■監修者プロフィール
渋田 貴正(しぶた・たかまさ)
税理士、司法書士、社会保険労務士、行政書士、起業コンサルタント®
東京大学経済学部卒。大学卒業後、大手食品メーカーや外資系専門商社にて財務・経理担当として勤務。在職中に司法書士、社会保険労務士の資格を取得。2012年独立し、司法書士事務所開設。2013年に税理士の資格取得。複数の資格を活かし、多方面での起業家支援をしている。
司法書士事務所V-Spirits(外部サイトに移動します)
【目次】
資金繰りとは企業の収支を管理し、過不足を調整する活動
資金繰りとキャッシュフローの違い
資金繰りが悪化する原因
資金繰りを改善する方法
資金繰りのまとめ
資金繰りとは企業が収支を管理し、過不足を調整する活動
資金繰りとは、企業が常に資金を確保しておくために収入と支出を適切に管理し、収支の過不足を調整する活動です。
資金繰りを考えるうえでの資金とは、現金や普通預貯金、公社債投資信託など、すぐに支払いに回せるお金を指します。一方、定期預金や売掛金、貸付金、不動産、設備などの「現金化に時間を要するもの」は、資産価値はあるものの、直ちに使えるものではないため、資金には含まれません。
資金繰りがうまくいかなくなれば従業員の給与や取引先への支払いが滞ってしまったり、最悪の場合、倒産の危機に陥ったりすることもあります。収支の管理だけでなく、資金繰りの健全性を常に確認し、適切に管理することが重要でしょう。
資金繰りとキャッシュフローの違い
資金繰りとキャッシュフローは、どちらも資金の流れを把握するという点では共通しますが、意味や用途が異なります。
資金繰りの意味は先述した通りです。資金繰りの主な目的は、現在から将来の資金の流れを予測し、それに基づいて収支の過不足を調整することです。現在と将来の支出や収入を計画的に管理し、必要な資金が不足することを未然に防ぐ役目を果たします。
一方、キャッシュフローは、企業に入ってくる現金(キャッシュイン)と、出ていく現金(キャッシュアウト)の流れです。キャッシュフローを見ることで、過去の一定期間における企業の資金の増減を把握することができます。キャッシュフローの状況を把握できていないと、現金が不足して資金繰りが悪化するおそれもあるため、注意が必要です。
関連記事:中小企業の財務支援に特化した税理士事務所による、長く事業を続けるための「キャッシュフロー」講座2
資金繰りが悪化する原因
資金繰りはさまざまな原因によって悪化します。以下に、資金繰りが悪化する主な原因を挙げていきます。
赤字の継続
資金繰り悪化の原因のひとつに、赤字の継続が挙げられます。赤字の継続とは、事業活動において収益が支出を下回り、結果的に損失が続く状況です。この状態が続くと、経営資源が徐々に枯渇していき、資金の回転が滞り、資金繰りが悪化する可能性が高まります。特に固定コストが高い企業や、新規ビジネスの開始による初期コストの発生など、利益を上げるのが難しい時期に起こりやすい状況といえます。
過剰な在庫
過剰な在庫をかかえることも、資金繰りを悪化させる原因となります。在庫は商品や材料として保有する資産のことであり、その量が過剰になると資金が滞留しやすくなります。在庫を多く抱えてしまうと、不良在庫が発生する率も高くなります。不良在庫は資金化できない、または資金化までに時間がかかるため資金の回転速度が鈍化し、資金繰りに悪影響を及ぼしかねません。売上予測のミスや購入計画の不備、市場動向の読み違いなど、その原因となることが起こらないよう注意しましょう。
大規模な投資
大規模な投資も、資金繰りの悪化を招く原因となりえます。企業が成長や拡大を目指す際には、大規模な設備投資や人材採用の強化、M&Aなどの大きな支出を行うことが一般的です。これらの活動は、企業が中長期的な成長を目指すうえで不可欠ですが、金融機関からの借入金が増えたり、投資した金額に対して売上やリターンが見合わなかったりするなど、資金繰りを圧迫するリスクを伴います。
売上の減少・受注の増加
売上の減少・受注の増加も資金繰り悪化の主な原因として挙げられます。市場全体の縮小や競合との競争激化などさまざまな要因により企業の売上が減少した場合、利益も減少するおそれがあります。利益が減少することで、経費や仕入れなどの支払いが困難になる可能性が高まるので、資金繰りのバランスが崩れかねません。
一方で、急激な受注の増加も資金繰りの悪化を招くことがあります。受注の増加に伴って、在庫が増えたり、設備投資が必要になったりと、先行投資が増えてしまう場合などです。例えば、仕入先への支払いと販売先からの入金のタイミングによっては、資金不足に陥るおそれもあるでしょう。
売掛金の回収遅れ
売掛金回収の遅れも、資金繰りが悪化する原因のひとつです。売掛金の回収遅れが重なると、企業の資金繰りに大きな影響を及ぼします。特に売掛金の形での取引が多くを占めている場合や、取引先の数が少なく数社に依存している場合、売買契約の内容に明確な支払期日やペナルティが設定されていない場合などは、取引先の経営状況や景気の悪化などによって、回収遅れのリスクが高まるでしょう。
売掛金の回収が遅れるということは、予定していた時期に資金が入ってこないということです。つまり、手元の資金が減少します。そのために急遽、銀行などから短期的な資金調達が必要となった場合など、金利コストの増加も避けられなくなります。キャッシュフローの予測がずれることで設備投資や人的投資のほか、M&Aなどができず、事業拡大のチャンスを逃すおそれもあるでしょう。
資金繰りを改善する方法
では、資金繰りを改善するにはどのような方法が有効なのでしょうか。ここからは、資金繰りの改善方法を紹介します。
売上拡大の取り組み
