【目次】
覚書とは、合意事項を記録しておくための文書
覚書と契約書の違い
覚書と念書の違い
覚書を作成するタイミング
覚書が法的効力を持つための条件
覚書の書き方
覚書を作成する際、印紙は必要?
覚書のまとめ
監修者プロフィール
佐藤 大和(さとう やまと)
弁護士(東京弁護士会)、社会保険労務士(東京都社会保険労務士会)
レイ法律事務所代表弁護士。2011年弁護士登録。エンターテインメント法務などを得意分野として、エンターテインメント分野における重要な判決等を多く獲得。自由民主党「知的財産戦略調査会」「経済構造改革委員会」における有識者講師、文化庁「文化芸術分野の適正な契約関係構築に向けた検討会議」委員等も務める。テレビ・ラジオのコメンテーター、ドラマ・漫画等の法律監修等にも携わる。
レイ法律事務所(外部サイトに移動します)
覚書とは、合意事項を記録しておくための文書
覚書は、当事者間の話し合いで合意した内容を記録した書面です。民法第522条(外部サイトに移動します)では、契約は双方の合意が得られた時点で成立するとされ、例えばフリーランス新法や下請法など一部の場合を除き、法令で特段の定めがない限り書面の作成は必須ではありません。しかし、ビジネスの場では、認識の違いからトラブルに発展する可能性があるため、合意事項を書面に残しておくことが一般的です。
覚書は、合意事項や双方の意向などを簡潔に書面化する際に使用され、ビジネスの場では法的効力を持つ重要な文書です。もし覚書の内容に違反することがあれば、法的な罰則の対象となることもあります。
覚書と契約書の違い
企業間の取引に関連して作成される文書には、覚書のほかに「契約書」があります。合意した内容を詳細に記載し、当事者の署名、押印をもって契約締結とするのが契約書の一般的な形式です。契約書と覚書の共通点としては、どちらも合意事項を記録し、法的効力を持ちうる点が挙げられるでしょう。
契約書と覚書の違いは、記載する内容の詳細さと使用される場面にあります。覚書は契約書ほど厳密な形式が用いられず、記載内容も簡潔である場合が多いです。また、覚書は、契約書作成の準備段階で重要な事実や合意事項を記録するための中間的な文書、または契約書作成後に契約内容を補完するために作成される補足的な文書であり、一般に、契約書を前提として使用されます。
これに対して契約書は、合意に至った内容を詳細に記載し、権利義務関係を明確にするために作成します。特に、複雑な契約事項を含む売買契約などでは、支払いや引き渡しの条件など、具体的な内容を細かく記載することで、当事者間の認識や解釈のずれを防ぐことが可能です。
関連記事:NDA(秘密保持契約)とは?締結のタイミングや流れ、締結時のポイントを解説
覚書と念書の違い
契約書に加えて、「念書」も覚書と混同されやすい文書のひとつです。一般的に、覚書や契約書は複数の当事者が合意した内容を記録するものであるのに対し、念書は片方の当事者が相手方に履行を求める事項を記載して、相手に渡すために作成されることが少なくありません。念書を受け取った側がその内容を確認してサインした場合、その記載事項を履行する義務が生じます。
双方の合意を前提とした覚書とは異なり、念書は、一方的な約束事を記載した文書として扱われます。しかし、上記の作成プロセスからも明らかなように、他方の当事者も内容に納得し、その約束どおりに履行されることを望んでいるのが通常です。
つまり、念書も、一般には、双方の間で、記載内容の合意が成立したことを証明する文書といえます。
覚書を作成するタイミング
覚書は、契約書の代わりや補完として使われることが多く、その目的に応じて作成のタイミングも変わります。代表的な2つの用途の場合について解説します。
合意事項の概要を確認する場合:契約前に作成
正式な契約を結ぶ前に、基本的な合意事項について内容の漏れや誤りがないか確認するために、覚書を締結することがあります。こういったケースでは、契約の大まかな内容を先に決め、詳細は後で調整する方法をとることが多く、契約書を作成する前に合意事項の概要を把握しやすくする目的で、覚書が作成されます。
ただし、のちに正式な契約の締結に至らなかったという場合、覚書から何らかの法的効力が生じるか否かは、具体的な事案により異なってきますので、注意が必要です。
内容の変更や追加をする場合:契約後に作成
正式な契約を結んだ後に、覚書を作成するケースも少なくありません。契約時に決めた条件や取引内容は、状況の変化により変更や追加が必要になることがあります。こうした場合、変更内容を記録する手段として覚書が用いられることが一般的です。また、取引を急ぐ際には、詳細な契約書の作成を後回しにして、まずは覚書で合意を補完する方法も取られます。
覚書が法的効力を持つための条件
覚書は正式な契約文書として扱われる場合もあるため、覚書が法的効力を持つ条件について理解しておくことが重要です。ここでは、覚書が法的効力を持つために必要となる、主な2つの条件について解説します。
双方の合意が形成されていること
