【目次】
デザイン思考とは、ビジネス上の課題解決に役立てる思考法のこと
デザイン思考が経営において注目される理由
デザイン思考のフレームワーク:5段階プロセス
デザイン思考とロジカルシンキング、クリティカルシンキング、アート思考との違い
デザイン思考のメリット
デザイン思考のデメリット
デザイン思考でビジネスや戦略に新たな視点を
デザイン思考とは、ビジネス上の課題解決に役立てる思考法のこと
デザイン思考とは、デザイナーやクリエイターがデザインする際に用いるプロセスを、ビジネスや経営の問題解決に活かしていくための思考法です。英語では「Design Thinking」と表記されます。
現在、デザイン思考のフレームワークとして広く知られているものは、2005年にアメリカのスタンフォード大学が創設したデザインスクール「Hasso Plattner Institute of Design(通称:d.school)」により提唱され、普及しました。
デザイン思考の大きな特徴は、ユーザーのニーズや感情、経験に焦点を当て、それらを起点として解決すべき問題を抽出し、解決策を見出すという点です。まず対象となるユーザーの視点を捉え、理解して発想することが重要とされています。つまりデザイン思考とは、ユーザーの「共感」や「満足」を最も重視する思考法といえるでしょう。
また、解決すべき問題とその理由を明確化した上で、生まれたアイデアを試行錯誤によってブラッシュアップしていくこと、さらに前例にとらわれずバイアスや固定観念を捨てることも重要とされています。
デザイン思考が経営において注目される理由
デザイン思考が経営において注目される理由は、企業によるDXの推進が進んできているということが挙げられます。
現代は変動性、不確実性、複雑性、曖昧性といった要素により環境が目まぐるしく変転する、将来の予測が困難な「VUCA」の時代です。急速に移り変わる人々のニーズに企業が対応するには、商品や新規事業の開発、ビジネスアイデアの創出などにおいて、従来のような仮説検証型とは異なるアプローチが必要とされています。そこで求められるのが、経済産業省の「DX(デジタルトランスフォーメーション)レポート(外部サイトに移動します)」にも記載されている、「ユーザー起点のデザイン思考を活用し、ユーザーエクスペリエンス(UX)を設計」できる人材です。
VUCA時代の企業経営においてはDX推進が必要になり、そのアプローチとしてデザイン思考が注目されているといえるでしょう。
関連記事:VUCAとは?VUCA時代に必要なスキルやリーダーシップを解説
デザイン思考のフレームワーク:5段階プロセス
デザイン思考の実践のために有効なフレームワークとしてよく知られているのが、観察・共感(Empathize)、定義(Define)、概念化(Ideate)、試作(Prototype)、テスト(Test)で構成された「5段階プロセス」です。ここでは、各プロセスの内容を説明します。
1. 観察・共感(Empathize)
デザイン思考はユーザーを対象とした「観察・共感」からスタートします。まずターゲットとなるユーザーを観察し、共感することによってユーザーの感情や感覚、考えを(潜在的なものも含めて)探り、理解していきます。インタビューやフィールドワークなどを通じて、ユーザーの気持ちに共感し、深い洞察を得ることがこの段階の目的です。
2. 定義(Define)
続いて、観察・共感の段階で得た情報をもとに、ユーザーが抱えている問題やニーズを定義づけるのが「定義」というプロセスです。これは、ユーザーが考え、感じていることの本質的部分を明確化し、解決すべき課題やユーザーが求めているものを仮説として定義します。この定義の内容がプロダクトやサービスの方向性やコンセプトを決める核となるのです。
3. 概念化(Ideate)
定義のプロセスによってユーザーが抱える課題やニーズの仮説を立てたら、次のプロセスは「概念化」です。このプロセスでは、ユーザーの課題を解決するためのアイデアやアプローチ方法をさまざまな角度から広く探っていきますが、ここではいかに自由に多くの案を出せるかがポイントです。ブレインストーミングなどで意見交換しながら、ユーザーの課題を解決し、あるいはニーズを満たすためにどんなプロダクトやサービスが考えられるのかを検討します。
