デジタル広告について、近年どんなトレンドが見られますか?
奥野:まず、デジタル広告の種類が飛躍的に増えたことが挙げられます。さまざまな広告配信が可能になった一方、コミュニケーションが複雑化したともいえます。
これまではデジタル広告といえば、ディスプレイ広告とリスティング広告がほとんどでした。ディスプレイ広告とは、俗にいうバナー。ポータルサイトやブログの広告スペースに自動的に表示されるバナー広告のことを指します。対して、リスティング広告は検索連動型。キーワード検索の結果画面に、テキストで情報を表示させる手法です。
これに加えて近年では、SNSのタイムラインや、ニュースポータルサイトの記事スペースに表示されるネイティブ広告が急増。さらに、データを活用してレコメンドを表示する、データフィード広告も一般的になりました。
それぞれの広告について詳しく教えてください。
奥野:ディスプレイ広告は、不特定多数の目に触れる場所に表示されます。そのため、まだその商品やサービスを知らない潜在層に対して幅広くリーチし、認知してもらうことが目的となります。
リスティング広告は、ユーザが自分のほしい情報を検索した結果のページに表示されるので、ある程度モチベーションの高い顧客にアプローチすることが可能です。純粋な検索結果として自社のサイトを上位表示させるためのSEO対策は中長期的に取り組む必要がありますが、リスティング広告は出稿量を管理しながらライトに運用できるというメリットがあります。
近年増えたという、ネイティブ広告と、データフィード広告とはどのようなものなのでしょうか?
奥野:ネイティブ広告の特徴を簡単に説明すると、「コンテンツになじんで自然に見える」ということ。広告であることのクレジット表示は義務付けられていますが、ユーザの日常的な閲覧行動の中で受け入れられやすい広告です。
データフィード広告は、みなさんもよく目にしているかと思います。オンラインショッピングをしていたら似たような商品をレコメンドされたり、最近検索したキーワードに関連する広告が表示されたりするというものです。ユーザの閲覧履歴や検索結果を分析して、最適な形で広告を表示するシステムで、ここ4、5年で特に盛んになりました。見た目はディスプレイ広告で仕組みはデータフィードという、ハイブリッド型も最近は増えています。
分析したデータにより、ディスプレイ広告を管理するということですか?
奥野:そのとおりです。同じ広告スペースに表示されたバナーでも、AさんとBさんとでは表示される内容が異なるというわけです。
このように、さまざまなデジタル広告の手法が相互に連携するようになったからこそ、自社のターゲットに対してよりクイックにマーケティング施策をおこなえるようになってきたといえます。
ユーザ側にはどのような変化が見られるでしょうか?
奥野:ひと昔前までは、日常的に目にするメディアというと、テレビや雑誌がメインでした。それが、最近では起きてまず手にするものといえばスマートフォン。ユーザへのタッチポイントとしてのスマホの影響力が格段に大きくなったといえます。
これを受けて企業側は、施策をデバイスごとに細分化して考えるのではなく、それぞれの点をつないだ線、さらには面でとらえた広告戦略をとっていかなければなりません。
選択肢が増えることは喜ばしいのですが、まず何から始めればいいのでしょうか?
奥野:広告の前に、まずは自社のビジネスをどうしていきたいかという目標設定が重要だと考えます。いつまでに何をどれだけ達成するかというロードマップを明確にしたうえで、集客すべき人数、その中で広告で集客すべき人数といった形に落とし込んで、ようやく割ける予算もはっきりしてきます。
広告施策の選択から始めるのではなく、目標をしっかりと立てたうえで、それを社内で共有する。そういった姿勢が、経営者や管理者には求められてくると思います。
単なる広告戦略ではなく、企業戦略から考えるということですね。
奥野:まさにそうなんです。そこでもうひとつ重要になってくるのが、オウンドメディアへの取り組みです。オウンドメディアとは、ブランドサイト、カタログなど、自社の保有するメディアのことをいいます。コーポレートサイトも一種のオウンドメディアといえますが、よりコミュニケーションに重きを置き、自社の情報を発信したうえで、ユーザやファンに対して自社の理解を促進させる場こそがオウンドメディアです。
実際の中小企業の方の悩みを聞いていると、広告で集客して問い合わせはあるけれどなかなか成約に至らない、という声が多くあります。これは、集めてきたユーザが求める情報と、コンテンツ内容や構成にミスマッチが生じていることが原因。オウンドメディアの整備不足から、ユーザの離脱が起こっているのです。
近年は、SNSに力を入れている企業も非常に多いように思います。
奥野:SNSは一般的に「アーンドメディア」と呼ばれ、情報の拡散やファン化が主な目的です。デジタル広告と同じく、あくまでそこはユーザコミュニケーションの入り口。もちろんその部分の整備も必要ですが、そこで興味をもってくれた人に対して、1ページだけでもいいので、きちんと商品やサービスの詳細を説明するランディングページを用意しておくことがもっとも重要なんです。広告手法やデバイスが細分化・複雑化しているからこそ、自社のブランディングを担うオウンドメディアまで含めた全体像で戦略を立てることが求められると思います。
ひとつ注意すべきは、オウンドメディアの更新性です。デジタル広告で得たデータを活用しつつ、それぞれのユーザが求める情報を的確に発信していくことが非常に重要。つくりっぱなしのメディアでは、オウンドメディアの役割を果たしません。
改めて、デジタル広告を活用するメリットとはなんでしょうか?
奥野:数字で費用対効果がはっきりと見えること。さらに、施策を通して得たデータを分析し、今後の戦略に活用できるというのは、経営者の視点からしても非常に大きな利点だと思います。データを上手に活用すれば、自社のビジネスをドライブさせることも比較的容易にできるのではないでしょうか。
ただ、2022年に施行される改正個人情報保護法の内容は、きちんと理解しておく必要があります。これまで多くのデジタルマーケティングで活用されてきたCookie(ブラウザに表示したWebサイトのデータを保存しておく仕組みのこと)の情報についての規制も変わるので、ユーザ本人の同意取得やプライバシーポリシーなどの部分には細かい配慮が必要です。
最初からあまり手を広げすぎずに、少額予算でのデジタル広告のトライアル、集客した顧客をもてなすための簡単なランディングページの整備など、スモールスタートから始めてみてください。手始めにどんなものか、少額で試すことができるのもデジタルの利点です。まずひとつの成功体験をつくることができれば、そこからさらなる飛躍が見えてくるはずです。
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■ プロフィール
奥野辰広
WACA認定ウェブ解析士マスター
■スタッフクレジット
記事:中村真紀 編集:芝山 一(ADDIX)