■監修者プロフィール
田中 卓也(たなか・たくや)
税理士、CFP®
中央大学商学部で学んだ後、東京都内の税理士事務所での勤務を経て、田中卓也税理士事務所を開業。記帳代行・税務相談・税務申告をはじめ、事業計画の作成やサポート等の経営相談、キャッシュフロー表の立て方、資金繰りの管理、保険の見直し、相続・事業継承対策など、経営者や個人事業主のサポートを幅広く行う。そのほか、一生活者目線で、講師・執筆活動や講演活動にも取り組んでいる。
田中卓也税理士事務所(外部サイトに移動します)
【目次】
法人口座とは法人名義で開設した金融機関の口座
法人口座を開設するメリット
法人口座開設の流れ
法人口座のまとめ
法人口座とは法人名義で開設した金融機関の口座
法人口座は、法人格を取得した企業の商号で開設する金融機関の口座です。
法人口座を開設するかどうかは経営者の判断に委ねられており、法人格を取得したからといって必ずしも法人口座を開設する必要はなく、経営者の個人名義の口座を事業に活用しても、法的には問題ありません。
しかし、経営者の個人名義の口座を法人口座として使い、入金があると「個人所得の申告漏れではないか」と税務署からお尋ねが届いたり、逆に私用と判別しづらい出金があった場合には「経営者に対する貸付金ではないか」あるいは「現物給与として課税すべきではないか」との疑念を持たれたりすることもあるため、なるべく早期に法人口座を使用した取引に移行すべきです。
また、法人口座を開設することで、金融機関などからの社会的な信用を得やすくなったり、業務の効率化やコストの一元管理につながったりなど、ビジネスを進めるうえでさまざまなメリットを享受できることから、会社設立後はすみやかに法人口座を開設することが望ましいとされています。
ただし、法人口座は個人口座よりも開設に伴う審査に時間がかかるため、注意が必要です。特に都市銀行の審査は、2週間から1ヶ月程度かかることも珍しくありません。設立から間を置かずに法人口座を使うことを希望する場合は、口座を開設したい銀行に会社設立前から相談しておき、口座開設に必要な商業登記簿謄本を取得次第、手続きをするなど事前にしっかりと準備しましょう。
また、いきなり都市銀行に法人口座の開設を申請するのではなく、まずは地元の信用金庫や信用組合、ネットバンク等で口座開設を行い、実績を積んでから、都市銀行に法人口座の開設を依頼したほうがスムーズに行くケースがあります。
なお、商業登記簿謄本は、通常であれば登記申請をした日から1週間から2週間ほどで登記が完了し、取得手続きができるようになります。
法人口座を開設するメリット
法人口座を開設すると、4つのメリットがあります。ここでは、それぞれのメリットについて解説します。
社会的信用が得やすくなる
法人口座を開設するメリットのひとつは、社会的な信用が得られることです。法人が個人口座を利用することに法的な問題はないものの、「会社のお金」と「個人のお金」は明確に区別しなくてはなりません。法人口座があれば、財産をきちんと管理していると明確に示すことができます。また、法人としての実体があることを証明でき、社会的信用を得やすいでしょう。
融資が受けやすくなる
金融機関から融資を受けやすくなることも、法人口座を開設するメリットです。金融機関から融資を受ける際、信頼性の担保として法人口座の保有が条件になることがあります。法人口座があるということは、厳しい審査を潜り抜けて金融機関の信頼を獲得していることの証明であり、それだけで融資の判断にプラスの効果があると考えられます。将来的に、事業拡大のために融資を受ける可能性がある場合は、法人口座を開設しておいた方がスムーズでしょう。
法人カード(ビジネス・カード、コーポレート・カード)の支払先を法人口座に設定できる
ビジネス・カードやコーポレート・カードなど、法人カードの支払先に法人口座を設定できることも、法人口座開設のメリットに挙げられます。出張や接待にかかる費用を会社が現金で仮払いしたり、従業員が立て替え払いしたりした場合、小口現金の出納業務や残高確認、帳簿記帳の業務が必要です。領収書を見ながら経費を入力していく手作業には、膨大な手間がかかります。支払先を法人口座に設定することにより、煩雑な経費精算の一元化や作業の効率化につながります。