4. 試作(Prototype)
概念化の段階で得たアイデアを検証するため、具体的な形にするのが「試作」のプロセスです。例えば、物理的な製品の初期モデルや、サービスのフローを示すストーリーボードなどを作成します。試作品は時間やコストをかけるのではなく、ひとまず形にして、実際にプロダクトやサービスとして成立するのかを確認し、改善点などを洗い出すことが目的です。
5. テスト(Test)
市場のニーズを満たした試作品を、実際にユーザーに使ってもらって反応を見るのが「テスト」です。ユーザーが試作品をどのように使うか、試作品が問題解決に対してどの程度効果的であるかなどを評価します。このテストによるフィードバックをもとに改善していきますが、もしテストの評価が満足いくものでない場合は、1~4までのプロセスに戻り、改善を行うことが必要です。
デザイン思考とロジカルシンキング、クリティカルシンキング、アート思考との違い
デザイン思考と同様、課題解決に用いられる思考法に、ロジカルシンキングやクリティカルシンキング、アート思考があります。デザイン思考とそれぞれの思考法は、何がどのように違うのか、比較しながら説明します。
ロジカルシンキングとの違いは、思考の「起点」
ロジカルシンキングは、論理的な根拠に基づいて問題解決の筋道を考える、またはアイデアを得るという思考法です。ビジネス上の課題解決において最も一般的に用いられる思考法のひとつであり、前出の仮説検証型アプローチもロジカルシンキングをベースとしています。
これに対してデザイン思考は、ロジカルシンキングと「起点」そのものが異なります。ロジカルシンキングでは課題や事象の明確化が起点となりますが、デザイン思考はユーザーの経験や感情、ニーズを捉えることが思考の起点です。その後のプロセスにも違いはあります。ロジカルシンキングは一貫した論理的なプロセスを重視するのに対し、デザイン思考では観察・共感、定義、概念化、試作、テストという探索的なプロセスを経て、未知の問題や新しい視点を発見するのが特徴です。
クリティカルシンキングとの違いは、思考の「視点」
クリティカルシンキングは、経験や直感だけに頼らず、物事が本当に正しいのかどうかについて批判的、客観的な視点で本質的な課題解決を図る思考法です。自分の考えを常に疑い、新たな視点から解決への糸口を検証していきます。
一方、デザイン思考は、ユーザーのニーズや感情をもとに、常にユーザーを見ることで解決策を探るアプローチです。そのため、クリティカルシンキングとデザイン思考は、それぞれが違う視点から課題解決を考える点で違いがあります。
アート思考との違いは、思考の「軸」
アート思考とは、アーティストが作品を創造するプロセスを参考にビジネスに応用し、新しいアイデアを得ることを目的とした思考法です。アート思考も、デザイン思考と同じく、クリエイティブ領域に新しい発想などのヒントを求めて考え出されています。
アート思考で重視されるのは、既成概念にとらわれない自由で柔軟な発想です。アーティストが持つ独自の感情や感覚、直感、主観をベースとして、独自性の高い価値を創造しようとします。
一方、デザイン思考はユーザーの視点を最も重要視します。アート思考が「自分軸」からアイデアを生み出すとすれば、デザイン思考はあくまで「他人軸」からアイデアを得るというのが大きな違いです。
デザイン思考のメリット
次に、デザイン思考を課題解決に取り入れることで、具体的にどのようなメリットがあるのかをみていきましょう。
顧客ニーズに合致した商品の開発に役立つ
デザイン思考は、ユーザー視点で問題を捉え、解決策を見つけることを特徴とした思考法です。商品を使う人、利用する人に共感し、気持ちに寄り添って考え、開発することで、「顧客の本当のニーズに合致した商品」に近づけられ、結果として顧客の満足度やロイヤルティの向上が期待できます。
アイデア提案の習慣化・活性化が進む
デザイン思考では、「ひとまず考え、提案してみる」というスタンスが推奨されます。そのため、常日頃からアイデアを考えて提案するという習慣が定着することもメリットといえるでしょう。チームメンバー同士の意見交換やブレインストーミングも多く行われるようになることで、組織全体としてのコミュニケーションの活性化も期待できます。
