監修者プロフィール
内山 智絵(うちやま ちえ)
公認会計士/税理士
大学在学中に公認会計士試験に合格し、卒業後は大手監査法人の地方事務所で上場企業の法定監査などに10年ほど従事した。出産および育児をきっかけに退職。現在は会計事務所を開業し、中小監査法人での監査業務に加え、起業女性の会計や税務サポートなどを中心に行っている。
【目次】
コングロマリットとは業種や産業の異なる複数の企業が経営統合によって、
ひとつの大きな企業グループを形成する経営形態
コングロマリットの目的
コングロマリットの3つの手法
コングロマリットのメリット
コングロマリットを成功させるポイント
コングロマリットのまとめ
コングロマリットとは業種や産業の異なる
複数の企業が経営統合によって、ひとつの
大きな企業グループを形成する経営形態
コングロマリット(Conglomerate)とは、「巻きつける、一緒に転がす、集中させる、積み上げる」といった意味を持つラテン語が由来となる言葉で、複合企業体を意味します。ビジネスにおいては業種や産業の異なる複数の企業が経営統合によって、ひとつの大きな企業グループを形成する経営形態を指します。
コングロマリットを形成することで、リスクを分散し、収益の安定化を図ること、相乗効果を生み出し競争力を高めることが期待できます。
コングロマリットとコンツェルンの違い
コングロマリットと混同しやすい企業形態に「コンツェルン」があります。コンツェルンとは、持ち株会社を設立して傘下の子会社群などで市場を独占する企業グループを指します。日本では「財閥」がコンツェルンに該当しましたが、第二次大戦後にGHQの方針によって解体されています。
コングロマリットとコンツェルンとの違いは、「目的」にあります。コングロマリットは事業の多角化が目的であるのに対し、コンツェルンの目的は市場の支配と独占です。
コングロマリットの目的
コングロマリットを形成する主な目的は、先述の通り、複数の事業の多角的です。事業の多角化により相乗効果を生み出し競争力の向上がはかり、特定の事業で打撃を受けても別事業で損失をカバーできる体制をつくりリスクヘッジをし、中長期的な成長基盤を築くことです。
そのため、中長期的な成長を目指している大企業や、海外展開を目指す多国籍企業などでコングロマリットが形成されることが一般的でした。しかし近年は、急成長を遂げるために、異なる業種の会社を買収、合併する「コングロマリットM&A」を行うことでコングロマリット化を進める例もあります。コングロマリット型M&Aを行うメリットは、技術もノウハウも市場も異なる企業を束ね、多角化を迅速的に行えるようになることだといえるでしょう。
コングロマリットの3つの手法
コングロマリットを形成するための主な手法(スキーム)としては以下が挙げられます。
資本提携
資本提携とは、2社以上の企業が資金面と業務面で協力し合う提携関係です。資本、つまり株式の移動をともないます。主体となる企業が提携先企業の株式を取得するか、提携する各企業が相互に株式を保有することで、提携関係を築きます。経営の独立性を保つために、取得、もしくは譲渡する株式数は取締役の解任や定款の変更のような特別決議を単独で阻止できない範囲の発行済株式総数の1/3未満に抑えるのが一般的です。
吸収合併・新設合併
吸収合併は、対象企業を丸ごと取り込み、存続企業にすべての資産が移される方法です。吸収合併が行われると、存続企業の法人格のみが残り、吸収される企業の法人格は消滅します。吸収合併は消滅企業に与えられていた許認可や免許を、そのまま引き継ぐことが可能です。
新設合併とは、対象企業をすべて消滅させ、合併により新たに設立する企業にすべてを承継させる方法です。新設合併は対等合併とみなされ、対外的にもポジティブなイメージを発信しやすくなりますが、新設企業に合併前の許認可や免許を引き継ぐことができないため、新たに取得し直す必要があり、手続きや費用の負担が大きくなります。
買収
買収とは、株式取得によって他企業の経営権を獲得することを指します。資本提携よりも資本の結びつきが強く、コングロマリット内の企業同士の結束も強まる傾向がありますが、多額の資金が必要です。
コングロマリットのメリット
コングロマリットを形成するメリットを紹介します。
シナジー効果
