経営者の抱える過重ストレスが、ウェルビーイングを妨げる要因に
経営者が相談することができる相手は自ずと限られてしまいます。そのため、孤独感を抱えながらも経営に関する悩みに一人で向き合うことが多くなったり、様々なプレッシャーが重なったりと、経営者はストレスにさらされがちです。
「私は週に一度、メンタルクリニックでカウンセリングに当たっていますが、現代人の多くが過剰なストレスを感じながら生活しているのを感じます。なかでも経営者の方は、労働環境の維持改善、従業員との適切なコミュニケーションなど細かな配慮が必要な場面も多いですよね。仕事に追われて休養を取る時間がなくオーバーワークになるなど、心身がストレス状態にあるということはよく見られます」と、身体運動や睡眠とメンタルヘルスとの関連について研究する早稲田大学スポーツ科学学術院の西多昌規教授は話します。
西多昌規氏。早稲田大学スポーツ科学学術院・教授、早稲田大学睡眠研究所・所長、精神科医
たかがストレスだと、侮ることはできません。不安や過重労働、孤立に並んで、ストレスは、経営者の健康を阻害する要因のトップに挙げられるとする研究もあります。過重ストレスによって健康が損なわれることがないように、「リフレッシュする機会をもつことはとても重要です」と西多教授。
特に、経営者自らが心身の健康を維持しながら経営に関わることは、すなわち企業のウェルビーイング経営においても不可欠といえるでしょう。そのために、ストレスを緩和してリフレッシュする機会をもつこと、さらには、孤独を抱え込まずにいざというときに頼れる仲間をもつことは、経営者にとって重要な課題といえます。
健康科学が証明する、週1スポーツのリフレッシュ効果
まず、リフレッシュの方法としては、適度に体を動かすことが有効だと、西多教授は話します。
「健康科学的に、長時間体を動かさないで座り続けることは、非常に心身の健康を害するリスクが高いことが証明されています。特に仕事で1日中、日に当たらない生活をしていると、体内時計が狂って知らず知らずのうちに、ストレスが蓄積されていきます」
外に出て日光にあたることで、不安を和らげるセロトニンというホルモンが分泌され、体内リズムが整えられることでリフレッシュ効果が得られるといいます。
「加えて、身体運動を継続していると、脳神経細胞を調整する物質が分泌されることも近年の研究によって解明されてきています。また、継続的な運動によって、情緒が安定し、意欲的になったり、積極性が出てきたりするともいわれています。休養がてらスポーツをするのは、ビジネス上でも高い効果が得られるはずです」
無理にハードな運動をする必要はありません。リフレッシュのための運動が疲労の蓄積やストレスになっては本末転倒になってしまうため、体力や持久力などを考慮しながら、心地よく汗をかくような適度な運動から始めたいものです。
「ダイエットや生活習慣病の予防が目的ならば週に3回ほど体を動かすことが必要です。しかし、そんなに時間を取れないという方でも安心してください。週に1度軽い運動を習慣化するだけで、2割程度うつ病発症の可能性を減らすことができるという研究結果も出ています。メンタルヘルスが目的ならば、週に1度、無理のない範囲で体を動かすだけでも、十分だといえます」
スポーツの持続可能性を高める仲間づくりが健康にも寄与
大切なのは、三日坊主にならず、体に適した運動を継続して行うこと。しかし、スポーツに慣れていない人にとって、運動の習慣化はハードルが高いものです。そこで、西多教授が勧めるのは、共通のスポーツをする仲間づくりです。仲間とのコミュニケーションによって、運動するモチベーションが保ちやすくなるといいます。
「運動療法でもそうですが、数回は続けられたとしても、自分ひとりでやっているとどうしてもドロップアウトしてしまう人が多い。脱落しないようにするにはどうしたらいいか。やはり、パーソナルトレーナーのような適切な指導者がいたり、共にスポーツをし“ゆるくつながる”仲間がいたりすれば、コミュニケーションが励みになります。その際、人付き合いが苦手な方は無理してたくさんコミュニケーションを取ろうとしなくても大丈夫です。挨拶がてら軽い会話を交わすようなゆるいつながりでも、モチベーションの向上になります」
また、仲間が増えることは、継続率アップだけでなく、メンタルヘルスそのものの向上にも役立つのだとか。
「体内時計を調節する条件として、睡眠と食事のタイミング、適度な運動、そして社会的なコミュニケーションの4つが挙げられます。人間は社会的生物なので、人との良好なコミュニケーションは、ストレスを和らげ、体内リズムを整える働きがあり、メンタルヘルスに与える影響が少なからずあります。ですから、適度な人とのつながりをもちながらスポーツをすることは、リフレッシュという観点からみて、理想的なのです」
スポーツと仲間づくり、一石二鳥の走らないフットサル
「走らないフットサル」の様子 写真:Larga合同会社提供
とはいえ、普段スポーツを習慣にしていないと、何から始めたらいいかわからない人も多いでしょう。
「今、世界的に、“ゆるスポ”といわれるように、仲間とともにがんばりすぎないスポーツをすることが、推奨されています。経営者の方が交流を兼ねたスポーツをするのは、息抜きやリフレッシュという意味でも、経営者仲間を増やすうえでもとても有効なのではないでしょうか」と西多教授。
軽いジョギングやウォーキング、筋トレといったスポーツもいいですが、選択肢の一つとして、チームスポーツもお薦めです。例えば、運動能力の差を気にせずに楽しむことができる、「経営者、個人事業主向け 走らないフットサル」(外部サイトに移動します)。「走ってはいけない」というルールがあるので、フットサル未経験の方でも、運動に自信のない方でも楽しめるプログラムです。また、参加資格は経営者、個人事業主ですが、従業員の方やお子様などの同行者も参加可能なので、気負わずに気軽に挑戦できます。走らないフットサルの主催者である、Larga合同会社代表の菊池康平氏によると、参加者からは、「1人でトレーニングするよりも圧倒的に楽しく、刺激をもらえる経営者仲間も増えるので継続して参加できています。」といった声や、「普段は出会わないようなジャンルの経営者にもお会いできて、実際にお仕事にもつながりました。運動もできて、良いつながりもできて一石二鳥です。」といった声があがっているそうです。
心身を健康に保つ効果がある、スポーツと仲間づくり。ウェルビーイングをドライブする最初の一歩となる新たなスポーツに挑戦してみてはいかがでしょうか。
「経営者、個人事業主向け 走らないフットサル」(外部サイトに移動します)のお支払いにも、アメリカン・エキスプレスのビジネス・カードがご利用いただけます。
■プロフィール
西多昌規(にしだ・まさき)
早稲田大学教授、精神科専門医、睡眠医療専門医。東京医科歯科大学卒業。自治医科大学講師、ハーバード大学、スタンフォード大学の客員講師などを経て、早稲田大学スポーツ科学学術院教授、早稲田大学睡眠研究所所長。専門は睡眠、身体運動とメンタルヘルス。著書に『休む技術2』(大和書房)など。
■スタッフクレジット
取材・文:宇治有美子 編集:日経BPコンサルティング