「非日常」「非効率」を大切に
──日々忙しく過ごしていると、知らず知らずのうちに脳を酷使しているため疲れていることが多いと思います。そうすると、新しいアイデアが生まれにくくなり、生産性も落ちてしまうものですが、そんな時はどうすればいいのでしょうか?
よく「雑談から何かビジネスアイデアが生まれる」といったことを聞きますし、よくみんな為すことすべてを仕事に結びつけようとするじゃないですか。でも、もっと仕事に結びつかないムダなことや非日常的なことをするのが脳のリラックスになるし、脳の動いてない部分が刺激されると思うんです。
絵を描いてみるのもいいし、子供時代にやっていたことを再開するのでもいい。そうしているうちに、気づいていなかった自分の感性に出会えると思うんですよね。
あとは自然に囲まれること。私は公園で木に抱きついたり、土や砂に触れたりしてアーシングをしています。お風呂も好きなので、自分で作った「マイ・バスソルト」で今日の自分の調子に合わせたものを選んだり、人混みの中に出かけて疲れたときには日本酒と塩をお風呂に入れたり……。
「疲れる」は「憑かれる」ですからね。気づかないうちに溜まった疲れを洗い流す行為が、気持ちよく仕事をするうえでも欠かせません。わざわざ何か新しいことをしようとするのではなく、お風呂の時間のように、いつもすることに少し変化を加えてみるだけでいいのではないかなと思います。
必要な情報は向こうからやってくる
大宮エリー氏のアトリエにて
──すべてを仕事に紐づけようとしてしまう、ということは情報収集においても言えることかも知れません。情報が簡単にいつでもどこでも手に入る世の中になったこともあり、常に探している、見てしまっているという方が大半ではないかと思いますが、情報収集や人との付き合われ方などはどうされていますか?
私は情報を自分から取りに行かないんですよ。必要な情報や出会いは必ず向こうからやってくると思っているんですよね。
ふだんはあまり人と会うわけでもなく、テレビも持っていません。だから、ネットニュースぐらいは見なければと思って、チェックするようにしていたんですが、ついつい出てきたニュースを見てしまっています。あれ?でも、これってニュースが「出てきた」のではなくて、わざわざ自分でニュースを読みに行ってしまってるんですね(笑)。ネットニュース上にそれほど重要な情報がない場合もだらだら見てしまって、時間の無駄だとは気付いているのですが、つい見てしまっているんですね。
でもですね、情報を自分から取りに行かないからこそ、得られるものがあるって思っています。いろいろなことを偶然、誰かに教えてもらったり誘われたりして、展覧会やお芝居などを見に行くことが多いんです。例えば、私の絵を持ってくださっているお客様が、コレクションを美術館に貸し出しているから見てよとおっしゃるので開催している企画展示に行きました。デイビッドホックニーの展覧会でした。そのとき見てよかったなと思える展覧会でしたね。だから必要な情報は周りから入ってくる。そのときには情報を取りにいくようにしています。
他にも、あるときカフェに行ったら、昔からの友人である女優さんと久しぶりに偶然会って。そこでお話をしていたら「今度、舞台を見にきてよ」と誘われたこともありました。情報を取りに行っていないので舞台をやっていたのも知らなかったのですが、必要なときには、情報は向こうからやって来るんですよね。
何より、いちばんの情報は「自分」です。まずは自分に詳しくなる!外部に刺激を求める時間が減れば、その分の時間を自分との対話に充てられます。そこで、自分のことをもっと引き出してあげることが大事だと思います。
みんな、自分のことが1番わかっていなかったりしませんか?色々なことを知っていても、自分のことには詳しくない人が多いと思うんです。だから、もっと自分にインタビューしてあげるといいと思います。
例えば、「どうなの、最近?」「なんで最近、その色の服ばっかり着ているの? 本当に好きな色は?」と、自分に色々な質問を投げかけるんです。いま、内省が求められる時代が来てると思うんですよね。誰かに「自分をわかってほしい!」ではなくて、「自分が自分のことをわかってあげて!」と思っています。
「いいね!」をしてもらう時代は終わり。これからは、もっと自分で自分に「いいね!」をしてあげるのがいいんじゃないかなと。
私たちは脳の大部分を活用できていないといいますが、自分との対話で自分に詳しくなれば、もっと新たな気づきや可能性が得られるんじゃないでしょうか。
自分をチューニングする。仕事において大切なのは「整える作業」
──絵を描くことも、自分との対話の1つになるのではないかと思いますが、絵を描かれるときに意識されていることはありますか?
私にとって、絵を描くというのは、目に見えないものを目に見えるものにすることです。何かを作るときは「無」の状態なんですよ。自分が空洞になることでインスピレーションが降りてくる感覚があって、降りてきたものをそのまま転写しているようなイメージです。
でも、最初からそうしていたわけではなくて、きっかけがあったんです。あるとき、沖縄の久高島に行く機会がありました。仕事がキャンセルになったので急遽向かうことにしたのですが、ちょうどその日は島の神聖な儀式があり、特別にご一緒させていただいたんです。そしたら儀式の後に、高熱が出てきてしまって。「明日は大阪の美術館でライブペインティングがあるので解熱剤をください」と島の人にお願いをしたら、「神様のエネルギーだから薬で熱を下げちゃダメだよ」と。「絵を描いてエネルギーを出したら治りますよ」と言われたんです。その後、うなされたまま大阪に向かい、美術館で島の海をモチーフにした作品を描いたら、確かに熱は下がったんです。そしたら後日、美術館から電話がかかってきて、なぜかその作品の前で眠ってしまう人が続出していると聞きました。
実はこの絵を描くとき、海の中のゆりかごで揺られるイメージを込めて描いたんです。その後、あるトークイベントで、実際に絵を観て眠ってしまったという来場者の方と話す機会があったのですが、絵を観ているうちに気持ちよくなってきて眠くて仕方がなくなって、気づいたら寝ていたと教えてもらいました。自分の込めたイメージが絵を観た人にも伝わっていたんですね。
それまでは、自分はなぜ絵を描くのかについてすごく悩んでいました。仕事がきてもよくわからないまま描いていたのが苦しかったんです。でも、この不思議な体験から「私は絵ではなくて、目に見えないエネルギーを描いているんだ」と気がついたんです。
お客さんから教えてもらったことがヒントになり、「見えないものを見えるものにする」という自分が絵を描くうえでのテーマがわかったんです。
そこから、「自分が整えば描くべき絵が描けるんだ」って思うようになりました。自分の内面を綺麗な状態にしたり、どこかでエネルギーや神聖なものをもらいに行ってからキャンバスに向かっています。
「A DIRECTION」 ハワイ島の火山(ペレ)か着想を得て、愛が噴火しているイメージを表現した作品を転写したスケートボード
──そのためにされているルーティンなどがあるのでしょうか?
