監修者プロフィール
内山 智絵(うちやま ちえ)
公認会計士/税理士
大学在学中に公認会計士試験に合格し、卒業後は大手監査法人の地方事務所で上場企業の法定監査などに10年ほど従事した。出産および育児をきっかけに退職。現在は会計事務所を開業し、中小監査法人での監査業務に加え、起業女性の会計や税務サポートなどを中心に行っている。
【目次】
粗利(売上総利益)とは売上から原価を引いた利益
損益計算書における、粗利(売上総利益)以外の利益とは
粗利(売上総利益)が最も重要な利益だといわれている理由とは
粗利のまとめ
粗利(売上総利益)とは売上から原価を引いた利益
粗利は売上総利益とも呼ばれ、損益計算書(P/L)上で売上高から売上原価を差し引いた金額、つまり利益を指します。製造業の場合には、売上原価の代わりに製造原価を引いて計算します。
粗利(売上総利益) = 売上高 - 売上原価
たとえば、ある企業の売上高が1,000万円で売上原価が600万円である場合、粗利は400万円となります。売上原価は、期首に残っていた在庫(期首商品棚卸高)に、当年度の仕入れ(当期商品仕入高)を足し、期末に残っている在庫(期末商品棚卸高)を引いて計算します。また製造原価は、材料費や労務費などを含めて計算します。
関連記事:損益計算書(P/L)とは?項目の読み解き方や見るべきポイントを解説
粗利は、企業の基本的な収益力を示す指標であり、経営判断や財務分析において重要な役割を果たします。「売上高に対して粗利の割合を示したもの」を粗利率と言い、粗利率の基準値は業種ごとに異なります。業種別では、卸売業<製造業<建設業<小売業の順で、粗利率が高い傾向があります。適切な粗利率は業種だけでなく経営方針によっても異なりますが、一般的に粗利率が高いほど、企業が付加価値の高い商品やサービスを提供していて、競争力があることを意味します。
粗利(売上総利益)を上げる方法
売上総利益を上げる方法は、「売上を上げる」か「売上原価を下げる」の2つです。売上を上げるためには、販売単価や販売数を増やす必要があり、売上原価を下げるためには、仕入価格などのコスを抑える必要があります。
損益計算書における、粗利(売上総利益)以外の利益とは
損益計算書は、企業における1年間の利益を表します。粗利である「売上総利益」、「営業利益」、「経常利益」、「税引前当期利益」、「当期純利益」と利益区分が5つあります。粗利である「売上総利益」以外の利益区分について説明します。
営業利益
営業利益とは、企業の本業から得られる利益を示し、粗利から販売費および一般管理費を差し引いて算出します。企業の本業は、基本的には定款の「主たる目的」に記載されている事業を指します。営業利益は企業における、本業の収益性を評価する指標です。本業の効率性や収益力を示し、経営陣のパフォーマンスを評価するために用いられます。
営業利益 = 粗利 - 販売費 - 一般管理費
経常利益
経常利益とは、営業利益に加え、利息収入や株式の配当収入など本業ではないものから得た利益を指す「営業外収益」から、その活動に必要なコスト「営業外費用」を差し引いて算出する利益です。企業の収益力を評価する指標となります。
経常利益 = 営業利益 + 営業外収益 - 営業外費用
税引前当期純利益
税引前当期純利益とは、税引き前利益とも呼ばれ、経常利益に特別損益を足したものを指します。特別損益とは、業務活動に関係ないもので、規則的また反復的に生じることのない臨時の利益(特別利益といいます)や損失(特別損失といいます)を指します。企業の、該当する会計期間における全体の利益額を示します。法人税、住民税、事業税などの税金を差し引く前の段階で、企業の収益性を評価することができます。
税引前当期純利益 = 経常利益 + 特別利益 - 特別損失
当期純利益
当期純利益とは、純利益とも呼ばれ、税引前当期純利益から法人税、住民税、事業税などの税金を差し引いた後の利益を指し、最終的な利益を示します。当期純利益がプラスであれば、該当の会計期は黒字、当期純利益がマイナスの場合は赤字ということになり、算出された金額を「当期純損失」といいます。当期純利益には特別利益などが含まれるため、当期純利益がいいからといって経営状態がいいとは限りません。当期純利益単体で経営状況を判断せず、当期純利益の特徴を踏まえたうえで、他の利益と併せて分析を行いましょう。
当期純利益 = 税引前当期純利益 –税金
また、当期純利益から、売上高の何%が利益として残っているかを示す「売上高当期純利益率」や、企業の資本金に対しての当期純利益の割合を示す「ROE(自己資本利益率)」、企業の総資産をいかに有効的に活用できたかを示す「ROA(総資産利益率)」を算出することができます。
関連記事:ROE(自己資本利益率)とは?目安や計算式、ROAとの違い
粗利(売上総利益)が最も重要な利益だといわれている理由とは
粗利(売上総利益)は、一般的に5つの利益の中で最も重要な数字だといわれています。その理由としては、経営状況の把握や競争力を評価するための判断材料となるからだといえるでしょう。
経営状況の把握
粗利は、端的に利益が残るように経営ができているかを理解するための指標にもなります。利益が残っているのは、全経費よりも多くの粗利が得られているということになるからです。
また、同じ業種の粗利率の平均と自社の粗利率の比較や、同じ業種かつ、企業規模や商品内容が近い競合他社と比較することで、客観的に自社の経営状況を把握することも重要でしょう。
競争力の評価
前述の通り、業種だけでなく経営方針によっても異なりますが、一般的には粗利率が高いと、企業が付加価値の高い商品やサービスを提供していて競争力があることを示します。粗利はどのくらいの付加価値が商品に付けられているのかの判断材料にもなります。原価に上乗せできている粗利がどのくらいあるかをみることで、付加価値が消費者にはどう評価されているかがわかるでしょう。
粗利を分析することで、収益性の向上を図ることも可能でしょう。粗利が高い商品の場合は値引き戦略をすることで、粗利が低い商品の場合はサービスや付加価値の強化により、全体の売り上げ数を伸ばすことでの増益や、利益構造の改善にもつながるでしょう。また、かかっている原価、原材料費や製造コストは適切な金額なのかを見直すことは、材料の供給元や生産プロセスの効率性の向上につながります。
ただし、粗利だけを分析するのでは判断材料としては不十分だといえるため注意が必要です。粗利だけでなく、粗利と営業利益を比較し分析するようにしましょう。粗利がプラスであっても、販売費および一般管理費などの支出が大きければ、営業利益が低下し、場合によってはマイナス、つまり赤字となってしまう可能性があります。人件費や広告宣伝費、家賃、光熱費などの販売費および一般管理費のコスト管理も重要です。
粗利のまとめ
粗利に関する要点を以下にまとめます。
・粗利(売上総利益)とは売上から原価を引いた利益
・粗利(売上総利益)は、企業の基本的な収益力を示す指標で、経営判断や財務分析において重要な役割を果たす
・粗利(売上総利益)は、経営状況の把握や競争力を評価のための判断材料となる
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