行使期限のある税制適格ストックオプションに対して、税制非適格ストックオプションは期間の制限がありません。また、税制適格ストックオプションは租税特別措置法第29条の2第1項により、第三者への譲渡が禁止されていますが、税制非適格ストックオプションは他人への譲渡が可能です。
株式報酬型ストックオプション
株式報酬型ストックオプションは、権利行使の価格を1円などの低い金額に設定することで、権利を行使した際の株価と同等のキャピタルゲインを得ることができます。退職時から一定期間に限り行使できるストックオプションであるため、一般的に退職金の代わり、または役員向けのインセンティブを目的に使われます。
株式報酬型ストックオプションは、前述の税制非適格ストックオプションを活用したストックオプションですが、給与課税ではなく退職金課税であり、権利行使時の税負担が比較的少なく済むメリットがあります。
有償ストックオプション
有償ストックオプションは、役員や従業員などの対象者が、あらかじめ設定された期間内に発行価額で自社の株式を購入する権利を得られるストックオプションです。会社側が定めた行使条件を達成することで、権利を行使して株式を購入、売却することでキャピタルゲインを得ることができます。行使条件は、業績や株価が一定水準に達するなど、事前に設定されることが一般的です。
信託型ストックオプション
信託型ストックオプションは、有償ストックオプションの一種で、信託を利用した報酬制度です。役員や従業員向けに発行したストックオプションをまとめて信託期間の満了期間まで信託に預け、それぞれの業績への貢献度合いなどに応じて付与したポイント数によって、ストックオプションが割り振られます。
信託型ストックオプションはまだ新しい仕組みですが、発行が一度で済むことや、割当先を後から決められること、発行済株式総数が増加して1株あたりの価値が低下する、いわゆる希薄化を防げるなどのメリットがあり、近年導入する企業が増えています。
ストックオプションを導入する主なメリット
ストックオプションを企業が導入するメリットは、大きく2つあります。
従業員のモチベーションが上がる
ストックオプションの権利を付与された従業員の仕事へのモチベーションが上がることが、企業がストックオプションを導入するメリットのひとつです。ストックオプションは、いわば自社の未来への投資です。自社の業績と株価、さらには従業員自身が得られるキャピタルゲインが連動して上がっていくことは、従業員の仕事に対するモチベーションを上げる原動力になるでしょう。
優秀な人材の採用や流出の防止につながる
ストックオプションという将来的なインセンティブを導入することにより、優秀な人材を採用したり、離職を防いだりできることも、ストックオプション導入のメリットとして挙げられます。企業が成功を収めるためには人材が重要です。どんなにすばらしい事業アイデアがあっても、それを遂行できるだけの技術や能力がある人材がいなければ、事業は成り立ちません。ストックオプションにより優れた人材の確保につながることで、さらなる事業の成長が期待できるでしょう。
ストックオプションを導入する主なデメリット
しかし一方で、デメリットもあります。主となる2つのデメリットについて説明します。
株価の下落で従業員のモチベーションが下がる
株価が下落すると、その分だけキャピタルゲインが減ってしまうため、従業員のモチベーションが下がってしまう可能性があります。株価は常に上下に変動するものであるため、必ずしも権利行使価格より株価が上昇するとは限りません。株価が下がれば当然キャピタルゲインは期待できないため、キャピタルゲインを目当てに入社した従業員や役員のモチベーションが下がる可能性があることはデメリットといえます。
権利行使後に退職する従業員もいる
ストックオプションの権利行使後に、従業員や役員が退職してしまう可能性があるのもデメリットといえるでしょう。キャピタルゲインを目的として入社した従業員や、転職や退職の意思がありつつキャピタルゲインが得られるタイミングを待っていた従業員は、ストックオプションの権利を行使して利益を得たら退職してしまうかもしれません。
ストックオプションを導入する際の注意点
企業がストックオプションを導入する際に注意すべき点は2つあります。
割当数は株式の持分比率から考える
発行している株式の総数に対して、対象者が保有している株式の割合のことを指す、株式の持分比率を考慮しておく必要があります。ストックオプションの持分比率に決まりはありませんが、同時期に権利が行使されて大量の株が買われた場合、株式の価値が薄れて既存株主が不利益を被る可能性があります。具体的には1株あたりの配当が減少するなどの可能性があり、それを嫌気した株主が株式を売却することによる株価の下落リスクにもつながります。
ストックオプションを導入する際は、持分比率を考慮した上で割当数を決めましょう。
明確で公平な付与基準を決める
導入したストックオプションの付与基準の公平性にも注意が必要です。公平性に欠けると、本来の目的に反して従業員から不満が出たり、従業員同士の関係性悪化につながったりするおそれがあります。ストックオプションの対象とならない従業員も納得できるよう、人事評価とわかりやすい形で結び付ける、勤続年数によって決めるなど、第三者が見て納得できる明確な基準を決めてから運営をスタートしましょう。
ストックオプションのまとめ
ここまで、ストックオプションについて解説してきました。以下に、その要点をまとめます。
・ストックオプションは、あらかじめ定められた価格で自社の株式を取得できる権利であり、特にスタートアップやベンチャー企業にとって、人材確保の有効な手段となっている
・企業にとってのメリットとして、従業員のモチベーション向上や優秀な人材の確保が挙げられる一方、株価の下落や権利行使後の退職などのデメリットも考慮する必要がある
・ストックオプションを導入する際には、株式の持分比率や公平な付与基準の設定などを注意深く検討することが重要
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