コングロマリットにおける大きなメリットの1つがシナジー効果です。既存事業と新規事業間でノウハウや技術を得ることで、新たな価値の創出が期待できます。コングロマリットの形成により、企業価値が高まる状態を「コングロマリット・プレミアム」といいます。
関連記事:シナジー効果とは?ビジネスシーンにおける効果や創出する方法を解説
低コスト、低リスクでの新規事業参入
新規事業への参入には、多くの時間と費用が必要であり、新規参入が成功するとは限りません。コングロマリットを形成すると、すでに実績のある企業の技術やノウハウ、システムだけでなく人材も取り入れることができるため、コストとリスクの低減が可能でしょう。
リスクの分散化
一つの事業が不調に陥っても別事業が好調であれば業績を維持できるコングロマリットを形成することで、経営リスクを分散化できます。VUCA時代と呼ばれる先行きが不透明な経済環境おいて注目されているリスクマネジメントにもつながるでしょう。
関連記事:VUCA時代とは?必要とされるスキルや人材育成、マネジメントを解説
コングロマリットを成功させるポイント
コングロマリットを成功させるためのポイントを紹介します。
統合の目的と戦略の明確化
コングロマリットを成功させるための第一歩として、まず、統合の目的と期待される効果をはっきりと明確化し、関係者全員で共通理解をもちましょう。統合によってどのようなシナジーが生み出せるか、具体的なシナリオを描いておくことが重要です。
統合をスムーズに行うための計画策定
次に、明確化した目的とシナリオに基づいた詳細な実行計画を立てましょう。企業文化の違いへの配慮、業務プロセスやITシステムの統合作業、人員の適正配置、評価制度など、様々な側面を考慮した綿密な準備が必要です。グループ内の企業や事業を複合して管理するコングロマリットにおいては、業績管理が複雑化します。コーポレートガバナンスの低下、従業員の不安が顕在化する可能性や、多角化した事業についての投資家への適切な情報開示も想定しておきましょう。
「コングロマリット・ディスカウント」などのリスク管理
統合には必ずリスクが伴います。資源の分散化、従業員の労働意欲の低下、部門間の利害対立、コンプライアンス上の問題などに加え、「コングロマリット・ディスカウント」と呼ばれる、コングロマリットとしての企業価値が各事業の企業価値の合計よりも小さくなる、つまりコングロマリットを実施した企業の価値が下がるリスクが想定されます。起こりうるリスクをあらかじめ洗い出し、リスクが顕在化した際に迅速かつ適切に対処できる管理体制を整備しておきましょう。
コミュニケーションや連携
コングロマリットの形成によって規模が拡大することで、企業間のコミュニケーションや連携が滞らないように注意しましょう。スムーズなコミュニケーションや連携はシナジー効果を創出するためにも必要不可欠です。
統合後の成果の追跡と評価
統合後は期待されたシナジーが創出できているかを継続的に追跡と評価しましょう。イノベーションが促進されているか、コスト削減が進んでいるかなど、統合の目的に応じた適切な指標を設定したうえで、成果をモニタリングし、必要に応じて軌道修正を図るプロセスを構築することが重要です。
コングロマリットのまとめ
コングロマリットについての要点を以下にまとめます。
・コングロマリットとは、業種や産業の異なる複数の企業が経営統合によって、ひとつの大きな企業グループを形成する経営形態
・コングロマリットの形成により、低コスト、低リスクでの新規事業参入、リスク分散化が可能で、シナジーによる新たな価値の創造が期待できる
・コングロマリットを形成しても、企業グループ全体の価値が事業ごとの合計を下回る「コングロマリット・ディスカウント」が生じる可能性もある
・中長期的な戦略で事前準備を綿密に行い、統合後も成果の追跡と評価が必要である
(免責事項) 当社(当社の関連会社を含みます)は、本サイトの内容に関し、いかなる保証もするものではありません。 本サイトの情報は一般的な情報提供のみを目的としており、当社(当社の関連会社を含みます)による法的または財務的な助言を目的としたものではありません。 実際のご判断・手続きにあたっては、本サイトの情報のみに依拠せず、ご自身の適切な専門家にご自分の状況に合わせて具体的な助言を受けてください。