創作の前には必ず神社などのパワースポットに行きます。そして一定時間をそこで過ごすんです。そこではとにかく「ぼーっ」として何も考えない。みんなついあれこれと考えてしまうじゃないですか。でもとにかく私は自分が無になるイメージを大切にしています。そうすると整っていく感覚があるんです。
整っていくと、自分が空洞のようになる。そうすると創作のアイデアは自ずと降りてきます。仕事のときは案件に合わせて大まかな方向性やトーンは決めるんですが、構図などの細かい部分までは考えません。ただ、そのトーンに合わせて作業中の音楽などもセレクトしています。「この仕事の時は、ここの神社を参拝する」というのも決めていますね。
こうして自分をチューニングしていくと、描くべきものが何かが見えてくるんです。仕事において自分は、この「整える作業」しかしていないのかもしれませんね。
私は頭で考え抜いた絵よりも、軽やかで清らかで気持ち良くなるものが描きたいんですよね。そんな気持ちで絵を描いていると、不思議なことに観る側にも自分と同じように感じてもらえます。言葉を介さなくても、自分のエネルギーは伝わると感じています。
参加される方に絵を描いてもらうワークショップを開催することもあるのですが、たとえば花を描いてもらった時などは、絵を見ながら「なんで赤色を使ったんですか?」とか「この花はなんですか?」って色々な質問を投げかけていくんですよ。
絵にはその人の無意識が出てきているわけですから、その人の個性が本当によく現れるんです。だから絵を描いてみて、その絵と対話をしていくと、自分との対話がしやすくなるんじゃないかなぁと思います。
絵を描いて誰かに見てもらうなど、「自分の分身」を見せ合う体験をするのも、知らない自分に出会いやすくなっていいですよ。
──絵を描くたびに、自分がまだ知らない自分に会えるのは新鮮で楽しい経験になりますね。
実は11月に国宝である狩野山雪の襖絵とのコラボレーションとして伝統文化である襖絵にチャレンジします。そこではどんな自分が出てくるのか、楽しみですね。
会場となる京都では、ワークショップも開催します!お話ししたようなこともみなさんとシェアしてみようと思います。
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言葉のワークショップ「大宮エリーの感性のととのえかた ~言葉のない世界で言葉をつむぎだす~」
2024年11月23日(土)17時半〜20時(予定)
※時間は変更となる可能性がございます。あらかじめご了承ください。
超少人数で、京都の妙心寺 桂春院にて開催します。
ワークショップ会場、妙心寺 桂春院
重要文化財である狩野山雪の襖絵を貸切で堪能していただき、それを題材に参加者それぞれが自分の新たな感性に気づき、心の声を聞きとり掘り下るナビゲートを大宮エリーが致します。そしてそれをわかりやすく相手に伝える方法などを参加者と交流しながら演習していく、アーティストメイドならではのワークショップ。
狩野山雪筆 襖絵「金碧松三日月図」
また、狩野山雪にインスパイアーされて大宮エリーが発表した襖絵をご覧いただきながら、言葉のない世界をどう制作するのか、また、その制作においてどう言葉を介在させているのか、構築過程をこっそりお教えします。言葉がないものを言語化する頭のトレーニングも楽しんでいただけます。
お申し込みなど詳しくは、以下窓口まで件名「妙心寺ワークショップ(ことば)」で、お問い合わせください。
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■プロフィール
大宮エリー
1975年大阪生まれ、東京大学薬学部卒業。作家、画家、演出家、ドラマ・映画監督、ラジオパーソナリティなど様々な肩書きを持つ。著作に『生きるコント』、『思いを伝えるということ』(ともに文藝春秋)など。画家としては、十和田市現代美術館をはじめ、香港、パリ、ミラノなど国内外で個展を開催。奄美大島のこどものための図書館「放浪館」の壁画や、十和田市の水力発電所の壁画、瀬戸内国際芸術祭にて出展作家として「光と内省のフラワーベンチ」「フラワーフェアリーダンサーズ」(犬島)を発表し、最新作の巨大オブジェが、今年9月、岡山の美作で発表されるなどパブリックアートも精力的に制作。また昨年、自らの絵画で構成し、脚本、演出を務めたVR映画作品「周波数」がベネチア国際映画祭でノミネートされる。これからの新しい試みに、11月に国宝である狩野山雪の襖絵とのコラボレーションとして伝統文化である襖絵にチャレンジする、京都、妙心寺(桂春院)での個展が控えている。(会期:2024/11/15~12/8)
大宮エリー(外部サイトに移動します)
■スタッフクレジット
文・編集:クーリエ・ジャポン(講談社) 写真:日下部真紀