個人のカードによる支払いでも経費処理を効率化できるという点ではメリットを享受できますが、個人口座に紐づくクレジットカードで経費を支払った場合、法人が個人からお金を借り入れて、経費を精算することになるため、「個人からの金銭の借り入れ」「経費の精算」というように会計処理が二段階になり煩雑です。
また、すでに述べたように、会食費用など、業務と直接結びつきづらい出金があった場合には「経営者に対する貸付金ではないか」あるいは「現物給与として課税すべきではないか」との疑念を持たれるのも事実です。
キャッシュフローを可視化できる
法人カードをはじめとしたクレジットカードでの支払いや小口現金、振り込みなど、すべてを法人口座に集約できるようになるので、事業活動によって生じるお金の流れを可視化しやすくなります。これも、法人口座開設のメリットだといえるでしょう。法人口座の通帳を見れば財務状況が把握できるため、支出の削減や資金繰りを検討しやすくなり、健全な財務状況の維持に役立ちます。また、法人と個人の口座を分けることで、公私のお金の区別が明確になるでしょう。
法人口座開設の流れ
法人口座の開設に必要なステップは、全部で3つあります。ここからは、各ステップで行う作業や必要なもの、注意点について見ていきましょう。
1. 金融機関を決める
まずは、法人口座を開設する金融機関を決定します。法人口座を開設可能な金融機関には、都市銀行、地方銀行、信用金庫、ネットバンク、ゆうちょ銀行などがあります。
・都市銀行
都市銀行は、大都市に本店があり、各都道府県の主要都市に支店を展開している銀行です。中でも、金融再編で誕生した大規模な銀行をメガバンクといいます。
・地方銀行
地方銀行は、一般社団法人全国地方銀行協会の会員として活動する銀行で、「地銀」とも呼ばれます。各都道府県に本店があり、地元の企業などが主な取引先となっています。
・信用金庫
信用金庫は、特定の地域の人が会員となって出資し、地域の繁栄を目指す相互扶助のための金融機関です。預金を集めて貸し出す機能は銀行と変わりませんが、1人1票の議決権を持つ会員の自治で経営され、融資先は原則として会員のみです。
・ネットバンク
実店舗や自行のATMをほとんど持たず、インターネット上でほぼすべての取引を行う銀行です。インターネットに接続できれば、どこでも各種手続きを行うことができます。
・ゆうちょ銀行
郵政民営化により、2007年に誕生した日本郵政グループの銀行です。全国にある郵便局のネットワークを通じて、基本的な金融サービスと運用事業を展開しています。
どの金融機関にも、それぞれメリット・デメリットが存在します。金融機関を選ぶ際には「何を重視するか」を基準にするとよいでしょう。例えば、以下のような点を軸に、金融機関を比較することをおすすめします。
<金融機関を選ぶポイントの例>
・多少審査が厳しくても、信用力がある金融機関が良い
・地元に密着したビジネスを予定しているため、地域をよく知る金融機関に相談したい
・手数料をできるだけ安く抑えたい
・とにかくスピーディーに法人口座を開設したい
2. 開設に必要なものや書類を用意する
金融機関を選んだら、次のステップは口座開設のための必要書類の準備です。法人口座の開設にあたっては、主に以下の書類の提出が求められます。ただし、法人格の種類や、申請する金融機関によって用意する書類に違いがあるため、必ず各金融機関のウェブサイトなどで、事前に確認するようにしましょう。
・商業登記簿謄本(履歴事項全部証明書)
商業登記簿謄本(履歴事項全部証明書)は、法人としての登記事項がすべて記載された書類です。会社設立から1週間ほどで、法務局の窓口やオンラインで取得することができます。
・定款
定款は法人設立登記の申請前に作成する書類で、会社運営における基本的なルールをまとめたものです。事業目的、商号、本店の所在地、発起人が出資する財産の価格またはその最低額、発起人の氏名または名称および住所は必ず記載しなくてはなりません。
