監修者プロフィール
内山 智絵(うちやま ちえ)
公認会計士/税理士
大学在学中に公認会計士試験に合格し、卒業後は大手監査法人の地方事務所で上場企業の法定監査などに10年ほど従事した。出産および育児をきっかけに退職。現在は会計事務所を開業し、中小監査法人での監査業務に加え、起業女性の会計や税務サポートなどを中心に行っている。
【目次】
デューデリジェンスとは「買収監査」や「適正評価手続き」
デューデリジェンスの目的
デューデリジェンスの種類
デューデリジェンスの進め方
デューデリジェンスを行う際の注意点
デューデリジェンスのまとめ
デューデリジェンスとは「買収監査」や「適正評価手続き」
デューデリジェンス(Due Diligence)とは、「Due(当然行われるべき)」と「Diligence(義務、努力)」を意味し、日本語では「買収監査」や「適正評価手続き」、省略して、「デューデリ」や「DD」といわれます。投資を行うにあたって、投資対象となる企業や投資先の価値やリスクなどを適正に把握するために事前におこなう、一連の調査を指します。
昨今、委託先による個人情報漏洩など、取引先による不祥事により取引元のビジネスに多大な影響を及ぼすケースが顕著になっており、関係する取引先をより厳格に管理するために欠かせない第三者(取引先)管理におけるデューデリジェンスを取り入れる企業も増えています。
本記事で解説するM&Aにおいては、買収側が対象企業の実態を事前に把握するために、財務状況、法律問題、営業状況、IT環境など、様々な角度から調査し評価を行い、適正な価格や買収にふさわしい企業かどうかを検証するために行われます。デューデリジェンスは、M&Aを実施する対象企業の検討を終え、対象企業と「基本合意契約」締結後、対象企業との最終契約締結の前に、弁護士や会計士など外部の専門家に依頼して行うのが一般的です。調査期間は数週間〜2カ月程度が一般的ですが、対象企業の規模などによって異なります。
M&Aにおけるデューデリジェンスの目的
M&Aの買い手となる企業においてデューデリジェンスは、リスクの特定と対応の見極めおよび買収対象の企業価値の正しい評価のため、また株式譲渡・会社分割・事業譲渡などの中から、最適なM&Aの方法を選択するために行われます。
M&Aは、買収対象企業の持つ技術や資産だけではなく、債務も引き継ぐため、財務、法務の状況や市場での位置付けなどを総合的に調査し評価しなければなりません。デューデリジェンスを行うことで、財務リスクや法務リスクなどを特定し、その評価によってM&Aを行う方法の選択を含めた様々な対応を見極めることができるでしょう。
M&Aにおけるデューデリジェンスの種類
M&Aで行われる主なデューデリジェンスを7種紹介します。
セルサイドデューデリジェンス
一般的にデューデリジェンスは、買い手となる企業が費用を負担し外部の専門家に調査してもらうことが多いですが、買収対象となる売り手側の企業が費用を負担して行うことがあります。これを「セルサイドデューデリジェンス(Sell-Side Due Diligence)」といい、M&Aディールの効率的かつ効果的な制御、また戦略や財務等に関連する情報を買い手企業候補に対し正確に提供する等の目的で、売り手側となる企業が主導し、打診に先立ち実施します。
事業(ビジネス)デューデリジェンス
買収対象の企業の事業実態を正確に把握するために、買い手となる企業が行うデューデリジェンスを、事業デューデリジェンスまたはビジネスデューデリジェンス(Business Due Diligence)といいます。買収対象企業の事業戦略や現況、抱えているリスクを正確に把握することで、潜在的なビジネス機会を明らかにし、シナジー効果創出の可能性などを見極めることが目的です。外部の経営コンサルタントに依頼する場合もあります。
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財務(ファイナンシャル)デューデリジェンス
財務デューデリジェンスはファイナンシャルデューデリジェンス(Financial Due Diligence)ともいわれ、買収対象企業の財務状況や財務リスクを詳細に調査するデューデリジェンスです。調査結果が買収価格を決める指針となります。買収対象となる企業から提供された財務情報の実態を調査し、リスクを特定するとともに、将来の事業計画の基礎となる損益およびキャッシュフローを予測します。財務状況や損益状況の分析を行うため、多くのケースで会計事務所や監査法人などの公認会計士が担当します。
人事(HR)デューデリジェンス
人事デューデリジェンスはHRデューデリジェンス(HR Due Diligence)ともいわれ、人事、労務の面から組織や人材についてM&Aに伴うシナジー効果とリスクの可能性を評価するために調査をするデューデリジェンスです。買収対象企業の人事に関する実態を把握し、買収後に円滑に事業を継続できるような統合計画の策定に役立て、人件費削減やスキル移転による能力向上などの人事に関するシナジー効果が期待できるようにするために、専門家である人事コンサルティング会社や社会保険労務士に委託するケースが多いです。
法務(リーガル)デューデリジェンス
