■監修者プロフィール
渋田 貴正(しぶた・たかまさ)
税理士、司法書士、社会保険労務士、行政書士、起業コンサルタント®
東京大学経済学部卒。大学卒業後、大手食品メーカーや外資系専門商社にて財務・経理担当として勤務。在職中に司法書士、社会保険労務士の資格を取得。2012年独立し、司法書士事務所開設。2013年に税理士の資格取得。複数の資格を活かし、多方面での起業家支援をしている。
田中卓也税理士事務所(外部サイトに移動します)
【目次】
損益計算書(P/L)とは一定期間の損益をまとめた決算書類
損益計算書の項目と見方
損益計算書で把握できるのは利益構造
損益計算書で確認しておくべきポイント
損益計算書のまとめ
損益計算書(P/L)とは一定期間の損益をまとめた決算書類
損益計算書は、一定期間の会社の経営成績をまとめた決算書類です。英語では「Profit and Loss Statement」となり、略して「P/L(ピーエル)」とも呼ばれます。
損益計算書は、収益と費用とを対比して、その差額となる利益を示すものです。例えば、商品やサービスを販売して得た収益から、販売にかかった諸経費(コスト)を差し引いて、最終的にどれだけ利益が出たのかを読み取ります。
一般的に決算書といわれる書類は、実は提出の目的や場面によって正式名称が異なります。金融商品取引法では「財務諸表」と呼ばれ、上場企業などに作成が義務付けられています。上場企業以外の企業でも決算書のことを財務諸表と呼ぶこともありますが、単に決算書と呼ぶケースも多いです。
中でも「損益計算書」、「賃借対照表」、「キャッシュフロー計算書」の3つは「財務三表」といわれ、会社の経営や財政状態を示すのに重要な役割を果たします。
それぞれの書類の概要について、損益計算書と比較しながら見ていきましょう。
貸借対照表(B/S)
貸借対照表は、一定時点(一般的には決算日を指します)における会社の資産・負債・純資産の状態を表した決算書類です。英語では「Balance Sheet」、略して「B/S(ビーエス)」または「バランスシート」とも呼ばれます。損益計算書が一定期間の経営成績を表すのに対し、貸借対照表は特定時点の財政状態を示す点に大きな違いがあります。
キャッシュフロー計算書
キャッシュフロー計算書は、一定期間における現金や換金性の高い資産の増減を表す決算書類です。営業活動、投資活動、財務活動の3つで成り立ち、それぞれの活動におけるキャッシュの出入りを示します。キャッシュフロー計算書からは、期初にあった現金と期末に残った現金の差額に基づいて手元にあるキャッシュを確認でき、期間中にお金が出入りした理由と流れがわかります。
キャッシュフロー計算書は現金の流れのみを表しますが、損益計算書には売掛金や買掛金も含まれる点が大きな違いです。
関連記事:キャッシュフロー計算書と損益計算書の違いとは?考え方を解説
損益計算書の項目と見方
損益計算書からは、一定期間の最終的な利益を読み取ることができます。ここからは、損益計算書の項目と、その見方について解説します。
営業損益の部
営業損益の部には、本業の営業活動による「売上高」「売上原価」「売上総利益」「販売管理費および一般管理費」「営業利益」が記載されます。これによって、会社が本業とする事業によってどれだけの利益、および損失があったかがわかります。それぞれの項目の説明は、以下のとおりです。
<営業損益の部の項目>
・売上高:本業である商品やサービスを提供して得られた売上金額の総額
・売上原価:売り上げた本業である商品の仕入れや製造・製作のためにかかった金額その他サービスを提供するために直接かかる金額
・売上総利益:売上高から売上原価を引いた利益(粗利)
・販売費および一般管理費:営業部門や間接部門の人件費、広告宣伝費など販売業務や管理業務で発生した経費
・営業利益:売上総利益から販売費および一般管理費を引いた金額
営業外損益の部
営業外損益の部には、「営業外収益」と「営業外費用」が記載されます。この項目からは、本業以外の活動から生じる収益や費用を把握できます。それぞれの項目の説明は、以下のとおりです。
<営業外損益の部の項目>
・営業外収益:本業以外の活動で経常的に得ている収益
・営業外費用:本業以外の活動で経常的に発生する費用
経常利益
経常利益は、営業損益と営業外損益をもとに、本業と本業以外の活動を含めて1年間で得た利益の額を示します。営業利益に営業外収益を足した金額から営業外費用を引いたものが経常利益です。
特別損益の部
特別損益の部には、「特別利益」と「特別損失」が含まれます。ここからは、通常の活動では発生しない臨時の利益と損失がわかります。それぞれの項目の説明は、以下のとおりです。
<特別損益の部の項目>
・特別利益:固定資産や長期保有する株式の売却などで得た金額
・特別損失:固定資産除却損や長期保有する株式の売却損、自然災害による損失などの金額
税引前当期利益
税引前当期純利益は、1年間の事業活動を通して得た利益を表す項目です。経常利益と特別利益を足した金額から、特別損失を差し引いて求めます。
当期純利益
当期純利益は、税金を差し引いた今期の最終的な利益額を表す項目です。税引前当期純利益から法人税、住民税、事業税を引いて求めます。当期純利益がプラスならその会計期間は黒字、マイナスは赤字と判断できます。
関連記事:法人税とは?法人にかかる税金の種類や税率、計算方法について解説
損益計算書で把握できるのは利益構造
損益計算書を正しく読むと、利益構造と会社の稼ぐ力が把握できるので、経営戦略の策定に役立てることができます。損益計算書に記載された「売上総利益」「営業利益」「経常利益」「税引前当期純利益」「当期純利益」の5つの利益を見ることで、自社がどの事業でどれくらいの利益や損失を出しているかを読み取ることが可能です。