なお、法人を設立する際、「公証人役場等で認証された定款」が必要となるので、必ず「認証された定款」(電子認証含む)であることがわかる書類を準備しておく必要があります。定款認証とは、株式会社・一般社団法人等の設立に際して、定款が作成名義人である発起人・設立時社員・設立者等の意思(合意)によって作成されたことを証明するものであり、法人設立に際して重要な手続きです。
・法人銀行印の登録
代表者の印章もしくは印面の内側に「銀行之印」と彫刻された法人銀行印のいずれかを用意するのが通常です。もちろん「経営者個人の認め印」を「金融機関届出印」として登録しても構いませんが、その後、変更することがないかぎりは、金融機関に登録した印鑑がずっと「金融機関届出印」として活用されることになるので、特に新規設立法人の場合には新調することをおすすめします。
・代表者印の印鑑登録と印鑑証明書の取得
代表者印の印鑑証明書は、法務局の窓口で取得できます。また、法務省のウェブサイト(外部サイトに移動します)内にある「印鑑カード交付申請書」から印鑑カード交付申請書を取得して手続きすると、郵送でも印鑑証明書の取得が可能です。
なお、「辺の長さが1cmを超え,3cm以内の正方形の中に収まるもの」といった要件を満たしていれば、「法人の銀行印」を「法人の実印」とすることでも法的には構いません。
ただし、上記と同様、その後、法務局に登録した印鑑が、変更することない限り、ずっと「法人の代表者印」として活用され、その後、議事録等への押印をもとめられる印鑑となるので、法人銀行印とは区分することをおすすめします。
・代表者の本人確認書類
代表者本人が確認できる運転免許証、マイナンバーカード、住民票の写し、住民票記載事項証明書などが必要です。
・会社の運営実態がわかる資料や許認可証など
金融機関にとって、会社の運営実態は口座の開設を審査する重要な判断基準です。オフィスの賃貸契約書、事業の許認可証明書、事業計画書など、事業内容や実績がわかる資料を必要に応じてそろえておきましょう。
3. 書類を提出して審査を受ける
法人口座の開設に必要となる提出書類に漏れがないことを確認し、口座開設の申し込み手続きを行います。基本的には、提出した書類の内容をもとに各金融機関で審査が行われ、必要に応じて事業内容や事業計画などの確認があります。ただし、審査基準は金融機関によってさまざまであり、必要書類がそろっていれば審査に通るというわけではありません。
定款に記載した事業内容が曖昧だったり、広すぎたりして事業の目的や実態がつかみにくい場合や、資本金の額があまりに少ない場合、事業所の実態がない場合などは信頼性が低いとみなされて審査に通らないこともあります。近年の傾向として特にバーチャルオフィスを本店として登記している場合、あるいは連絡先に携帯電話だけが記載されているというようなケースでは審査が厳しくなる傾向があります、また、創業時のキャッシュを判断できる資本金は重要な審査対象です。1円でも会社を設立することはできますが、法人口座の開設を考えるなら100万円以上を目安にすると良いでしょう。
法人口座のまとめ
ここまで、法人口座について解説してきました。以下に要点をまとめます。
・法人口座を開設すると、社会的信頼性の向上や業務の効率化など、事業を進めるうえでメリットが大きい
・法人口座は審査に時間がかかるため、商業登記簿謄本が取れ次第、手続きを開始する必要がある
・法人口座開設にあたっては、自身に合った金融機関の選定や必要書類の準備、審査といったステップが必要
法人口座は個人口座に比べて審査基準が厳しく、開設までに時間がかかるイメージもあるかもしれません。しかし、法人口座を開くことで、取引先から信用を得ることができたり、金融機関から融資を受けやすくなったりするなど、メリットも多くあります。法人設立の際には、ぜひ法人口座の開設を検討してみてはいかがでしょうか。
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