そもそも、電子帳簿保存法とは
具体的な内容を理解している企業はわずか15.8%
電子帳簿保存法(以下、電帳法)とは、法人税法や所得税法の国税関係の帳簿や書類を電子データで保存することを認める法律です。従来の法令上、帳簿や書類は原則として紙で保存することとされていましたが、保管に手間やスペースのコストがかかることや、電子データを紙に印刷して保管するなど業務の非効率を招いているという課題もあり、1998年に電帳法が成立しました。
以降、何度かの改正を経て2022年1月1日施行の改正電帳法では抜本的な見直しが行われ、「電子取引の電子保存」が義務化されました。たとえばメール添付でやりとりした請求書PDFやECサイトからダウンロードした領収書等のデータなど、多くの事業者が日常的に行っている電子取引については、紙ではなくデータで保存しなければならないということです。2021年までは取り組みたい事業者が検討するものでしたが、2022年からは法人・個人問わず、ほぼすべての事業者が対応する義務があるものとなっています。しかしながら、事業者側の準備が追いついていないことから、2023年末までの宥恕措置が設けられたというわけです。
対応が遅れてしまうと、青色申告を取り消されたり、その結果、税務署の言い値で税額が決まる「推計課税」が適用されたり、それ以外の国税関係帳簿書類も定められた方法で保管していないとみなされて各税法の違反が疑われ、追徴課税を納めなければならなくなったりする可能性も出てきます。国税関係帳簿書類を適切に保存しなかったとして、関連する会社法によって100万円以下の過料が課される場合もあるので、適切に対応する必要があります。
はじめに、「電子取引の電子保存義務化」の認知度について尋ねたところ、「概要については理解している」が46.8%と最も多い回答となりました。「具体的な内容を理解している」と「概要については理解している」を合わせると、知っている人は62.6%に及ぶものの、「具体的な内容を理解している」はわずか15.8%と、なかなか理解が進んでいない現状がうかがえます。
対応予定期限は「2023年3月末まで」と
「決まっていない」で二極化
「電子取引の電子保存の義務化」への対応はどのくらい進んでいるのでしょうか。
対応済みだと答えた企業は12.8%ながら、39.5%の企業が「対応に向けて具体的な準備を進めている」と「具体的な対応はしていないが予定はある」と答え、準備を進めていることが分かりました。
業種別で見ると、「通信サービス」(25.0%)、「情報処理系」(21.5%)の対応済みの割合が特に高く、DXが進んでいる業種では、対応が進んでいることがうかがえます。
いつまでに「電子取引の電子保存の義務化」に対応した業務フローの運用を開始するかをたずねた質問では、45.7%が「決まっていない」と回答。具体的な時期として最も多かった回答は「2023年3月末まで」(25.4%)となりました。
「対応に向けて具体的な準備を進めている」「具体的な対応はしていないが予定はある」企業に限ってみても、「2023年3月末まで」がそれぞれ29.2%、26.8%と多く、期限よりも早めに動いている企業が多いことが分かりました。
一方、「対応の必要性を感じているものの未対応」という企業では、対応期限が「決まっていない」が34.9%と最多となり、対応完了までの道筋が描けていない状況がうかがえます。
実際に電子取引の電子保存に対応した業務フローを確立するまでには、①電子保存する書類の洗い出し、②保存方法の決定と業務フローの設計、③マニュアルなど社内規定の整備、④テスト運用と見直しなどと、大きく4つのステップがあります。
例えば②のステップだけでも、書類の保存に何らかの文書管理システムを導入するのかしないのか、システムを導入するのであればどれがよいのか、導入しないのであればどのように書類の保存要件を満たすのかなど、検討することが多岐に渡ります。④のステップで、実際に運用を開始してみたら、不都合があって見直しが必要になる場合も考えられます。注意が必要なのが、電子保存を開始する3カ月前までに税務署に申請し、承認をもらわなければならないという点です。
2024年1月1日を万全の体制で迎えるためにも、税務署への申請、承認も念頭に置きながらいつまでに未対応のステップを完了させる必要があるかを改めて確認してみてはいかがでしょうか。
コスト増や情報不足は多くの企業の課題
税理士への相談や国税庁で解決のヒントを
「電子取引の電子保存」未対応の企業に、何がハードルになっているのかをたずねたところ、一番の課題は「コスト(システム導入など)の増加」(29.3%)、次いで「制度対応に関する情報の不足」(23.2%)、「制度に精通している社員の不足」(21.8%)でした。
企業規模別においても違いがみられ、299人以下の規模の企業においては「業務負荷の増加」、300~2999人規模の企業においては、システム導入が必要なためか「コスト」を第一課題に挙げるところが多い結果になりました。
では、対応済みの企業はどのようにして種々の課題を乗り越えたのか、役に立った情報源はどのようなものだったのかを見ていきましょう。
最も役に立った情報源は「顧問税理士」(35.3%)。個別に直接相談できるというのは大きなメリットになっているようです。無料相談を受け付けている税理士事務所などもあるので、まずは相談することを検討してみるのはいかがでしょうか。
「国税庁」(23.5%)という回答も目立ちました。ウェブサイトには、Q&Aや電話相談窓口の紹介などもあり充実した内容になっており、活用しない手はありません。
電帳法への理解を深めるためにも
まずは相談するという一歩を
2022年11月末日現在、与党の税制調査会で宥恕措置の延長が議論されている中ではありますが、改正電帳法の「電子取引の電子保存の完全義務化」まで、約1年。ステップを踏んで対応しなければならない点を考えると、あまり余裕はありません。効率よく準備を進めるために、同じく対応が必要な2023年10月開始の「インボイス制度」対応も同時に視野に入れ、期限の2023年末に向けて電帳法についての理解をしっかりと深め、税理士や税務署、周りの経営者仲間の方々に相談しながら準備を整えていくのはいかがでしょうか。何から手を付けてよいか分からず、立ち止まったままになってしまっていたものも、前に進めることができるかもしれません。
■スタッフクレジット
文・編集:後藤文江(日経BPコンサルティング)
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