映画や小説、アニメなど、世の中にあるさまざまなカルチャーを事業化する経営者たち。彼らはどうやってビジネスとしても利益をうむ仕組みをつくっているのでしょうか。
2009年に仲間と合同会社を設立した後、神奈川の逗子にある映画館「CINEMA AMIGO(シネマ・アミーゴ)」をオープン、2010年からは逗子の地元住民はもちろんのこと、東京からも多くの人が訪れる人気の大規模イベント『逗子海岸映画祭』を運営する長島源氏。それだけではなく、カフェや宿泊業など、自らが館長をつとめる「シネマ・アミーゴ」を軸にさまざまな事業を展開されています。穏やかでぶれない価値観を持つ彼の人柄に惹かれ、シネマ・アミーゴを訪れる人も少なくないのだとか。
起業から収益化が可能になるまでの道のり、映画館を軸にビジネスの拡張を続ける理由、その根底にある長島氏の信念とは。
「海の家」の経験が、映画館設立へつながった
――そもそもなぜ、逗子に映画館、「シネマ・アミーゴ」という場所をつくろうと考えたのでしょうか?
もともと僕はこの湘南エリアの出身で、10代の頃から海の家の立ち上げや運営に関わってきました。そこでイベントやバーなどさまざまな催しを続けるうちに、つくった「場」から交流が生まれ、カルチャーが生まれていく様子を目の当たりにしたんです。それが場づくりの面白さを知ったきっかけでした。
その後、都内で働いたり、旅をしながらアーティスト活動をしたりしていくなかで、「30歳になったら自分の空間づくりをはじめよう」と漠然と考えるようになったんです。海の家での原体験が、強く残っていたのでしょうね。そうして経験を積んでいくうちに、できるだけ自分がいる場所で、そこ独自の文化をつくり、さらには経済もまわっていくような仕組みを生み出したいという思いが芽生えていきました。
長島 源氏
――都会やほかの地域との関わりは断ち切るということでしょうか?
いえ、決してそれらと縁を切るということではありません。自立した地域同士で交流が生まれるような、多様性のある世の中になっていけばいいという思いが根底にありました。
――「シネマ・アミーゴ」は、その思いを叶えるための第一歩だったのですね。
はい。僕のまわりには、カメラマンや内装デザイナーなど、フリーランスで活動している仲間がいたので、「独立した個人が集合して、一人でできないことを一体となって取り組む基地」をコンセプトに掲げ、合同会社BASEを発足。クリエイター仲間が集まれる拠点として、映画を切り口にしたカルチャーの複合施設「シネマ・アミーゴ」をまずはつくったんです。
シネマ・アミーゴの入り口
館内
仕組みだけでは、「場」は上手く機能しない
――開業資金の調達や、事業継続のための資金繰りはどのようにされたのでしょうか?
まずは自分たちでお金を持ち寄って、さらに公庫の融資も受けました。最初に用意したそれらの資金は「シネマ・アミーゴ」の製作費にほぼ消えて、運転資金もだんだん目減りして底をつきそうになった頃、映画館以外の事業の利益が目覚しく伸びていったことでなんとか持ち直して。そこからは徐々に利益が上がっていきました。最初の5年は辛抱が続きましたね。
――映画館以外の事業とは? 詳しく教えてください。
全国区の知名度になった『逗子海岸映画祭』からの収益だったり、「シネマミーゴ」の内観を見て、僕らの世界観を気に入ってくれた方がリノベーションを依頼してくださったりなどですね。ほかには、『逗子海岸映画祭』をきっかけに結成したCINEMA CARAVANという集団の活動も大きかったです。「地球と遊ぶ」をコンセプトに、五感で体感できる移動式映画館をさまざまな場所で開催していて、地域起こし事業や、国内外の映画祭やアートフェスにも参加したりしています。
あとは、写真家であるメンバーの仕事が増えたこともプラスになりました。僕らの会社はそれぞれの仕事で得た売り上げを一旦会社に収めているので、そういった派生した事業から複合的にトータルで利益を生み出していったという感じです。
――共同創業者はじめ、メンバーがいたからこそ、さまざまな事業に派生していったのですね。
そうですね。映画祭、カフェ、雑貨販売、宿泊など、さまざまな事業に発展させていきましたが、なによりも大切にしたのが「人の力」です。やりたいことがあっても、一人ができることには限界がありますし、仕組みだけあっても場は上手く機能しません。自分だけでは手に負えない場合、パッションを持った別の人が「責任を持ってやります」と手をあげてくれたら、その人にプロジェクトを任せる。事業をまわし、拡大していきたいと思ったとき、経営側がするべきことは、やる気を持って挑戦するキーマンを信じ、サポートすることだと思いました。
僕らの場合、カフェや宿泊業などを任せているメンバーとは上司と部下の関係ではないので、お互いの意見や違いを尊重することをなによりも大切にしています。一方で、仲間から相談や提案をもらったときに、経営者としてどう判断するかの基準だけは一定に保ちつつ、ぶらさないことも重要。そうすることで、経営全体としてのまとまりや特色が現れていくと思います。
シネマ・アミーゴに併設しているカフェ「AMIGO MARKET」 写真提供:長島氏
――コロナ禍で、事業に影響はありましたか?