売上拡大の取り組みは、企業の資金繰りを改善するために有効な手段のひとつです。売上が増えることでキャッシュインが増えるので、キャッシュフローが改善されて支払い能力が向上します。また、売上が増えることで収益も増加し、より多くの資金を事業運営に投入することが可能になります。加えて、売上拡大により企業の信用力が向上し、新たな投資を受けられる機会が増えるかもしれません。
売上の拡大の方法としては、新規顧客や市場の開拓、マーケティング活動の強化、販売チャネルの多様化、顧客満足度の向上などが考えられます。
ただし、資金繰り改善の観点からは単に売り上げを拡大するだけではなく、後述の在庫最適化や売掛金回収のサイクル改善などがセットになることが前提となります。
在庫の最適化
在庫の最適化は、企業が運転資金を確保するために有効な方法です。企業が余分な在庫を抱えてしまうと、資金が商品などの形で固定化され、運転資金を確保することができなくなるおそれがあります。
しかし、適切な在庫管理を実現できれば、在庫の資金化のサイクルを短縮することが可能になります。運転資金の回転が早まることで、同じ期間内により多くの取引を行い、結果的に資金繰りを健全に保つことができるでしょう。
経費の削減
企業の支出の多くを占める経費の削減も、資金繰りの改善につながります。売上高が一定のまま経費を削減できれば、利益率が上がり、結果的にキャッシュフローが改善されます。定期的な経費の見直しを行って無駄な支出を削減することで、常に資金繰りに対してよい影響をもたらすことが可能です。
支払い条件や売掛金回収の見直し
支払い条件や売掛金回収の見直しも、企業の資金繰り改善に向けた直接的な取り組みのひとつです。
例えば、売掛金の回収期間を短縮できれば、企業は収益を早期に現金化することができ、資金の増大や維持が容易になります。あるいは、仕入れ先やサービス提供者への支払い条件を見直して、自社が支払う期限を延ばすことができれば、一時的に手元に残る資金の量が増えるため、資金繰りは安定するでしょう。
支払い条件や売掛金回収の見直しは、売掛金の未回収リスクの低減、資金繰りの予測の精度向上にも役立ちます。取引先ごとに売上帳を作成し、定期的に確認するなどして、資金繰りにプラスとなるような管理をしていくことが大切です。
外部資金の確保
銀行などの金融機関や投資家からの融資や資金調達を受けることも、資金繰りのための重要な戦略のひとつです。これにより外部資金を確保できれば、短期的な資金繰りの悪化を緩和することができます。
例えば、一時的な収入の減少や予期しない大きな支出が発生したときに、短期的な資金不足をカバーできたり、外部資金を運転資金として使ったりすることで、業務を安定的に行うことが可能です。
特に成長期や拡大を目指す企業が新しいプロジェクトや事業展開、設備投資などを行う際には、外部資金の確保が必要不可欠といえるでしょう。
資産の有効活用
資産の有効活用とは、企業が所有する不動産や設備などの資産を売却したり、売却してリース契約をしたりするなど、迅速にキャッシュを確保することです。
活用できていない資産を売却することで、企業はキャッシュを確保でき、そのキャッシュを急な支出増加のカバーや投資の際の資金として使うことが可能になります。資産を保有していると、維持費や税金などのコストがかかることがあるため、不要な資産の売却やリースを終了させることは、コスト削減にもつながります。
特に長期間保有している不動産や設備などの固定資産の売却は、短期的な資金不足の補填に役立つことが多いといえるでしょう。
資金繰りのモニタリング
資金繰りのモニタリングとは、企業の資金の流れや状態を継続的に監視・評価し、管理する活動のことです。モニタリングの実施により、企業は資金の収支状況、将来の資金の必要量、余剰資金の存在などを把握することができ、それをもとに適切な資金繰りの計画や調整を行えるようになります。
収入と支出の動きを追い、資金の余剰や不足が生じていないかを確認して、期間ごとのキャッシュフローの分析、問題やリスクの早期発見、将来予測などを行います。
資金繰り表の作成と資金管理
モニタリングと併せて、資金繰り表の作成と資金管理を行うことは、資金繰りの改善のために必須といえます。資金繰り表がないと、どの段階で資金不足になるかということも確認できないため、必ず作成するようにしましょう。
資金繰り表とは、特定の期間内における資金の流入と流出を具体的にリストアップした資料です。ある期間中にどのような収入や支出があるのかが把握できるもので、この先、資金の過不足が生じるかどうかを予測・管理するための重要なツールとなります。また資金管理とは、企業が保有する資金の流入・流出を効果的に管理し、適切に運用することを指します。
事前に資金繰り表を作成し、数ヶ月先の資金計画を立てることで、この先の資金繰りの見通しを明確化することが可能です。また、正確な予算策定とその遵守は、資金の使途を適切に管理するためにも役立ちます。
資金繰りのまとめ
ここまで、資金繰りの概念やその重要性、悪化の原因や改善方法について解説しました。以下に、その要点をまとめます。
・資金繰りとは、企業の収支を管理し、過不足を調整する活動のこと
・資金繰りの悪化の主な原因としては、赤字の継続、過剰な在庫、大規模な投資、売上の減少・増加、信用取引の条件変更、売掛金の回収遅れなどが挙げられる
・資金繰りを改善する方法として、売上の拡大、在庫の最適化、経費の削減、支払い条件や売掛金回収の見直し、外部からの資金調達、資産の有効活用、資金繰りのモニタリング、資金繰り表の作成と資金管理などが考えられる
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