「守りのDX」と「攻めのDX」の違いとは
まずはじめに、「守りのDX」と「攻めのDX」の違いを確認しましょう。
経済産業省のDX推進ガイドラインによると、DX(デジタルトランスフォーメーション)とは、「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」と定義されています。
例えばテレワーク環境の整備など、この定義の冒頭で触れられているように、社内に向けてデータとデジタル技術を活用し、業務効率化やコスト削減を行うことが「守りのDX」となります。また、この定義の後半にあるように、例えばマーケティングのITツールなどを用いて抜本的な顧客接点の改革を行うなど、ステークホルダーに向けて付加価値向上や競争上の優位性を確立することが「攻めのDX」となります。
次に、DX推進度状況をはかる入り口として、日常業務で使用しているデジタルデバイスをたずねました。
「特になし」という回答はわずか2.8%と、ほとんどの方がデジタル化していることが分かりました。
また、ほとんどの方がノート型もしくはデスクトップパソコンとスマートフォン、タブレットを併用していると回答しましたが、中には、「シンクライアント」との回答も。「シンクライアント(thin client)」は、個別の端末から大容量の記憶媒体を省き、アプリケーションのインストールも行わないなど機能を最小限に抑え、アプリケーションの実行やデータ保持といった処理のほとんどをサーバ側で行わせる仕組みのことを指します。社会のデジタル化やリモートワークの普及が進むと同時にセキュリティ対策の重要性が増すなかで、注目度が高まっている様子がうかがえました。
DXへの取り組み状況をたずねた質問では、50.7%が「取り組んでいる」、8.8%が「これから取り組む予定」と答えましたが、20.1%は「取り組む予定がない」、20.4%は「分からない」といった回答になりました。この「取り組む予定がない」と回答した中には、すでにDXを成し遂げている企業も含まれていると推測されますが、全体としては社会のデジタル化やリモートワークの普及が進んでいるものの、まだ半数の企業しかDXに取り組んでいないという現状が見えてきました。
業種によっては業態固有の環境が
必要性を感じさせないといった状況も
「全社的に取り組んでいる」と回答した業種別の結果を見ると、「通信サービス」(55.6%)、「金融、証券、保険」(46.5%)、「一般機械、精密機器」(46.3%)に対し、「病院、医療機関」(8.5%)、「個人向けサービス」(11.9%)、「農林、水産、鉱業」(15.4%)と、業種間で大きな隔たりがあることが浮き彫りになりました。
また、「農林、水産、鉱業」(61.5%)、「個人向けサービス」(59.3%)、「税理士、弁護士など専門職」(46.5%)は約半数以上が「取り組む予定がない」と回答しており、業態固有の環境が必要性を感じさせないといった状況もあるように推測されます。
DX推進が進みにくい理由は
「専任の担当(部署)がない」から?
DXを推進するうえでの課題をたずねたところ、「社内に専任の担当(部署)がない」(22.4%)、「具体的な成果が見えない」(22.0%)、「予算の確保が難しい」(21.8%)がほぼ同列でトップ3となりました。明確な旗振り役がいないことによって、「守りのDX=データとデジタル技術を活用し、業務効率化やコスト削減を行うこと」のスタートラインに立つこと自体にもハードルはあることが分かります。
前項のDXの取り組み状況で「よく分からない」と回答した人が20.4%いたことからも、そもそも取り組む意義の理解が不足している状況も透けて見えます。
「社内に専任の担当(部署)がない」が課題だと回答した層にDXの成果についてたずねたところ、「守りのDX」の前段階となる“単純なIT化”にとどまってしまっていることが分かりました。「攻めのDX」と言える、「新サービスや製品の開発」(4.3%)、「新規事業の創出」(4.1%)、「サブスクリプション等ビジネスモデルの変革」(1.8%)は、他の課題を挙げた層と比べて特に成果が得られていない結果に。専任担当がいる部署ができ、成果が感じられるようになれば、思うように進んでいないDXも推進できるものなのでしょうか。
では、全体の回答を見てみましょう。「既存業務の効率化・自動化」(48.0%)、「テレワーク環境の整備」(41.3%)、「顧客接点のデジタル化」(21.4%)と、「社内に専任の担当(部署)がない」と回答した企業と比べると約2倍という結果になりました。IT化による業務改善やコスト削減を目的とした、IT基盤・システムの導入やアナログからデジタルへの置き換えは進みつつあるという現状が見え、回答の中にはペーパーレス化が進んだといった具体的なコメントや、コスト削減を実感している企業も多い様子がうかがえました。これらは社内向けの「守りのDX」。コロナ禍によるテレワークの推進で、Web会議ツールの導入や書類の電子化など、まずは社内の改革に目が向く傾向が強いようです。
一方で、社外向けと言える「攻めのDX」に成果を感じている企業はどのくらいかを見ていきましょう。ステークホルダーに向けた改革であり、「攻めのDX」と言える、「新サービスや製品の開発」(14.0%)、「新規事業の創出」(9.3%)、「サブスクリプション等ビジネスモデルの変革」(6.8%)は「社内に専任の担当(部署)がない」と回答した企業と比べると2~4倍にはなるものの、競争力強化や新価値創造などの成果は、まだあまり得られていないという現状が見えました。「攻めのDX」の方がハードルが高そうに感じるといったことや、まずは「守りのDX」からといった思い込みからなかなか取り組むまで時間を要しているとも考えられます。社内に専任の担当部署をつくることはDX推進に向けての第一歩であるとは言えるものの、それだけでなく、自社にとって社内、社外どちらのDXを優先すべきかを見極めることも必要なのかもしれません。
役立った情報源は「ITベンダー・通信事業者」「専門家によるコンサル」
専門家のサポートがDX推進への近道
最後に、DX推進にあたって有用だった情報源についてたずねました。「ITベンダー・通信事業者」(22.0%)、「専門家によるコンサル」(14.3%)、「セミナー・勉強会」(13.5%)がトップ3。特に、「新サービスや製品の開発」「新規事業の創出」「サブスクリプション等ビジネスモデルの変革」など、「攻めのDX」に成果を感じている企業では「ITベンダー・通信事業者」(32.5%)、「専門家によるコンサル」(24.2%)の割合が高く、専門家のサポートを受けながら、体系立てて取り組むことが、DX推進への近道と言えそうです。
以上、調査結果から見えてきたことを解説しました。DXは中長期的に取り組むものであり、取り組むほどに成果が見えてくるもの。企業の環境によっては、「攻めのDX」から取り組んだ方が効率的な場合もあるでしょう。
情報源として商工会議所や業界団体、同業他社で得た情報が役立ったという意見もありました。「何から着手すればよいか分からない」といったような場合には、専門家のアドバイスを受ける前に、まずはそうした身近な情報源からヒントを得るほうが良いのかもしれません。
毎年10月のデジタル月間を、自社の状況を振り返り、どういった取り組み方が自社に合っているかを改めて考えてみるきっかけにしてはいかがでしょうか。
■スタッフクレジット
文・編集:後藤文江(日経BPコンサルティング)
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