プレスリリースとは、広報活動の最強ツール
井上岳久氏。井上戦略PRコンサルティング事務所代表。マーケティングPRに特化した日本で数少ないコンサルタント及びマーケティングプランナーとして活躍。
まずはプレスリリースとは何か、どのように役に立つものなのかについて解説をお願いします。
プレスリリースとは、自社の新商品やイベント、新事業への取り組みといった世間に伝えたい情報をまとめた、情報発信用の文書のことです。多くの企業でブランディングや広報活動のために活用されています。
主な目的は、新聞・雑誌・TV・ラジオ・Webメディアなど、情報拡散力の高いメディアに自社の情報を知ってもらい、記事や番組で取り上げてもらうことです。どんなに良い商品やサービスを開発しても、知ってもらう機会がなければ収益につながりません。自社のWebサイトやSNSでの告知だけでは、広く情報を拡散するのも難しいですね。かといって、広告を出すには多額の費用がかかります。
プレスリリースはそういった経費をかけずに、効率的に広報活動をするための武器です。メディアに採用されれば、企業規模に関係なく効果を得られやすいのもポイントです。「取材を一度受けただけなのに、メディアへの掲載が連鎖して、商品がヒットした」「営業に行っても話を聞いてもらえなかったのに、記事に取り上げられたら商談が舞い込むようになった」など、プレスリリースがヒット商品や企業の発展に役立ったというケースは数え切れません。
1本のプレスリリースが会社の命運を分けることもあるのですね。プレスリリースが事業活動にもたらす効果を教えてください。
まずは「認知度の向上」です。これは広報活動における大きな目的であり、事業を成功させるための不可欠な要素です。自社、商品、サービスなどを知ってもらうことは重要です。
次に「ブランディング効果」。メディアに取り上げられると、記者やコメンテーターといった第三者からの評価という付加価値が得られます。結果、商品の説得力や信用力が高まります。世間からのイメージは、報道された内容に影響されるため、「こんなイメージを持ってもらいたい」という情報をうまく発信すると、自社のブランド戦略に役立ちます。たとえば、自社の商品やサービスへの信頼性を高めたい場合には、販売数などの実績報告が効果的です。企業イメージの向上を図る場合は、SDGsや社会貢献活動の報告が良いかもしれないですね。定期的にリリースを配信することでメディアからの信頼を得たり、「メディアによく登場する企業」と消費者に認知されたりすることも、ブランド力の向上につながります。
認知度やブランド力の向上は、「マーケティング効果」や「リクルーティング効果」、「財務効果」にも大きく影響します。魅力的な商品やサービスを扱う信頼性の高い企業と認知されることで、収益が上がる、求人の応募数が増える、融資を受けやすくなるなど、さまざまな恩恵が得られます。
さらに「組織の活性化」にも貢献します。メディアに取り上げられると、「自分の会社はすごいんだな」「商品がみんなに知られているな」という自信や組織に対する帰属意識が高まりやすいのです。自社の知名度アップと社員の士気向上による相乗効果で営業活動にも拍車がかかるでしょう。「次もいいものを作ろう」「自分が扱っている商品も有名になるように頑張ろう」と社員一人ひとりのモチベーションが高まることも大きなメリットです。
重要なのは、インパクト、わかりやすさ、読みやすさ、そして熱意
売上だけでなく、組織への影響も甚大なのですね。ここからは実践編として、プレスリリースで必要な情報を教えてください。
プレスリリースはA4サイズ1枚程度の文書でOKです。取り上げてほしい情報をまとめたら、メールやプレスリリース配信代行サービスなどを使ってメディアに配信します。重視されるのは情報の中身。1つのテーマを簡潔にまとめること、情報を漏れなく入れること、一読して大まかな内容がつかめるようにすることが重要です。プレスリリースには通常のビジネスレターとは異なる定型の書式があります。伝えたい情報を以下のパートに分けて、しっかり伝わるように書くことが大切です。
1) レターヘッド
企業名やロゴが入る、文書の上部。読み手がどの会社のリリースかすぐ把握できるように定型化しておきましょう。
2) タイトル
プレスリリースの命ともいうべき、力を入れるべき部分。読み手に興味を持ってもらえるかどうかは、タイトルにかかっています。刺さるコピーのほか、文字を太く大きくしてパッと目に入るような工夫も必要です。
3) リード
リリースで伝えたいことを3~5行程度に要約した部分です。本文を読まなくても内容がつかめるように、簡潔でわかりやすくまとめましょう。
4) 本文
5W1H(When:いつ、Where:どこで、Who:誰に、What:何を、Why:なぜ、How:どのように)の情報を必ず盛り込みましょう。1枚の文書に収まるように要点をまとめるのがポイントです。専門用語は避け、業界に精通していなくてもわかるように書きましょう。写真やグラフなどを入れて、理解しやすい構成にすることも大切です。
5) 連絡先
関心を持ったメディア担当者が、発信元にアクセスするために、企業名、部署名、担当者名、メールアドレス、電話番号、所在地、自社サイトのURLは必要です。
より効果的なプレスリリースを作るコツはありますか。専任の広報担当がいなくてもできるものでしょうか。
