■監修者プロフィール
栗原 聡
慶應義塾大学大学院理工学研究科修了。博士(工学)。2021年4月より慶應義塾大学共生知能創発社会研究センター・センター長。NTT 基礎研究所、大阪大学大学院情報科学研究科、電気通信大学大学院情報理工学研究科などを経て、2018 年から慶應義塾大学理工学部教授.電気通信大学に国立大学では初となる人工知能先端研究センター(初代センター長)を設立。(株)オムロンサイニックエックス、(株)オルツ技術顧問、情報法制研究所上席研究員など。本学会理事・編集委員長などを歴任。マルチエージェント、複雑ネットワーク科学、群知能などの研究に従事。著書「AI兵器と未来社会キラーロボットの正体」(朝日新書,2019)、翻訳「群知能とデータマイニング」(東京電機大学出版局、2012)、編集「人工知能学事典」(共立出版、2017)など多数。
栗原 聡(外部サイトに移動します)
【目次】
オープンイノベーションとは
オープンイノベーションとクローズドイノベーションの違い
オープンイノベーションが注目されている背景
VUCA環境
グローバリゼーション(グローバル化)
デジタル技術の進歩
オープンイノベーションのメリット
事業推進の加速化と開発コストパフォーマンスの向上
知見や技術の集積とビジネスチャンスの創出
オープンイノベーションの課題と注意点
知財関連の情報や技術の漏洩および自社開発力の衰退リスク
利益率の低下
オープンイノベーション成功のための5つのポイント
人材
意識の共有
知的財産の活用方法
市場ニーズの明確化
研究や開発の継続
オープンイノベーションの創出方法
インバウンド
アウトバウンド
インバウンド・アウトバウンド連携型
オープンイノベーションのまとめ
オープンイノベーションとは
「オープンイノベーション」は、2003年に当時、米ハーバード大学経営大学院の教員であったヘンリー・チェスブロウ氏が 『Open Innovation -The New Imperative for Creating and Profiting from Technology』の中で発表した概念です。同書の中で「オープンイノベーションとは、組織内部のイノベーションを促進するために、意図的かつ積極的に内部と外部の技術やアイデアなどの資源の流出入を活用し、その結果組織内で創出したイノベーションを組織外に展開する市場機会を増やすことである。」と定義しています。つまり、オープンイノベーションによって目指すゴールは「企業の枠にとらわれない、事業の促進や創出」といえるでしょう。
また、オープンイノベーションは多様な企業が切磋琢磨していますが、現在はアメリカにあるIT企業による独占状態になっています。IT後進国となった日本 において、どのように「オープン」とするべきかについてもしっかり考える必要があり、日本企業にとって正念場だといえます。
オープンイノベーションとクローズドイノベーションの違い
オープンイノベーションと対極にある概念が「クローズドイノベーション」です。2つの違いはイノベーションへのアプローチです。外部のリソース、知識、アイデアも活用するオープンイノベーションに対し、クローズドイノベーションは、自社のリソースのみで研究開発から製品化までを独自で行ないます。そのため、情報や知識は流出せず保持されます。
オープンイノベーションが注目されている背景
近年、なぜオープンイノベーションが注目されているのでしょうか。理由は、主に3つ背景からだといえるでしょう。それぞれについて詳しく解説します。
VUCA環境
現在は、先行きが不透明で将来の予測が困難な「VUCA(ブーカ)」の時代といわれています。VUCAとは、Volatility(変動性)・Uncertainty(不確実性)・Complexity(複雑性)・Ambiguity(曖昧性)の4単語の頭文字をとった言葉で、経済や社会全体において目まぐるしく変転する予測困難な状況を指す概念のことです。
現在は、先行きが不透明で将来の予測が困難な「VUCA(ブーカ)」の時代といわれています。普及している製品やサービスも、顧客のニーズも多種多様かつ流動的になっています。このように変化が多いVUCA環境に対応するためには、オープンイノベーションが必要だと考えられています。
