ビジネスをめぐる7つのリスクと回避術
相次ぐ自然災害や不安定な国際情勢、新型コロナウイルス感染症など、企業を取り巻くリスクは年々、多様化・深刻化しているように感じます。税理士法人として多くのクライアントの方々をサポートするなかで、どのようなリスクに直面することが多いですか。
ご指摘の通り、ビジネスにおけるリスクは近年多様化しています。事業規模や業種によって直面するリスクは異なりますが、主に中小企業の経営という観点で見ると、7つの大きなリスクがあると感じています。それぞれの回避術とともにお伝えします。
GrowthPartners税理士法人 代表社員/代表取締役 山岸秀地氏
1. サイバーリスク
急速にDX化が進むなか、サイバー攻撃やデータ漏えいのリスクが高まっています。最新のセキュリティソフトの導入やサイバーセキュリティ専門家の雇用、保険の活用やITリテラシー教育などで、リスクを軽減することができます。
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2. 法令遵守(コンプライアンス)違反のリスク
税制や労務周りの法令改正など、経営者目線で見ると厳しいと感じる規制も数多く登場し、法令遵守違反のリスクも高まっています。弁護士や税理士、社労士など、外部の専門家の意見を聞くことが有効なリスクマネジメントにつながります。
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3. 経済環境リスク
景気や為替の変動、原材料費の高騰など、企業の業績に直結する環境リスクも大きくなっています。自社だけではコントロールできない部分も多いですが、経済環境を予測し、早めに備えることが大切です。
4. サプライチェーンリスク
仕入先や販売先の業績が傾いたときに発生するリスクです。1つの企業に依存するのではなく、取引先を分散することで、ある程度のリスクヘッジが可能です。
5. 人材不足のリスク
長らく売り手市場が続いており、雇用コストは高まっています。一方で、人材確保のためのコストをサービスや商品価格に転嫁することは簡単ではなく、特に労働集約的なビジネスにおいては大きなリスクになります。優秀な人材を雇用し、彼らの流出を避けるためには、労働環境の整備が大きなポイントになります。テレワークをはじめとするフレキシブルな働き方ができるように環境を整え、リスキリングなどの社員教育に力を入れることが、人材確保の第一歩になります。
6. 地政学上のリスク
国際情勢の変化や貿易摩擦などが、市場やサプライチェーンに大きな影響を与えるケースが増えています。この点は、経済環境リスクやサプライチェーンリスクとも密接に関わってくる問題です。まずは経営トップが一歩先を見通し、適切に舵を取っていくことが求められます。
7. 技術革新リスク
DXに象徴される技術革新に取り残されてしまうことで、自社の競争力が失われてしまうリスクです。こちらもまずは経営層がしっかりとアンテナを立て、外部専門家の意見や先進事例に学びながら、最新のソフトウエアやシステムを導入していくことが大切だと思います。
リスクに対するレジリエンスを高める
クライアントの方々がリスクに直面した具体的な事例などがあれば教えてください。
例えばインフルエンサーとして活動するクライアントの方が、誇大広告に加担してしまった事例があります。あるダイエット商材について違法と知らないまま、情報を拡散してしまったのです。もちろん一義的な責任は広告を依頼した企業にあるのですが、早い段階で専門家の意見を聞いていれば回避できた法令遵守違反のリスクでした。また、個人情報の漏えいによって信頼を失い、取引先が離れていってしまったケースもあります。
このように、経営を巡るリスクには外部的な要因も深く関わっているため、たとえ事前に対策を行っていても、リスクを回避できないこともあります。そのときに大切なのが、リスクに対するレジリエンス(回復力・耐久力)です。
リスクを避けられなかった場合、半月で回復するか2カ月で回復するかでは、その後の事業継続性が大きく変わってきます。ある程度のリスクに対応できる資金を確保しておくことはもちろん、外部専門家に協力を求めることや、休業や賠償費用を補償する保険に加入しておくことなども、リスクレジリエンスを高める有効な手立てだと思います。
売上の1〜3%を使い、効率的なリスクマネジメントを