月に数回程度の発信であれば、経営者や兼務の担当者でも可能だと思います。大前提として、商品名や価格、日付や数字など、リリースで誤記しないように注意が必要です。また、メディアには数多くのリリースが届きますから、その中から選ばれるためのノウハウがあります。
1) タイトルは3行で
1行目に「業界初」などのキャッチーな言葉を入れ、あとの2行で伝えたい主題を書きます。商品やサービスがわかりやすいだけでなく、興味を持ってもらえるような言葉選びを心がけます。
2) ビジュアルを効果的に使う
文字よりもビジュアルに目が行くものなので、ビジュアルを軸に構成するのも手です。タイトル部分にメインビジュアルを入れて、訴求力を強化するのも効果的な方法です。
3) 文章は短文で区切る
切れ目のない長い文章はタブー。あれもこれもと盛り込むより、箇条書きのような文章のほうが、頭に入ってきやすいものです。
4) 読み手の視点で読み返す
メディア側が取り上げたいと感じるポイントは、[1]今までにない特異性 [2]感情に訴えかける人間性 [3]多くの人の関心に刺さる大衆性 [4]時代背景などニーズに合った社会性 [5]社会への影響力 [6]その土地ならではの地域性、以上6つです。これらのポイントが前面に出ているか、客観的にチェックしましょう。
5) 気持ちを込めて書く
多少文章が拙くても熱意は伝わるものです。自社の商品やサービスへの愛情が詰まった文章は人の心を動かします。情熱を持って開発した商品を「どうしても知ってもらいたい!」と思いを込めたリリースを発信したら、いろいろな媒体で取り上げられ、一度は倒産寸前までいったのに業績が復活したというケースもあります。会社への愛情が深い社長や、商品を開発した担当者がリリースを書くと効果が高いと言われているのは、熱意が伝わるからですね。
6) 発信のタイミングを見極める
新商品の発売が決まったら、最速でプレスリリースを出すことを心がけましょう。広告を出稿する場合は、リリース発信の後にしましょう。広告が出た後にプレスリリースを出しても、情報の鮮度がないと判断され、記事や番組に採用されにくくなります。
また、数を出したほうがヒットにつながる確率は高まります。定期的に発信することはメディアとの関係性を作っていくことにもなります。これは営業活動のようなものと考えると良いと思います。初回でアポを取るのは難しいですが、定期的に連絡すると商談につながりやすくなりますよね。継続して情報を出すことで、メディア側での認知度や信頼度が高まります。
プレスリリースの書き方のポイント
1) タイトルは3行で
2) ビジュアルを効果的に使う
3) 文章は短文で区切る
4) 読み手の視点で読み返す
5) 気持ちを込めて書く
6) 発信のタイミングを見極める
プレスリリースによる広報活動は、小が大に勝つ戦術
プレスリリースを作成する際、どういった意識を持って取り組めば良いでしょうか。
プレスリリースを書くことは、年間の事業計画や経営戦略などをしっかり考えるきっかけになります。ベースとなる企画が緻密に練られていないとリリースに書けないからです。商品やサービスを通じて自社がどうなっていきたいのかを考え、客観的に見て実現の可能性が高いのかを精査する。この作業を掘り下げていくと、事業における目標や方向性が明確になってきます。道筋がはっきりしたことで社内の意識が統一され、経営が安定したという企業はたくさん存在します。
さらに、プレスリリースは伝えたい情報をコンパクトにまとめたツールだからこそ、社内での情報共有や営業用のツールとしても効果を発揮します。プレスリリースがあれば、顧客別、用途別などに企画書を何種類も作る労力が省けます。プレスリリースを社内外の共通資料にしたことで、いわゆる「仕事のための仕事」が激減し、業務効率が改善したケースも多くあります。
また、プレスリリースによる広報活動は、小が大に勝つ戦略であり、戦術でもあります。スキルと知恵を用いて定期的、継続的に続けることで企業の信頼性を高め、長期的に成果を出せるものだからこそ、自社の発展を目指す経営者や個人事業主の方にどんどん活用していただきたいです。私がコンサルティングを手掛けた企業の方々も、プレスリリースをうまく活用することで、自社を大きく飛躍させた方がたくさんいます。是非、自社の魅力的な商品やサービスを発信していってください。
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■プロフィール
井上岳久(いのうえ・たかひさ)
井上戦略PRコンサルティング事務所代表。日本広報教育センター最高顧問。戦略広報コンサルタント、マーケティングPRプランナー。商社などに勤務後、横濱カレーミュージアム・プロデューサーを経て現職に至る。横濱カレーミュージアムの立ち上げから携わり、2002年11月に代表に就任し、入館者数減少に悩む同館をわずか1年で復活に導く。年100回以上のイベントを開催、週2~3回のプレスリリースを配信するという独自のPR理論に基づいて実施し、大成功を収める。以降、マーケティングPR手法を講演やコンサルティングで企業や官公庁に指導している。現在はマーケティングPRに特化した日本で数少ないコンサルタント及びマーケティングプランナーとして活躍。
■スタッフクレジット
取材・文:松島佑実 編集:日経BPコンサルティング