ここ数年で、日本企業における、デジタルトランスフォーメーション(以下DX)が加速しているといわれます。一方で、なかなか導入に踏み切れない企業もあるようです。導入にあたって壁となっているのは、どんなことなのでしょうか。
ピョートル・フェリクス・グジバチ氏(以下ピョートル):DXとか、デジタル化とか、最近よく聞かれる言葉ですが、僕は少し違和感があります。デジタルはそもそも、今の暮らしに随分前から浸透しているもの。家庭にある家電もそうですし、企業でも携帯電話やパソコンがあり、インターネットにもつながっている。それはすでにデジタルなわけです。そう考えれば、デジタルやテクノロジーのビジネスへの導入は、新たな価値を生み出すことにつながる企業の資産でもあるのは明白なのに、コストだと思い込みがち。それがDXを進める大きな壁になっているように思います。
園田崇史氏(以下園田):確かにDXをコストと考える会社は多いかもしれませんね。でもDXは、ビジネスに紐付く時間をできるだけ前向きな時間に変える、土俵作りができるものです。僕は会社に紐付いて人が動く時間は、大きく3つに分けられると考えていますが、1つは本当に自分がやりたいことを発想している“activity”の時間。2つ目に、結果を出し、目的を達成するための“work”の時間。3つ目が、よくわからないけど手を動かしているとか、ひたすらメールを打っているような、僕が“labor”と呼んでいる時間です。“labor”の時間に行っていた作業をデジタル化することで、“work”や“activity”といった、人にしかできない仕事をするための時間を増やすことができます。DXは新たな価値を生み出すことにつながるものだと気づくことが、まずは第一歩なのかもしれません。
壁を乗り越えてしまえば、導入はスムーズに進められるものでしょうか。
園田:一口にDXといっても、ビジネスの形態や業種、会社の規模によっても必要な内容は異なります。自社に必要なDXをよりスムーズに導入するためには、外部の力を借りることも大切だと思います。会社で考えると、データを活用するときの当事者は3人います。まず経営者、そしてミドル層、ミドルマネジメントの人と、一般社員などの実際のユーザー。3人の視点はそれぞれ違うので、それを調整するためには、外部のプレイヤーがいたほうが絶対にいい。実際に使う人の意見なしには使いやすいものはできないし、かといって現場の話だけ聞いていても経営は変わりません。それぞれの視点を集約し、その調整や整理をどうやって行うかが、デジタル化をスムーズに導入し、事業を成功に導く鍵になってくると思います。
デジタル化がスムーズに進めば、仕事の時間を生産的な作業に当てられる環境は整うわけですね。ではその次のステージに必要なことはなんでしょうか。
ピョートル:抽象的な言い方ですが、個人の自己認識は必要です。人はそれぞれ、遺伝子によって決まった体のカタチや志向性、置かれた環境・状況などのリソースを持っています。それがよいか悪いかを決めるのは自分次第で、何をどう選ぶか、そしてその選択に対して責任を持つことが必要です。“Enabler”(ある事象の成功・目的達成を可能にする人・組織・手段)という英語がありますが、テクノロジーはまさにそれ。インターネットによって、さまざまな情報に簡単にアクセスできるようになりました。例えば、英語のリソースは日本語のものより多いので、少し英語を学べば、より多くの情報を得られます。人のアイデンティティは、価値観や信念、期待(欲求)などでできています。そこをきちんと理解すれば、大きく飛躍できる可能性がありますが、そこに気づくことなく他人から与えられた解だけで正しい答えを得ようとすると、今の世界で生き残れないかもしれません。
園田:テクノロジーの進化によって人と人がインターネット経由で結ばれ、新しいカルチャーやコミュニティが生まれました。例えば今まで情報の受け手だった方が、発信する側になったのがソーシャルメディアですし、パソコンだけでなく、タブレットやスマートフォンなど自由に持ち運べるガジェットが普及し、さらに違う形の情報に接したり、新たな人とのふれあい方も生まれました。一方で、データとして情報を取得した後にどういう行動や改善をするかというのはまだまだチャレンジで、ここはやはり、企業であれ社会であれ、文化が変わる必要があると思います。弊社のウフルという社名は、スワヒリ語で自由という意味で、自由な発想とテクノロジーによって持続可能な社会を作ることを、経営理念に定めていますが、テクノロジーの進化によって得たものを、次にどういう形で人の善意や社会の継続性につなげていくかというのが、我々現役世代の課題です。ビジネスにおいても、どうやって事業や経営を次世代につないでいくか。ポテンシャルを引き出せる環境や手段はできているので、あとはどうやって文化やその方法論を考えていくかだと思います。
その他、働く人々の生産性をより高められる職場作りに大切なことはありますか?