関連記事:VUCA時代とは?必要とされるスキルや人材育成、マネジメントを解説
グローバリゼーション(グローバル化)
国境に関係なく地球規模において資本や情報、人の交流や移動が行われるようになり、ビジネスの基盤となる「ヒト・モノ・カネ」の流動性が高まり、グローバリゼーション(グローバル化)が進み、国や地域といった物理的な垣根を超えてさまざまなパートナーと協力、協業し、多様な視点やアイデアを取り入れることが可能となったことも、オープンイノベーションが注目されている背景の一つです。
オープンイノベーションを通してさまざまなパートナーと協働すれば、自社の強みや弱みをより明確に理解することができるので、自社の競争力向上にも役立つでしょう。
デジタル技術の進歩
近年の目覚ましいデジタル技術の発展により、情報の取得や共有が容易にできるようになり生産性が向上しただけでなく、社内外、国内外関係なくコミュニケーションが取りやすくなりました。同時にどんどんプロダクトライフサイクルは短縮化しています。激化する競争に対応し、迅速に新しい製品やサービスをリリースするためにも、オープンイノベーションは有効だといえます。ゼロからスタートするのではなく、社内外、国内外関係なくリソースを効率的に活用し、新たなアイデアや技術を迅速に取り入れることで、すでにある製品の結合や機能の組み込みを含め、短期間で優れた製品やサービスを生み出すことができるでしょう。
関連記事:データドリブン経営とは?メリットや実践のステップを解説
オープンイノベーションのメリット
オープンイノベーションを導入するメリットを紹介します。
事業推進の加速化と開発コストパフォーマンスの向上
オープンイノベーションを導入するとゼロから立ち上げる必要がなくなるので、事業の促進を加速させることができます。その分開発に必要な期間が短くなるので人件費やプロジェクトの運営費用など開発に必要なコストの削減も期待できます。
知見や技術の集積とビジネスチャンスの創出
オープンイノベーションを導入することで、自社にはなかった技術やノウハウを効率よくスピーディーに吸収し獲得できることも大きなメリットといえ、組織強化や人材育成への貢献も期待できます。また、外部の視点を取り入れることで、これまでは気づけていなかったニーズを発見できることもあります。顧客ニーズや市場自体の発見もメリットの1つといえるでしょう。
オープンイノベーションの課題と注意点
オープンイノベーションを導入する際に課題となる点や注意すべき点について解説します。
知財関連の情報や技術の漏洩および自社開発力の衰退リスク
技術やノウハウを外部へ共有するオープンイノベーションは、情報漏洩のリスクが常につきまといます。特に機密性の高い情報が流出してしまった場合は、事業存続の危機に陥る可能性も否めません。共有情報の範囲や取り扱い方法などについて事前に体制を整えたうえで、協力企業とは必ず守秘義務契約を締結するなどの対策をしましょう。
また、外部の技術や設備に頼ることで自社の競争力や開発力が衰えてしまう可能性もあります。競合他社よりも優れている、企業の核になっている技術や能力を指す、「コアコンピタンス」を守ることを意識し、自社の競争力や開発力の維持、向上も念頭においたうえで、オープンイノベーションを導入するかどうかを慎重に検討しましょう。
利益率の低下
オープンイノベーションでは、収益分配が必要となる場合があるため収益を独占できるクローズドイノベーションと比べると、利益率が低くなる可能性があります。また、利益分配はトラブルの原因にもなる可能性がありますので、事前に入念な協議を重ねるようにしましょう。利益だけでなく費用の分配においても同様に、トラブルにならないよう注意し調整することが重要です。
オープンイノベーション成功のための5つのポイント
オープンイノベーションを成功させるために不可欠な5つのポイント「人材」「意識の共有」「知的財産の活用方法」「市場ニーズの明確化」「研究や開発の継続」について解説します。
人材
オープンイノベーションを実施する際に重要なポイントとしてまず挙げられるのは、人材です。必要となる人材は自社での採用に加え、外部との連携を通して確保することも検討可能でしょう。