覚書が法的効力を持つためには、覚書の内容について、関係する当事者同士が十分に話し合い、合意が得られていることが必要条件です。例えば、一方が勝手に覚書を作成して相手方に送付しても、相手が内容に同意していなければ法的効力は生じません。
合意事項が具体的かつ現実的であること
第三者が見ても理解できるよう、合意事項が具体的で現実的なものであることも、覚書が法的効力を持つための条件です。たとえ双方が合意していたとしても、内容が曖昧だったり、実現が困難だったりする場合は、法的効力を持たないと判断されることがあります。内容が適切でないと見なされた場合も同様です。
覚書の書き方
覚書を法的効力のある文書として作成するためには、必要な項目を適切に記載することが重要です。ここでは、覚書に記載すべき基本的な項目と、その書き方について解説します。
表題(タイトル)
覚書の冒頭には「表題(タイトル)」を記載します。関連性や内容がひと目でわかるよう、「○○に関する覚書」のように具体的な表題をつけることをおすすめします。
前文
次に、前文では契約に合意した当事者を明記します。覚書内で当事者を「甲」「乙」などと表記すると、何度も正式名称を記載する手間を省くことが可能です。ただし、複雑な内容の場合は、甲乙の書き間違いが生じることも考えられるため、立場に応じて、「買主」「売主」、「委託者」「受託者」などと記載するほうが適切な場合もあります。なお、先に契約書を交わしている場合は、その契約書と同じ呼称を使うと混乱を避けることができるでしょう。
本文
本文では、当事者双方が合意した内容をわかりやすく箇条書きで記載します。もし契約書を変更する場合には、新しい内容だけでなく、変更前からどのように変わったのかも明確に記述しましょう。
後文
後文は、本文の後に記載する締めの文章です。覚書の作成本数や保管場所を明確にするために記述します。「以上、合意の証として本書2通を作成し、甲乙両者署名押印の上、各1通ずつ保有するものとする」などの書き方が一般的です。
日付、署名、押印
最後に、日付と当事者双方の署名、押印を行います。ここに記載する日付は「覚書を書いた日」ではなく、「契約締結日(契約の効力発生日)」です。契約締結日とは、双方が合意した日や最後に署名した日などを指し、話し合いで決定します。なお、署名や押印は法律上の義務ではありませんが、双方が合意した証拠として行われることが一般的です。
覚書を作成する際、印紙は必要?
作成した覚書が課税文書に該当する場合、記載された契約金額に応じた印紙税の支払いが求められるため、収入印紙の貼付が必要です。課税文書に該当するかどうかは、国税庁の「課税文書に該当するかどうかの判断(外部サイトに移動します)」に記載のとおり、以下の3つの条件を満たしているかで判断されます。
<課税文書に該当するかどうかを判断する3つの条件>
・印紙税法別表第1(課税物件表)に掲げられている20種類の文書により証されるべき事項(課税事項)が記載されていること
・当事者の間において課税事項を証明する目的で作成された文書であること
・印紙税法第5条(非課税文書)の規定により、印紙税を課さないとされている非課税文書でないこと
20種類の文書は、「印紙税額の一覧表(その1)第1号文書から第4号文書まで(外部サイトに移動します)」「印紙税額の一覧表(その2)第5号文書から第20号文書まで(外部サイトに移動します)」に記載のとおりです。例えば、地上権や土地の貸借権の設定または譲渡に関する覚書は「第1号文書」、請負に関する覚書は「第2号文書」に分類されるなど、記載された契約金額に応じて印紙税が課せられます。課税文書であるにもかかわらず印紙が貼付されていない場合、納付漏れとして過怠金が課される可能性がありますので、注意が必要です。
なお、覚書が、すでにある契約書の内容を変更するものである場合、課税文書に該当するかどうかは、「契約内容を変更する文書(外部サイトに移動します)」に記載のとおり、その変更内容に「重要な事項」が含まれているかどうかにより判断されます。この場合の「重要な事項」は、「印紙税法基本通達 別表第2 重要な事項の一覧表(外部サイトに移動します)」において、文書の種類ごとに例示されているため、契約書の内容に変更を加える際は、課税文書に該当するかどうかを確認しておきましょう。
参考記事:領収書などに貼る収入印紙とは?不要なケースや必要な金額、貼り方を解説
覚書のまとめ
以下に、覚書についての要点をまとめます。
・覚書は、契約に関わる当事者間の合意事項を記録するための文書であり、合意事項の確認や補完に用いられる
・覚書は契約書よりも簡易的だが、契約書と同様、必要な条件を満たせば法的効力を発揮する
・覚書が印紙税法による課税文書に該当する場合、記載されている金額に応じて印紙税を支払う必要がある
(免責事項) 当社(当社の関連会社を含みます)は、本サイトの内容に関し、いかなる保証もするものではありません。 本サイトの情報は一般的な情報提供のみを目的としており、当社(当社の関連会社を含みます)による法的または財務的な助言を目的としたものではありません。 実際のご判断、手続きにあたっては、本サイトの情報のみに依拠せず、ご自身の適切な専門家にご自分の状況に合わせて具体的な助言を受けてください。