サイバーセキュリティの構築や、弁護士や税理士などの外部専門家への依頼、保険の加入にはコストがかかると思いますが、「どのくらいリスク対策にコストをかければよいかわからない」という企業も多いと思います。
事業の成長速度や規模にもよりますが、基本的には「売上の1〜3%をリスクマネジメントに充てる」ことをクライアントの方々にアドバイスしています。このときに大切なのは、リスクによる損失を正しく評価し、優先順位をつけてコストを配分していくことだと思います。
例えば数百万円の損失に耐える資金の備えがあれば、無理に保険を掛ける必要はありません。一方で、1つのリスクが、会社が傾くほどの損失につながるのであれば、保険への加入も検討すべきでしょう。仮に数千万円を補償する保険に月1万円かかるとすると、20年でも240万円です。事業継続性が失われてしまうことを考えれば、十分に支払う価値はあると思います。
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ビジネス・カードなどに付帯されているものでも有効でしょうか。
はい、有効だと思います。近年は、ビジネスシーンにおいてもオンライン決済の機会が増えており、同時にカード情報の漏えいなどによる不正利用のリスクも高まっています。その点で、なりすましによる不正利用の損害を補償してくれるオンライン・プロテクションが充実したカードを選ぶことは、広い意味でサイバーリスク対策の1つだと思います。
実は私自身、会社のメンバーに持たせていたカードの情報が漏えいしてしまい、身に覚えのない請求が100件近く来たことがあります。この時は、当社のビジネス・カードの発行元であるアメリカン・エキスプレスがスムーズに対処してくれたおかげで事なきを得ました。複数のメンバーにカードを持たせることには、やはり潜在的なリスクが伴います。その点で、補償のしっかりとしたカードを選ぶことは、経営者の安心感につながる重要なポイントだと思います。
出張に行けなくなった場合のキャンセル費用などの損害を補償するサービスもオンライン・プロテクションと同様に、経営者にとって心強いサービスだと思います。現代は国際情勢や自然災害、感染症などのリスクによって不確実性が高まる時代。不測の事態によって出張や商談に行けなくなった場合でも、旅費や宿泊費が補償されることはコスト面で大きなメリットがあります。また、このような補償があることで、経営者はより積極的に出張や商談の予定を立てやすくなると感じています。
アメリカン・エキスプレスのビジネス・カードは安心の補償をご用意しています。
第三者によるインターネット上での不正使用と判明したカード取引を補償する「オンライン・プロテクション」や、出張に行けなくなった場合のキャンセル費用などの損害を補償する「キャンセル・プロテクション」をはじめとした付帯保険やサービスを、ビジネス・プラチナ・カードには、万一のサイバー攻撃や情報漏えいなどのリスクにも備えられるサイバー保険「ビジネス・サイバー・プロテクション」も付帯し、ビジネスの成長をサポートします。
最後に、今後さまざまなリスクと向き合っていく経営者や個人事業主の方々に向けてアドバイスをお願いします。
私自身も経営者なので「売上に直結しないリスク管理のコストをなるべく抑えたい」という気持ちがよく分かります。ただ、リスクマネジメントは、野球やサッカーなどにおける「守り」のようなものです。しっかりとした守備があってこそ、思い切ったチャレンジ、すなわち「攻め」ができるのだと思います。企業を取り巻くリスクが多様化する時代だからこそ、適切なリスクマネジメントは経営者の役割の1つと言えます。賢く「守り」と「攻め」のバランスを取りながら、ともに事業の持続的な成長を目指していきましょう。
■プロフィール
山岸秀地(やまぎし・しゅうじ)
1989年、埼玉県生まれ。明治大学経営学部を卒業後、税理士試験に合格。大手税理士法人など3社を経て、2016年に「GrowthPartners会計事務所」を開業。2018年「GrowthPartners税理士法人」に組織再編し、現在約800社ものクライアントを抱える。「GrowthPartners」グループ6社には、税理士法人のほか、社会保険労務士法人、バックオフィス業務支援企業などがあり、「お客様と共に。企業の成長を支えるパートナー」をビジョンに掲げ、経営全般を支援する活動を行っている。
■スタッフクレジット
取材・文:吉原徹 編集:日経BPコンサルティング