オープンイノベーションにおいて特に重要な人材といえるのが、プロジェクトを進行しつつ外部との連携を管理する推進役です。複数の組織が協力し合い事業を滞りなくスムーズに進めるには、円滑なコミュニケーションができる体制づくりが重要です。意思の疎通がうまくいかず問題が起こるとオープンイノベーションの継続が難しい状況になりかねません。推進役はできるだけ固定し、社内外で緊密なやり取りができる環境を適切に整えましょう。
意識の共有
オープンイノベーションによって何を達成したいのか、明確な目的意識を持つことも重要です。オープンイノベーションを導入することは目的を達成するための手段にすぎません。目的意識を事業に携わる全員で共有し、オープンイノベーションを導入すること自体が目的化しないよう気を付けましょう。
また、目的意識を共有することは、意思決定がしやすい環境を整えることにも役立ちます。外部との連携スピードが遅れることで事業自体の進行が停滞してしまうといった事態も防げるでしょう。
知的財産の活用方法
知的財産をどう活用するかも重要なポイントです。外部の知的財産を自社に活かすことに注目しがちですが、自社で使用していない知的財産を活用してもらうことについても考えてみましょう。外部に知的財産を共有することで、お互いにメリットを享受し合う関係を築ける可能性があります。自社に利益が還元されたり、新しい研究開発の機会になるかもしれません。
市場ニーズの明確化
企業の枠にとらわれない、事業の促進や創出を目指すオープンイノベーションを成功させるためにも、市場ニーズの把握は必要不可欠です。オープンイノベーションにおいて外部と協力しアイデアや発想の共有をすることが、市場のニーズを明確にするきっかけになることもあります。また他社の市場データの活用によって新規顧客獲得の機会を創出できる可能性もあるでしょう。
研究や開発の継続
外部の技術や設備に頼ることで自社の競争力や開発力が衰えてしまうことがないよう、自社の競争力や開発力の維持、向上を意識し、自社での研究や開発も継続しましょう。オープンイノベーションを導入して吸収した技術やノウハウを蓄積しながらも、活かせるような環境を保持することが重要です。
オープンイノベーションの創出方法
オープンイノベーションの創出方法は、大きく分けて「インバウンド」「アウトバウンド」「インバウンド・アウトバウンド連携型」の3種類です。それぞれについて解説します。
インバウンド
インバウンドは、自社に不足している技術やノウハウなどを外部から取り込むことによって、イノベーションを実現する方法です。
大学や研究機関の持つ研究結果を企業が活用し、実用化や産業化に結びつける仕組みを指す座学官連携や、対価を支払って他社の特許権などを導入する、ライセンスインなどが該当します。
アウトバウンド
アウトバウンドは、自社が保有する技術やノウハウを外部に提供する方法です。
自社の特許権などを売却したり使用を許諾したりする、ライセンスアウトやプラットフォームの形成、パートナーシップの締結などが該当します。
インバウンド・アウトバウンド連携型
オープンイノベーションの創出方法にはインバウンド、アウトバウンドを組み合わせた連携型もあります。企業同士がそれぞれの不足している部分を補い合えるため、大きな相乗効果が期待できます。また、事業連携やハッカソンなどが該当します。
オープンイノベーションのまとめ
以下にオープンイノベーションについての要点をまとめます。
・オープンイノベーションは米ハーバード大学経営大学院の教員であったヘンリー・チェスブロウ氏が発表した概念であり、企業の枠にとらわれない事業の促進や創出を目指して行うものである。
・オープンイノベーションを導入するメリットは、事業推進の加速化や開発コストパフォーマンスの向上、知見や技術の集積、ビジネスチャンスの創出が挙げられる。
・オープンイノベーションの成功には、人材・目的意識の共有・知的財産の活用・市場ニーズの明確化・研究や開発の継続が欠かせない。
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