上記の5つの利益について、それぞれ以下で詳しく見ていきましょう。
売上総利益
売上総利益は、売上から商品の原価を差し引いた金額です。「粗利」「粗利益」などと呼ばれることもあります。
売上総利益 = 売上高 - 売上原価
売上高から売上原価を引いた売上総利益がわかると、売上原価率が適正かどうかを把握することが可能となります。
売上原価率は業種や業界によっても異なるため、業種や業界別に適正かどうかを確認する必要があります。経済産業省が公表している「2022年企業活動基本調査確報-2021年度実績-(外部サイトへ移動します)」の結果をもとに、売上高のうちの売上原価の割合を示す「売上原価率」を業種別に算出すると、2021年度は製造業が79.6%、卸売業が87.1%、小売業が70.3%となっています。売上総利益が少ない場合は、売上原価率を検証し、原料や仕入先の見直しを行うなど改善を図りましょう。
営業利益
売上総利益から、営業活動に伴って生じる原価以外の費用(広告宣伝費、通信費、オフィスの賃料、社員の給料、消耗品費、水道光熱費など)を差し引いたものが営業利益です。
営業利益 = 売上総利益 - 販売費および一般管理費
営業利益は、売り上げを上げるためにかかるコストをすべて取り除いて、企業が本業でどれだけ稼いだかを示しています。営業利益を求めると、本業の収益性や経営効率、業績のほかにも、製品やサービスの付加価値を把握できます。
付加価値の高い製品やサービスほど売上原価に利益を上乗せできます。付加価値とは、簡単にいうと営業利益のうち、その企業の活動自体から生み出された額です。
付加価値額は、売上高から他社が生み出した価値(例えば外注費や他社から仕入れた材料費、水道光熱費など)を控除して求めます。付加価値額自体は、損益計算書の中に直接出てくる数字ではありませんが、各科目の数字を数式に当てはめていくことで計算できます。
中小企業庁の「中小企業実態基本調査(令和4年確報) (外部サイトへ移動します)」によると、売上高のうちの付加価値額の割合を示す「付加価値率」の中小企業の全業種平均は26.93%とされています。
経常利益
本業の利益を示す「営業利益」に、すべての通常業務で得た「営業外収益」を足して会社全体の利益を表したものが経常利益です。営業外利益には、本業に付随して行っている何らかの業務で得た収益や、株の取引で得た収益などが含まれます。
経常利益 = 営業利益 + 営業外収益 - 営業外費用
なお、臨時的に発生した土地の売却益などは営業外収益には含みません。そのため、経常利益がわかると、その企業が1年間の事業活動で純粋にどれだけ稼いだかがわかります。また、本業を軸にしながら新事業に取り組んでいる場合などは、新事業の収益性を判断する材料としても使えます。
税引前当期純利益
税引前当期純利益は、通常の事業活動において得られる経常利益に、臨時的・一時的に発生する特別利益や特別損失を含めて算出する利益です。予期せぬ災害による損失なども含みます。
税引前当期純利益 = 経常利益 + 特別利益 - 特別損失
税引前当期純利益は、すべての事業活動によってもたらされた利益です。ある事業期間における経営成績を知りたい場合や、複数年の経営成績を比較したい場合に使われます。
当期純利益
当期純利益は、1年間の事業活動で得た利益から、仕入れ費用や人件費などのコスト、税金を引いた最終的な利益です。
当期純利益 = 税引前当期純利益 - 法人税等
当期純利益は1年間の最終的な経営成績を表すものではありますが、臨時的な損益も含まれるため、当期純利益の額だけを見るのではなく、内訳を確認することが大切です。
関連記事:ROE(自己資本利益率)とは?目安や計算式、ROAとの違い、高める方法
損益計算書で確認しておくべきポイント
ここからは、損益計算書で特に確認しておくべき3つのポイントを紹介します。
当期純利益と営業利益がプラスになっているか
損益計算書で確認しておくべきポイントのひとつは、当期純利益と営業利益がプラスになっているかどうかです。当期純利益は、ある事業期間における会社の純粋な利益で、当期純利益がマイナスであれば会社は赤字、プラスなら黒字ということになります。
一方、営業利益は本業の儲けを示すことは前述したとおりです。したがって、当期純利益がプラスで会社全体は黒字でも、営業利益がマイナスであれば本業の儲けは少ないということがわかります。この場合、主力事業の経営を見直して、利益が出る仕組みに修正する必要があるでしょう。
売上高営業利益率
売上高営業利益率は、売上高に占める営業利益の割合で、本業がどれだけ営業利益に貢献しているかを知ることができます。売上高営業利益率が高ければ、本業の収益力が高く、稼ぐ力のある会社だといえるでしょう。
売上高経常利益率
売上高経常利益比率とは、売上高に占める経常利益の割合のことです。営業活動による収益だけでなく、営業外収益がある企業は売上高経常利益率が高く、健全な経営状態にあるといえます。
ただし、売上高経常利益率が売上高営業利益率より低い企業は、営業外利益から営業外費用を差し引いた営業外損益がマイナスであり、借入金の利息などの負担が大きいと考えられます。
損益計算書のまとめ
ここまで、損益計算書について解説してきました。以下に要点をまとめます。
・損益計算書は、企業の経営状況を把握するうえで重要な書類
・損益計算書は、企業の収入と支出から、最終的な利益を示す財務諸表のひとつ
・損益計算書を読み解くと、自社の利益構造や損失の出どころがわかり、適切な経営判断につなげられる
・損益計算書では、特に「当期純利益と営業利益がプラスか」「売上高営業利益比率は高いか」「売上高経常利益比率は高いか」の3つを見ることが重要
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