監修者プロフィール:
南 陽輔(みなみ・ようすけ)
弁護士
大阪大学法学部、関西大学法科大学院卒業。2008年弁護士登録、2021年独立開業(大阪弁護士会所属)。大阪市内の法律事務所に勤務し、民事訴訟案件、刑事事件案件など幅広い領域の法律業務を担当した。2021年3月に一歩法律事務所を設立し、契約書のチェックや文書作成、起業時の法的アドバイス等、予防法務を主とした業務を取り扱う。
【目次】
NDA(秘密保持契約)とは秘密情報を第三者への漏洩を防ぐために締結する契約
NDA(秘密保持契約)を締結する目的
NDA(秘密保持契約)の締結が必要となる状況とは
NDA(秘密保持契約)を締結する際の流れ
NDA(秘密保持契約)を締結する際のポイント
NDA(秘密保持契約)は電子契約も可能
NDA(秘密保持契約)のまとめ
NDA(秘密保持契約)とは秘密情報を第三者への漏洩を防ぐために締結する契約
NDA(秘密保持契約)とは、秘密情報について第三者への漏洩を防ぐために締結する契約です。ビジネス上の取引や協業において、情報漏洩を防ぐために締結されます。「NDA」は、「Non-Disclosure Agreement」を略したもので、日本語では「秘密保持契約」や「機密保持契約」と訳されます。秘密保持契約と機密保持契約に特段の違いはありません。
NDA(秘密保持契約)を締結する目的
NDA(秘密保持契約)を締結する目的を大別すると、「秘密情報の保護」「違反の抑止」「信頼関係の構築」の3つに分けられます。
機密情報の保護
NDA(秘密保持契約)を締結する第一の目的は、機密情報の漏洩や悪用のリスクを大幅に減らせることにあります。NDA(秘密保持契約)は、情報提供者の機密情報を受け取った側が、適切に保護することを約束するものです。もし契約違反があった場合、情報提供者は損害賠償請求を行えます。
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違反の抑止
NDA(秘密保持契約)を締結する第二の目的は、機密情報の外部への漏出という違反を抑止することです。NDA(秘密保持契約)の契約内容には、違反が発生した場合の損害賠償義務などの法的措置が明記されていることが多くあります。これは秘密情報を受け取る側に対して強い抑止力として効果が期待できます。
損害賠償の可能性があることを認識させることで、機密情報の保護意識を高めることができるでしょう。その結果、契約違反を防ぎ、機密情報の安全性を確保につながります。
信頼関係の構築
NDA(秘密保持契約)を締結する第三の目的は、信頼関係の構築です。情報提供者は、機密情報を受け取る側がその情報を適切に扱う保証を得ることができます。これにより、パートナーシップやビジネス関係を円滑に進めることができるでしょう。機密情報を受け取る側としても、情報提供者が期待する機密情報の内容と管理方法を認識できるので、安心して情報を受け取ることができます。結果、ビジネス関係における信頼性を高めることにもつながります。
NDA(秘密保持契約)の締結が必要となる状況とは
情報を開示する側が漏洩や不正利用を防止する意図で締結するNDA(秘密保持契約)が必要となるタイミングの例を紹介します。
秘密情報開示が必要となる商談や他社との打ち合わせ前
商談や打ち合わせを行うなかで、自社の商品やサービスについてのメリットなどを先方に理解してもらうために、自社における秘密情報の開示が求められるケースがあるでしょう。このような場合、NDA(秘密保持契約)を結んでいないと、開示した秘密情報が漏出するリスクが生じます。漏洩や不正利用を防止すべき自社情報は、NDA(秘密保持契約)を締結してから開示することが重要です。
取引の開始準備期間
商談が成立して取引が開始すると、より重要な情報の開示を先方から求められる可能性もあります。たとえば、商品の製造委託契約(OEM契約)の場合、製造する商品の設計内容、仕様などの情報を受託者に提供しなければ、製造を開始できないことも考えられるでしょう。
取引先に提供する情報の中に、漏洩や不正利用を防止したい自社の情報の開示が伴うものが含まれるのであれば、取引開始前にNDA(秘密保持契約)を締結する必要があるでしょう。
業務提携や資本提携の検討期間
資本提携や業務提携にあたっては、互いに相手の経営状況や財務状況を事前に把握してこそ、正しい判断ができるという考え方から経営情報や財務状況などの秘密情報の開示が必要となることがあります。
ただし、互いに開示し合った情報をもとに検討した結果、資本提携や業務提携が不成立になることも起こり得ます。このようなリスクを防止するには業務提携や資本提携を検討する前に、NDA(秘密保持契約)を締結する必要があるでしょう。
共同制作や共同開発