法務デューデリジェンスはリーガルデューデリジェンス(Legal Due Diligence)ともいわれ、買収対象企業の設立からの株主関係や組織状況、取引先等との契約関係や許認可、資産や負債、従業員の労働環境などの法務状況、および法令遵守や訴訟など法務面でのリスクを法的観点から洗い出し、調査するデューデリジェンスです。法律に関する専門的な知識が求められ、重点的な調査を「許認可と訴訟」について行う傾向があるため、外部の弁護士に依頼するケースが多いです。
税務デューデリジェンス
税務デューデリジェンスは、税務申告内容や納税状況、税務問題などの買収対象企業の税務関連情報を調査するデューデリジェンスです。税務面でのリスクを洗い出すことを目的に行います。書類による調査のみだけでなく、対象企業の経営者などにインタビューを行う場合もあります。税務デューデリジェンスの結果、税務リスクが高いと判断された際には、M&Aの方法を変更する場合もあるほど、重要な調査のひとつといえるでしょう。税務の専門家である税理士などに依頼するケースが多いです。
ITデューデリジェンス
対象企業の情報技術(IT)、インフラストラクチャー、ソフトウェア、セキュリティ、データ管理など、ITシステム運用やIT資産、IT戦略などを調査するデューデリジェンスが、ITデューデリジェンス(IT Due Diligence)です。買収対象企業の買収後にITシステムなどを統合する際に想定されるリスクやコスト、買収対象企業の事業継続における懸念事項などを把握し、対策を事業計画に反映するために実施します。ITコンサルティング会社に委託するのが一般的です。
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デューデリジェンスの進め方
M&Aにおけるデューデリジェンスには3つのプロセスがあります。買い手となる企業が行う各ステップについて説明します。
Step1:調査チームの組成および、調査方針の決定
まず、実施するデューデリジェンスを決定し、必要な専門家を集め調査チームを組成しましょう。重点的に調査する項目などの調査方針や予算、調査完了までのスケジュールなどを決め、必要な書類のリストアップ、買収対象となる企業と秘密保持契約を結ぶなど準備を進めます。
Step2:調査を実施する
買収対象となる企業にM&Aに関する資料の開示請求をして、必要な資料を提出してもらいます。開示された資料をもとに分析を行います。資料では読み取れない内容などについては、買収対象となる企業のマネジメント層などに調査チームの専門家が口頭でヒアリングケースもあります。シナジー効果の可能性やリスクの有無について慎重に検討を行うことが重要です。
Step3:結果をもとに判断する
実施した買収対象企業の調査結果を踏まえて、経営陣でM&Aの実施について議論します。想定されるリスクが許容範囲内でないなど、M&Aの実施に懸念があるなどリスクが大きい場合は、中止も視野に検討する必要があります。必要に応じて解決策の提案を買収対象企業に求める、契約内容などの見直しなどリスクを軽減する可能性も探る必要性があります。
デューデリジェンスを行う際の注意点
デューデリジェンスを行う際の注意点は、下記のとおりです。
適切な範囲で実施する
限定的な調査のみの場合はリスクが高いですが、調査の範囲を広げれば精度が高まるわけではないので、M&Aの規模に見合ったデューデリジェンスの実施が大切です。本来必要な調査を省略すると重大なリスクを見落とす可能性があることを踏まえ、十分な調査ができる費用を捻出し、適切な範囲で実施しましょう。
優先順位をつけて計画的に進める
M&Aの調査には、あまり時間をかけない方がいいといわれています。情報流出のリスクを防ぎ、タイムリーな買収対象企業の市場価値の把握などのためです。市場価値を正しく把握できていないと、適切な買収価格を設定できません。また、専門家への報酬は時間単位となるため、時間をかければかけるほど、必要なコストが増えてしまいます。調査期間内に必要な分析を行い、十分な検討材料を揃えられるよう、チェックすべき調査項目に優先順位をつけたうえで、計画的に調査を進めることが重要でしょう。
情報管理を徹底する
デューデリジェンスを進めるにあたり秘密保持契約を締結する必要があるように、買収対象企業の機密情報を取り扱います。細心の注意を払い、インシデント管理を徹底しましょう。
買収対象となる売り手側の企業もリスク対策をする必要があります。情報を提供する際に情報は該当するM&Aの調査以外の目的では使用できないように制限を設けるなどの対応を検討しましょう。
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デューデリジェンスのまとめ
デューデリジェンスについての要点を以下にまとめます。
・デューデリジェンスとは「買収監査」や「適正評価手続き」
・M&Aにおけるリスクとリターンを事前に把握し、適正な価格や取引判断をするために行われる
・デューデリジェンスを行う際は、M&Aの規模に見合った範囲で、スピード感をもって計画的に実施することが重要
・デューデリジェンスは機密情報を取り扱うためインシデント管理も徹底する
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