固定観念を覆すような画期的なアイデアにつながる
デザイン思考では、多様な意見を積極的に受け入れ、それをもとに解決策を探っていく姿勢も求められます。例えば、常識とされていることから外れるような視点や考えであっても、それらを切り捨てるのではなく尊重します。そうすることで、固定観念や既存の価値観を覆すような画期的な視点やアイデアを得る可能性が高まるためです。こうした姿勢を維持することで、多様な意見を柔軟に取り入れて新しいものを生み出す環境が構築できていくでしょう。
イノベーションの創出が期待できる
デザイン思考のメリットは、イノベーションの創出に役立つことです。その最もよく知られている実例が、Appleの音楽プレイヤーでしょう。リリースされた当時、デジタル音楽プレイヤーはすでに市場に存在していましたが、Appleはユーザー体験に焦点を当てたデザイン思考のプロセスを経て、「自分の音楽コレクションを簡単にポケットに入れて持ち運ぶ」というユーザーの音楽体験を変革する製品を生み出しました。その成功は、その後の開発へもつながっています。
関連記事:オープンイノベーションとは?注目される背景と課題を紹介
チーム力強化につながる
通常、デザイン思考を実践する際は、複数名でチームを組むのが一般的です。異なる思考やスキルを持つチームメンバーが共に考え、議論することで、斬新なアイデアが生まれやすくなります。メンバー同士のコミュニケーションが深まり、チーム力が強化されることもデザイン思考を行うメリットといえるでしょう。
デザイン思考のデメリット
一方、デザイン思考にはデメリットもあることを知っておきましょう。ここでは、デザイン思考が得意としない領域や理解が必要な部分について紹介します。
ゼロベースの創造には適さない
デザイン思考は、ユーザーがまだ存在しない、まったく新しい商品やビジネスを生み出す場合には適していません。世の中に存在しない商品やサービスには、ユーザーからのフィードバックやインサイトが存在しないため、ユーザーを観察し、洞察を得るようなアプローチを取ることは困難といえるからです。
多様な人材や発想が必要になる
デザイン思考では多様な視点や意見を尊重します。チームメンバーが似たようなバックグラウンドを持っている場合、あまり代わり映えしないアウトプットしか得られないかもしれません。豊かなアイデアを生み出す可能性を広げるには、多様な個性を持つメンバーをそろえることが必要となるでしょう。
デザイン思考を根づかせるには時間が必要
デザイン思考を組織全体に根づかせるまでには、一定の時間が必要です。短期的な視点ではなく、長期的な視点でデザイン思考のメソッドを導入し、組織の理解を得ながら習慣化する仕組みを作り、自社のカルチャーとして取り入れていくことが重要といえます。
デザイン思考でビジネスや戦略に新たな視点を
ここまで、デザイン思考について解説してきました。以下に要点をまとめます。
・デザイン思考は、ビジネスや経営の問題解決に役立つ思考法で、ユーザーのニーズや感情に焦点を当てる点が特徴
・デザイン思考はユーザー視点で問題を捉えるため、顧客ニーズに合致した商品開発に役立てることができたり、画期的なアイデアにつなげられたりすることなどがメリット
・デザイン思考は、まだユーザーが存在しない商品やサービスには適さなかったり、組織に根づかせるには時間がかかったりすることなどがデメリット
ユーザーを軸に課題解決の方法を探るデザイン思考は、ビジネスや戦略に新たな視点をもたらします。企業経営の現場でデザイン思考を効果的に取り入れ、自社の課題解決に役立ててみてはいかがでしょうか。
(免責事項) 当社(当社の関連会社を含みます)は、本サイトの内容に関し、いかなる保証もするものではありません。 本サイトの情報は一般的な情報提供のみを目的としており、当社(当社の関連会社を含みます)による法的または財務的な助言を目的としたものではありません。 実際のご判断・手続きにあたっては、本サイトの情報のみに依拠せず、ご自身の適切な専門家にご自分の状況に合わせて具体的な助言を受けてください。