共同制作や共同開発を行う場合にも、秘密情報の開示が必要となることがあります。NDA(秘密保持契約)を締結しないままに情報の開示を行うと、自社情報に紛れてほかの事業者に提供される、あるいは、提供された情報をもとに独自に別の商品を開発されるなど、本来の目的とは異なる利用に至るリスクが生じます。こうした事態を防止するためにも、情報の開示前にNDA(秘密保持契約)を締結する必要があるでしょう。
NDA(秘密保持契約)を締結する際の流れ
NDA(秘密保持契約)を締結する際の流れは、以下の通りです。
1.秘密情報の特定
まずはNDA(秘密保持契約)の対象となる秘密情報を明確に定義します。たとえば、技術情報、営業戦略、顧客リスト、新製品開発情報などを具体的に列挙しましょう。そのうえで秘密情報を適切な範囲で絞り込みます。秘密情報の範囲が広すぎると相手側の管理の負担が大きくなります。狭すぎると秘密情報から外れた情報が漏出するなどして自社の損害につながりかねません。
2.ドラフトの作成
契約締結に向けて、法務部門や弁護士がNDA(秘密保持契約)のドラフトを作成します。ドラフトには秘密情報の定義、使用範囲、契約期間、除外事項などを含めるようにしましょう。ドラフトの作成において、自社にひな型がない場合は、経済産業省が公表している「秘密情報の保護ハンドブック(外部サイトに移動します)」を活用すると良いでしょう。
3.交渉と修正
ドラフトを元に、当事者間でNDA(秘密保持契約)の内容について交渉し、必要に応じて修正を行い、双方が納得できる形に調整しましょう。
4.署名
双方が納得できる内容に調整できれば、両当事者がNDA(秘密保持契約)に署名もしくは捺印し、正式に契約を締結します。書面で作成する場合には各自が原本を保持できるよう、2通作成しましょう。
5.運用と違反対応
NDA(秘密保持契約)締結後はその内容を遵守し、秘密情報の管理体制を整備します。併せて、違反が発生した場合の対応策を事前に確認しておくことも重要です。
NDA(秘密保持契約)を締結する際のポイント
NDA(秘密保持契約)を締結する際のポイントは、以下の通りです。
秘密情報の定義と使用範囲を限定する
何が秘密情報に該当するかを明確にし、その使用目的や範囲を限定しましょう。
秘密情報の定義が曖昧だったり、不明確だったりすると、お互いの秘密情報の具体的な内容の認識のずれが生じてしまい、情報漏洩のリスクにつながりかねません。また、使用目的については、たとえば情報は契約目的のみに使用され、第三者には開示しないことなどを明記しておきましょう。
期間と除外事項を設定する
NDA(秘密保持契約)の有効期間を設定し、秘密情報として扱わない情報を明記します。秘密情報として扱わない情報としては、たとえば、すでに公知の情報や独自に開発された情報などがあげられます。これらをNDA(秘密保持契約)内に除外事項として記載するようにしましょう。
除外事項を設けることで、秘密情報の範囲が限定され、相手により正確に情報管理を遵守してもらうことが実現しやすくなります。有効期間については、契約存続期間内のみならず、契約終了後の存続期間についても意識して記載するようにしましょう。
違反時の措置を明確にする
NDA(秘密保持契約)違反が発生した場合の措置を、具体的に記載しましょう。たとえば、違反に対しては法的措置を取ること、損害賠償を請求することなどを明記しましょう。違反時の措置を明確にすることで、情報漏出の抑止につなげやすくなります。
NDA(秘密保持契約)は電子契約も可能
NDA(秘密保持契約)は電子化が認められている契約書ですので、契約の締結は、書面のみならず、電子契約でも可能です。電子契約を利用すれば、管理コストを削減できます。書面のやり取りが不要なので契約締結をスムーズに進めることができるでしょう。
NDA(秘密保持契約)のまとめ
NDA(秘密保持契約)についての要点を以下にまとめます。
・NDA(秘密保持契約)は秘密情報を第三者への漏洩を防ぐために締結する契約であり、秘密情報の保護、違反の抑止、信頼関係の構築を目的としている
・取引を開始する場面や、資本提携や業務提携、共同制作や共同開発などに用いられ、場合によっては商談や打ち合わせなど、事前交渉の段階でもNDA(秘密保持契約)が必要になる
・機密情報の漏洩が考えられるケースでは、情報の開示前にNDA(秘密保持契約)を締結することが重要
・NDA(秘密保持契約)の内容としては、秘密情報を明確に特定すること、秘密情報の使用範囲を限定すること、期間と除外事項を設定し、かつ、違反時の措置を明確にすることが重要
・NDA(秘密保持契約)は電子契約でも締結可能
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