第4回、5回、6回で取り上げたのは、自社の弱点を見て見ぬふりをするというケースでした。今回からは、弱点の場所に気づいていないケースを話していきます。「弱点を見て見ぬふりをすること」と「弱点に気づいていないこと」。その違いは、前者が意識の欠如、後者が知識の不足です。前者の場合は、冷静に考えれば何をすべきなのかを知っている。けれど後者の場合は、全くもって正しいことをしているという意識しかない。それは意識ではなく、知識の不足から来ます。
再生案件の企業は利益が出ないことが問題なので、弱点に気づいていないとは、利益の出し方が分かっていないことと、ほぼイコールです。人間でも、本人は強みだと信じていることが、弱みであることはよくあります。
例えばリーダーシップ。以前は剛腕型・カリスマ型のリーダーが称賛されがちでしたが、今、上司が声を荒げるとパワーハラスメントになりかねない時代です。近年、スポーツにおける厳しい指導が問題になることがあります。その中には以前なら熱血漢のスパルタ指導として問題視されなかったケースも少なくありません。それは、時代が変わったという認識が欠落していたから起きた悲劇と捉えることができます。強みは容易に弱みに転じるのです。
経営者の方に「御社の強みは何ですか」と聞くと、こんな話が返ってきます。「我々の強みは多品種少量生産で、お客様からのオーダーに応じていろんな対応ができます。さらに納期も短い」。これは確かに強みですよね。
そういう手間のかかる仕事を、中小企業はいっぱいしています。品質が強み。そう答える会社もたくさんあります。1億円、2億円もする画像認識の検査機が入っていて、この厳しい検査体制があるので得意先の信頼を得られていますという話があったりします。営業体制も強みになります。例えば、小回りの利く営業網を全国に張り巡らしているので、大手の得意先からも非常に重宝がられているといったことです。
あとよくあるのが、ホームページに書いていたりするのですけれど、全国的にも有名な大手企業と取引しているということ。それがブランド力となり、ほかの仕事もできるのだという。食品加工業だと大手スーパーなどの名前を書いています。それぞれは、どれも立派なことです。けれど、それらが本当に強みになっていますかということなのです。言い換えると、利益につながっていますかということです。
多品種少量は強みか、弱みか
多品種少量生産を売りにしている会社で原価計算をしてみると、実態は赤字製品だらけだった。そんな経験を私は何度もしています。それは強みじゃなくて、ものすごく弱みですよね。多品種少量生産は段取り替えの時間がかかるし、生産品目を変えるとき、その材料をしばらく流すことが多い。そうして加工が安定したら、小ロットを作って終わり。それで採算を取るには、相当緻密な管理体制が必要です。
経営者は黒字だと思い込んでいるけれど、材料のロスを含めて原価計算をすれば赤字ということが、多品種少量生産では往々にしてあります。それから、品質には自信があります、と言っている会社。品質が良いに越したことはないのですが、過剰というくらい品質を追い求めるあまり、自らの首を絞めることがよくあります。得意先から重宝され、褒められるけれども、歩留まりが低くて採算が合っていないのです。
私は再生現場で、そうした会社をよく見てきました。再生案件に至る会社は、製品品質が悪い会社ばかりではありません。高品質の製品を作る会社も、当たり前ですが儲からないとだめになるのです。
営業社員を全国に張り巡らせて、コスト過剰に陥っているケースもありました。建材卸の会社です。建材店は各地にたくさんあり、地域の工務店の人などが開店と同時に買いに来る。そうした建材店に品物を卸していました。私が再生に入ったとき、見るからに営業社員の数が多かった。数店舗に1人ぐらいの割合で高密度に配置していました。
営業体制に見合う利益が取れていれば問題ありません。けれど、営業所とそこにいる営業社員の人件費を維持する利益は、残念ながら得られていませんでした。しかも、そのことを社長は理解していませんでした。社長に数字を示して、私はこう言いました。「今の体制は無理ですから、拠点と人員を減らしましょう」けれど、社長は納得しません。
「採算的には、売り上げを今の倍にしないとだめですね」
「2倍? それは絶対に無理だよ」
「売り上げ2倍で、人件費も含めて各拠点の赤字がなくなります」
「金子さん、この業界は特殊なんですよ。営業が毎日、建材店に通うのが、この業界の慣習なんだ。うちだけじゃない。どの会社も、そのやり方でやってきた」
私はこのときばかりは、きつく言いました。「特殊だから、赤字になっていいんですか。特殊だから、社員に賞与を払わなくていいんですか。『特殊だから』というのは、自社の弱点を見ず、変化を拒む言い訳です」。
毎日、営業する必要があるのか
結局、その建材卸では営業所を半分くらいに整理しました。営業社員は3分の2に減らして、3分の1は他部署に移ってもらいました。その社長は「拠点数を減らせば、絶対に売り上げも利益も減る」と恐れましたが、押し切りました。
ふたを開けてみると、どうなったか。逆に売り上げは増えたんです。どうしてか、分かりますか。優秀な営業マンだけが、建材店を回るようになったからです。御用聞きではないのですから、毎日行く必要なんてないんです。むしろ、優秀な営業マンが店舗を回って、店からの相談や要望を受けたときに、きちっと対応することが必要なのであり、事実、この会社ではそれによって売り上げを増やしたのです。
私もびっくりしました。営業社員を減らせば利益は確実に出ると分かっていましたが、売り上げはもしかしたら少し減るかもしれないなと思っていたからです。これはとてもうまくいったケースですね。
■プロフィール
金子剛史
公認会計士試験合格の後、エスネットワークス入社。IPOやM&Aのサポート業務、企業再生の支援業務を担当。2017年MODコンサルティングを設立し、代表取締役に就任。本連載の元となる『弱点思考の経営』は、国内有数の私的再生のプロとしてこれまで約300社を復活させた経験から得た、経営のヒントがたくさん詰まった1冊です。
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