ピョートル:大前提として、日本の企業にはマネジメントが不足しています。人材それぞれのゴール設定とそこにたどり着くためのプロセスを支援し、評価するのがマネジメント。評価は必ずしも、客観的にすぐできるものではありませんから、しっかりと個人個人を見る必要があります。しかしながら、忙しいからできないと言ってしまう管理職が、日本の企業は多いように見受けます。1対1でミーティングができればもちろんよいのですが、時間がなければ、ランチミーティングでも、ランチを買いに行きながら「最近どう?困ってない?」って会話をしたっていいんです。大切なのは、定期的なコミュニケーションです。
園田:僕もディスカッション、他者との交流が必要だと思っています。データが揃っていて、前向きに仕事を進められるバックグランドができている、そこで前向きに議論とクションがとられてはじめて、新しいものが生まれます。僕はよくコミュニティという言葉を使いますが、そこに必要な人は、社員はもちろん、社員以外の、例えば外部のパートナーの方とか、もしかしたら家族とか、お客様もそうかもしれない。社内の組織だけの論理では、いろいろ前向きな判断ができないことって多いと思うんです。たとえば日本の企業では全部自社製のもので揃える、というパターンがよくありますが、それって意味がないなと本当に思います。他社の商品やサービスなど、よいものは柔軟にどんどん取り入れていくことですね。
では、実際にどのようなデジタルツールを利用していますか?
園田:「TeamSpirit」(外部サイトへ移動します)を利用しています。主に、勤怠、経費、稟議、プロジェクト管理の機能を利用しています。例えば、プロジェクトの中で出張が発生した際の費用を、経費申請から連携してプロジェクトに紐づけられるため一括管理が可能です。それぞれのシステムに別々に入力したり、データ加工して取り込みなどをする手間もないため、現場作業のストレス軽減につながっています。体感的には、一人につき5%とか10%とかの作業削減になっているように感じます。5%、10%といっても全体でみればやはりすごい量。その分社員のスキルを最大限に活かせる“work”や“activity”の時間に費やせるので、生産性が高まりました。
テクノロジーやDXの導入によって“labor”の時間を効率化することは、社員がその人にしかできない仕事に従事するための時間を生み出すもの。デジタル化への投資は、決して単なるコストではなく、新しい価値の創造につながるものだと捉えること、さらにそこで働く人々が自己認識を高め、コミュニケーションを取りやすい環境を整えることが、これからの時代にビジネスをより拡大していくためのカギであると云えそうです。
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■ プロフィール
ピョートル・フェリクス・グジバチ氏
プロノイア グループ 代表
連続起業家、投資家、経営コンサルタント、執筆者。2000年に来日。モルガン・スタンレーを経て、Googleで人材開発、組織改革、リーダーシップマネジメントに従事。2015年、未来創造企業のプロノイア・グループを設立。2016年にHRテクノロジー企業モティファイを共同創立し、2020年にエグジット。2019年に起業家教育事業のTimeLeapを共同創立。ポーランド出身。ベストセラー『NEW ELITE』他、『パラダイムシフト』『PLAYWORK』など著書多数。
園田崇史氏
株式会社ウフル 代表取締役社長CEO
1995年早稲田大学政治経済学部卒業後、電通に入社。4年半の勤務を経て、南カリフォルニア大学(USC)大学院に進学、経営管理学修士(MBA)を取得。その後、モルガン・スタンレー証券、日興シティグループ証券を経て、ライブドア(現LINE)執行役員副社長就任。2006年にウフルを設立、SalesforceなどのクラウドサービスやIoTを軸に数多くの企業や自治体のDXを支援している。近年は、スマートシティの分野にも注力、地域課題の解決にも取り組んでいる。
■スタッフクレジット
記事:神崎恭子 撮影:西川節子 編集:今井裕隆(Forbes JAPAN)