年配層の方たちは訪れる頻度が減った印象です。一方、リモートワークで地元から出なくなった人が増えたからか、30、40代のお客さまが増えて、逆に少しアベレージが上がりました。ただ、映画祭ができないことによる経済的な打撃は大きかったですね。とはいえ、コロナ禍は決して悪いことだけではなく、これから新しい一歩を踏み出すためのきっかけになったととらえています。
なぜかというと、映画祭は、もともとは逗子にカルチャーを根づかせるために「10年続ける」を目標にはじめた事業。仲間内では、10回目を終えたら、次世代へ引き継いでいくような動きにシフトチェンジし、映画祭の収益に依存し続けることはやめて、もっと個々の活動や新しくやりたいことに集中できるようにしていこうと、コロナ前から話していたんです。その矢先のコロナ禍だったので、ある意味強制リセットができたというか。実際、2020年から新しい事業をはじめました。同じ逗子に「アミーゴ・ハウス」というコワーキングスペースと宿泊を兼ね備えたホテルを開業し、地元の人たちに活用いただいています。
「自分たちのため」の場づくりは、結果的に崩壊する
――ご自身の地元でもありますが、場づくりという観点で逗子の魅力を教えてください。
自然だけでなく、「人」が豊かなところ。僕らが事業を始める前から、このエリアには広い視野を持ったうえでローカルにコミットできる人が集まっていました。人口の規模感もちょうど良く、外部から来たり、一度地元を離れてから戻ってきたりする人もいて、多様性を受け入れる土台がある。そこで「シネマ・アミーゴ」がハブになることで、また新しいつながりができ、イベントや仕事が生まれ、多様な人が集まる流れ、つまりコミュニティーができてきたと思います。
――「場づくり」に重要なのは、地域の絆を深める存在になることなんですね。
はい。自分たちの利益のためにコミュニティーをつくってしまうと、同じ志を持つ人が集まりづらく、求心力も弱まるため、上手く機能していかなくなる。やりたいことを通じて社会に何をもたらすことができるのか、ちゃんと向き合って考えることが大切です。
美食の街として知られるスペインのサン・セバスチャンという街があるのですが、そこでは、レストラン同士がレシピをシェアし、それぞれがメニューを改良している。そうして、街全体のレベルを上げているんです。そんな彼らの考えに共感します。
――コミュニティーがいくつかある場合、お互い衝突することはないのでしょうか。調和を保ちつつ自分たちの場所を発展させていくにはどうすればいいと思いますか?
逗子にはうち以外にもコミュニティーがあります。うちが苦手な人は別のコミュニティーと相性がいいだろうし、その逆もある。複数の場所に所属している人もいる。どんな人でも居場所を見つけられるようなエリアだからこそ、お互いにゆるやかにつながっていることを意識しつつ、できるだけ顔の見える関係性のなかでビジネスをしていけるのだと思います。
さらに「サステナブルな世の中にしていきたい」など、ご自身の根底にある想いを積極的に発信し、共有しあえる人を見つけていくのもおすすめですよ。お互いの想いを理解しあうことで、摩擦は減るだろうし、いい縁としてつながることもあるはずですから。
我慢は「最初の3年」。コンセプトをぶらさず、粘りつづけることが成功の近道
――「シネマ・アミーゴ」は今年12周年。逗子映画祭も次世代へ引き継がれていくとのことですが、今後はどんなことに取り組もうとされているのでしょうか?
ローカル同士のネットワークから、新たなカルチャーを生み出していきたいですね。先ほどのサン・セバスチャンなど、海外ローカルとの交流はもちろん、国内にも目を向けていきたい。日本は食も自然も豊かな場所がたくさんあります。どこの地域でも、思いを持ってやっていくことで、同じような考えを持つ人が集まり、場が生まれ、発展していくはず。人口密度が少し低めの地域でも、多拠点性を持つことで活性化させていくことができるのではないかと考えています。
来年開催される、『documenta15(ドクメンタ15)』というドイツの現代美術展にCINEMA CARAVAN がアーティスト集団として正式に招待されたことで、僕らがこれまで培ってきたものが、来年あたりに世界に向けて発信できそうな動きが出てきました。「コミュニティづくり」というテーマを変える気はありませんが、アーティスト集団として大舞台に出ることで、僕らを見る目はより良いほうへ変わるのではないかなと思っています。
――最後に、今後同じように「場」をつくっていきたいと考えられている方々、すでに場づくりに奮闘中の方々に向けて、アドバイスをいただけますか?
最初の3年くらいは大変ですが、コンセプトをぶらさずに粘り強くやっていくと、あるときからまわりの信頼を得られるようになり、事業の規模も利益も一気に変わっていくはず。だから最初は、人が来なくて利益にならなくても、耐えるしかない(笑)。人口が少なすぎると、創発現象が起こらないというリスクはあるので、その点も注意したいところ。地域によって「正解」は違うから、トライアンドエラーでちょっとずつ成功体験を増やしていってください。
■プロフィール
長島 源
1978年、神奈川県逗子市生まれ。BASE合同会社代表、『逗子海岸映画祭』実行委員長、シネマ・アミーゴ館長。モデル、ミュージシャンとしても活躍。2009年にカメラマン・志津野 雷とともに、カルチャー発信型の映画館シネマ・アミーゴを創業。現在は映画だけでなく音楽、食、アート、宿泊など活動の幅を広げ、地域の発信基地として人々に愛される場づくりを続けている。
CINEMA AMIGO ※外部リンクに移動します
■スタッフクレジット
取材・文:宇治田エリ 撮影:kazuo yoshida 編集:服部桃子(CINRA)