2023年10月1日のインボイス制度開始まで1年を切りました。いよいよ本格的にインボイス制度への対応準備が必要になってきます。
そこで、中小企業の財務支援に特化した税理士事務所、エンパワージャパン代表を務めます穂坂光紀が、前回の「【インボイス制度】制度の目的は? 登録しないとどうなる? 基本的なポイント」に続き、今回は、一定の要件を満たすことで消費税の支払いが免除される「免税事業者」の方々(フリーランスをはじめとする個人事業主、小規模事業者など)への影響について解説をしていきます。
【適切に納税の申告手続きができている?】
フリーランスをはじめとする個人事業主、小規模事業者に対する規制強化が鮮明に。早めの対応を
「働き方改革」という言葉が使われるようになってから、企業に雇用されるのではなく、フリーランスを選択する方も増えてきています。ランサーズが発表した『新・フリーランス実態調査 2021-2022年版』(※外部リンクに移動します)によれば、広義のフリーランス人口は1,577万人。総務省統計による2021年の日本の労働人口が6,860万人なので、じつに5人に1人がフリーランスという実情です。
フリーランスは特定の企業に縛られることなく自由意思によって仕事を選ぶことができ、自分に合った仕事や働き方を見つけやすくなります。また、そうした働く側のニーズだけでなく、企業にとっても社会保険の負担や退職金の積み立て準備が不要となったり、消費税の計算上、フリーランスへの報酬は仕入控除ができるといったメリットがあります。
一方で、フリーランスとして働くということは、「個人事業主」や「小規模事業主」として納税をすることになります。つまり、サラリーマンからフリーランスになると、今までは会社にやってもらっていた様々な手続きを自分でやる必要があるわけです。しかし、知識不足や経験がないため正しい計算ができていなかったり、申告そのものを忘れてしまったりするケースが激増しています。インボイス制度創設の目的も、こうした適切な申告が行われていない事業者を指摘し、不正事業者を市場から排除するというもの。そのため、これまで適切な手続きができていなかったフリーランスの方は注意が必要です。
【インボイス制度に登録する? しない?】
消費税の免税事業者に迫られる厳しい選択
これまでは、基準期間(個人事業主は前々年、法人の場合は前々事業年度)における消費税の対象となる売上高が1,000万円未満であれば、消費税の申告が免除されていました。しかし、制度開始後は全ての事業主がインボイス制度の登録事業者になるか、登録事業者にならずに引き続き免税事業者でいるのかの選択をしなければいけません。インボイス制度の登録事業者になると強制的に消費税の課税事業者となり、消費税の申告をして国に消費税を納めることになるため、申告をする手間と納税負担が確実に増えます。
一方でインボイス制度の登録をせずに引き続き免税事業者でいる場合、「相手先が代金の支払いをする際、消費税の課税仕入れとして控除できない」、つまり取引相手の消費税の納税負担が増えてしまう結果となり、相手に迷惑がかかります。そうなってくると取引相手が負担回避のため消費税分の実質値下げを要求してくるか、最悪の場合には取引そのものが中止される可能性もでてきます。免税事業者を継続する場合であっても収入そのものが減少するリスクがあるので判断が難しいところです。消費税の免税事業者への影響については前回の記事でも触れていますので、こちらもチェックし自身のビジネスの状況や取引先との関係性を考慮した上で検討してみてください。
【インボイス制度の経過措置を活用する?】
6年間の経過措置の間に取引先と妥協点を模索する手も
免税事業者であるフリーランスをはじめとする個人事業主、小規模事業者の方にとって最も望ましいのは、現状の売上が維持されつつ、引き続き免税事業者であり続けられることでしょう。それが難しい場合、インボイス制度が始まる2023年10月1日(登録申請書類の提出期限は原則2023年3月31日まで)から登録事業者になるのではなく、「できる限り免税事業者である期間を延ばせないか」と考える人もいるかもしれません。
その際にポイントとなるのが、今回のインボイス制度に設けられている「経過措置」。インボイス制度の登録をしていない事業者に対して代金の支払いをしたとしても2023年10月1日~2026年9月30日までの3年間は支払った消費税の80%、2026年10月1日~2029年9月30日までの3年間は支払った消費税の50%が課税仕入れとして控除をすることができます。つまりインボイス制度開始から6年間はインボイス制度に登録していなくても、相手先にとっての損失は「消費税額の全額」ではなく、それぞれ「消費税額の2割と5割」ということになります。
そのため、取引先の考え方や関係性にもよりますが、経過措置の期間中は免税事業者を維持し、相手の消費税負担分に関して双方でどうするのかを話し合うというのも一つの手です。フリーランスをはじめとする個人事業主、小規模事業者の方にとって、決して軽くはない負担を回避するためにも、それぞれのビジネスにとって有利な選択とはどの方法なのか、交渉の余地はないのかを検討してみることが必要ではないでしょうか。なお、経過措置について詳しく知りたい場合は私のような税理士など、専門家に相談するか、国税庁が資料を公開していますので、国税庁のウェブサイト(※外部リンクに移動します)をチェックされることをお勧めします。
穂坂光紀氏
■プロフィール
穂坂光紀
1981年、神奈川県小田原市出身。中小企業の財務支援に特化した税理士事務所、エンパワージャパンの代表税理士。「中小企業こそ日本を支える礎である」という理念から、持続可能な社会と企業を創るための「中小企業のための財政支援プログラム」を実施。強固な財務力を持つ優良企業に導く。共著に『七人のサムライ』がある。
■スタッフクレジット
文:穂坂光紀 編集:服部桃子(株式会社CINRA)
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