「心理的安全性」を強く求めるZ世代の特徴
1990年代中期から2010年代に生まれたZ世代のビジネスパーソンたちは、職場の心理的安全性が担保されているかどうかをかなり強く重視する。米誌「フォーチュン」が2023年11月に掲載した記事(外部サイトに移動します)によれば、同世代の多くが利用するTikTokでは、#psychologicalsafety(心理的安全性)というハッシュタグに関連する動画が500万回以上再生されているという。
心理的に安全を感じる職場では、従業員が尊重されていると感じられ、組織の意思決定の場にも参加でき、業務上の欠点を公然の場で辱められないといった安心感を覚えやすい。前出のフォーチュンでは、心理的な安全が保たれる結果として、エンゲージメントが向上したり、燃え尽き症候群のリスクを下げたりする効果が期待できると書かれている。
心理的な安全性が組織にもたらすのは、従業員の帰属意識だと、米アパレル企業リーバイ・ストラウス社の最高人事責任者であるトレイシー・レイニーは語る。
「もちろん、従業員が直面している個人的な課題のすべてを知ることはできませんし、誰もがそうしたことを気軽に共有できるわけではありません。しかし、心理的安全性が保たれていれば、従業員がリーダーから尊敬されていると感じ、自信を持ってリスクを取ることができるような企業文化を維持できるのです」
Z世代の仕事観を知らないリーダー層
企業にとって、心理的安全性の高い企業風土を築くことは長期的なメリットをもたらしてくれる。そして、短期的な視点で見ても、人材のリテンションや採用競争力にも影響する。
特にZ世代の人たちは、「自分の要望が通らなければ仕事を辞めることを厭わない姿勢がある」と米誌「ファスト・カンパニー」は指摘する。2023年7月公開の記事(外部サイトに移動します)では、同誌がSNSで話題になっているコンテンツをもとにZ世代が職場に求めるものを分析している。
Z世代がワークスタイルについて活発な議論を交わすのがTikTokだ、彼らは過労などの問題でワークスタイルに悩んだとき、職場の上司ではなくTikTokでハッシュタグを使い、同じ悩みを抱えているユーザーに問題を打ち明けることが多い。その理由はひとえに「職場で安心して相談できる環境が充分ではないと彼らが感じているからだ」とハーバード大学のエイミー・エドマンドソン教授は述べる。
さらに、現在はデジタルツールを使って、かつてないほど簡単に転職活動ができるようになった点も同誌では指摘されている。たとえば、同じくTikTokで流行したハッシュタグに#RageApplying(怒りの就活)がある。これは職場で怒りを覚えるような出来事に遭遇したあるクリエイターが、その後すぐにいくつかの仕事に応募し、昇給を伴う仕事に就いたと公開したことが発端になった。#QuitTokでは、実際に会社を辞める様子を撮影したTikTokユーザーが火付け役となって瞬く間に拡散され、4000万回以上の再生回数を記録している。
ファスト・カンパニーは、企業のリーダーたちが、こうしたZ世代が集うSNS上で垣間見えるワーク・トレンドを見逃していると書く。しかし、Z世代にとって職場への不満や懸念をSNSで表明することはもはや普通のことであり、現状の職場のほかにも数多くの選択肢があることも彼らはすでに知っている。
組織のリーダーたちは、まず彼らの仕事観の傾向を掴むことで、職場での対策を講じることができるだろう。それは決してネット上で従業員の言動を追跡するといったことではない。ファスト・カンパニーは、職場で非難が飛び交うような環境を是正したり、業務のフィードバックを奨励したり、わからないことがあれば気軽に確認できる状況を生み出したりする施策が、心理的安全性を高めるうえで効果的だと紹介する。
過度な「安心感」は職場に逆効果
しかしながら、心理的安全性が高すぎても弊害が生じる。ペンシルバニア大学ウォートン・スクールのピーター・カッペリ教授は、「心理的安全性が高すぎると、定型的な仕事のパフォーマンスを悪化させるリスクがある」と指摘する。
2023年11月に掲載された米誌「ナレッジ・アット・ウォートン」の記事(外部サイトに移動します)で、カッペリは自身の研究をもとに、心理的安全性の最適なラインを考察する。カッペリは、心理的安全性が重要になるのは、学ぼうとしたり、創造的な仕事をしたりする場面だと語る。こうしたときには周りに嘲笑される不安がない環境は必須だ。
「しかし、ほとんどの仕事には満たされなければいけない基準があります。製造業であれ小売業であれ、医療であれ……、本当の創造性を発揮する機会が日常的にあるわけではありません。
看護師が薬を投与する際に、何か違うことを試してほしくはないでしょう。あくまで標準的なプロトコルに従ってほしいと思うはずです、クリエイティブな仕事であったとしても、何をすべきか、明確な原則があるはずです」
多くの管理職は心理的安全性をとにかく高めようと努めている現況に対して、カッペリは「心理的安全性に効果の逓減はないと人々が思い込んでいることに驚く」と述べる。
心理的安全性が高すぎることで起きる弊害の一つに、業績が悪くても深刻な結果にはならないと誤認してしまうリスクがある。次に私たちの関心が日常の重要なルーティンワークから離れ、創造的なタスクに集中してしまう可能性だ。そこでカッペリが提案するのが、プロジェクト・チームごとに説明責任を適度に求めるというもの。こうした共同作業のなかで各人や各部署に期待されることが明確になり、個人的な行動からチームのための共同作業にシフトしていけるとも述べている。
「高いレベルの心理的安全性を職場の管理職に求める必要はありません。充分なレベルで保たれていれば良いのです」
Z世代と共に組織を創っていくために
2025年までに、Z世代はOECD加盟国の労働人口のおよそ3割を占めると予測されている。(外部サイトに移動します)
企業の存続を考えるうえでも、Z世代と共により良い職場環境を整えていくのは、経営における最重要課題のひとつだと言える。職場での心理的な安全性や柔軟な働き方など、Z世代の労働者が大事にしていることを聞き逃す組織は、人材が流入していくリスクをはらむことになる。
とはいえ、単にZ世代にとって居心地の良い職場をつくることが最適解ではない。一定の説明責任や業務遂行とされる達成ラインなどについて対話を重ね、一定の基準を求めることで組織としての機動力も確保することが大切だろう。Z世代の従業員たちにとっても、職務において求められる要件が明確になれば、キャリアの成長につながるはずだ。
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文・編集:クーリエ・ジャポン(講談社) 写真:Getty Images