コンフリクトは自己流では解決できない
厚生労働省が令和4年に実施した雇用動向の調査(外部サイトに移動します)では、過去1年以内に転職した人に「前職を辞めた理由」を聞いている。そのうち、個人的理由としては「労働時間・休日等の労働条件が悪かった」に次いで、「職場の人間関係が好ましくなかった」が男女ともに多く挙げられた。
健全な職場文化を維持し、従業員の離職を防ぐには、社内でのコンフリクトにいち早く対処する必要がある。では、具体的にはどうすればいいのだろうか。
米誌「フォーブス」の2023年12月の記事(外部サイトに移動します)によると、ほとんどすべてのコンフリクトは不適切なコミュニケーションから始まる。そう解説するのは、裁判外紛争解決(ADR)にかかるサービスを提供する米JAMSインスティチュートのエグゼクティブ・ディレクターであるリチャード・バークだ。
特に、従業員が職場で不公平だと感じているときにその理由が説明されないと、不満が溜まりがちだと彼は指摘する。仕事量や内容、上司からの扱いなどが適切だと認識できなければ、対立、あるいは従業員の離職に発展してしまうのだ。
バークは“自己流”で対処するのではなく、交渉の仕方、コンフリクトの回避や緩和の仕方、解決方法について学ぶことを勧める。「どんな種類のコンフリクトも直感的に解決できると思い込んでいる人が多いですが、常識だけでは解決できません」と彼は断言する。自分が正しいと考えていることが、他の人にも通用するとは限らないからだ。
職場内のコンフリクトに向き合おう
職場でのコンフリクトにはポジティブな側面もある。英紙「フィナンシャル・タイムズ」の2024年1月の記事(外部サイトに移動します)によると、英ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン人類学部のジョン・カラン実務教授は、コンフリクトはグループのダイナミクスの一部であり、組織の重要な「基盤」であると主張する。
組織開発の専門家である彼は、「コンフリクトはどこにでも存在し、組織文化を築く要素になります。それがなければ文化は生まれません」と断言する。だからこそ、その存在を企業は受け入れ、向き合う必要があるという。
一方、カランはコンフリクトを、健全なものとそうでないものとに分けて対応することを勧める。望ましいのは、新しいイニシアティブやプロセスに対する意見の相違だ。一方で、非効率な手続きにとらわれたり、上司に振り回されたりするのは、悪い種のものだと言える。
良いコンフリクトであれば、そこから新たなアイデアやイノベーションが生まれうる。しかし、それには適切な舵取りが必要で、リーダーが中立に関与して解決する必要があるとカランは指摘する。
「コンフリクトの先にあるゴール」を強調しよう
それではどのようなリーダーシップが望ましいのだろうか。
法律事務所クリフォードチャンスの英国インクルージョン責任者、ニーナ・ゴワスミによると「コンフリクトの先にあるゴール」をマネジャーが強調するのが重要だと言う。
「意見が対立しそうな会議では、あらかじめ最終的な目的を伝えるのが大事です。たとえ同意はできなくても、それぞれ自分の声を聞いてもらい、チームとして協力できる共通アクションを見出すのが最終目的だと伝えるのです」
そうして、発言をしやすくし、お互いに傾聴する場を作ることで、協力が生まれやすくなるという。
米オフィス用品小売オフィス・デポの多様性・平等・インクルージョン・リーダーであるシェリー・テイラーは、コンフリクトをチャンスに変えるにはチームの人間関係が重要だと米誌「フォーブス」(外部サイトに移動します)への2024年4月の寄稿記事のなかで述べている。チームが意見の違いを乗り越え、建設的な議論を交わせるようになるには信頼関係が必要だ。だからこそ、マネジャーは職場での人間関係の構築を支援すべきだと彼女はいう。
信頼があれば、より積極的に相手の話に耳を傾け、お互いのアイデアをブラッシュアップしていけるだろう。また、建設的な議論をするために、傾聴や交渉のテクニックを身につけるための研修を提供するのも効果的だと訴える。
コンフリクトをイノベーションに
社内のコンフリクトをイノベーションに変えた良い例として、オランダのスーパーマーケットチェーン「ユンボ」が挙げられる。同社内部には、効率性を求める人たちもいれば、顧客との関わりを重視する人もいた。最高商務責任者(CCO)のコレット・クロースターマン・ヴァン・エールトは両方の意見を尊重し、複数の種類のレジを作ることにした。
独紙「ツァイト」の2023年2月の記事(外部サイトに移動します)によると、同社は急いでいる客に利用を推奨するセルフレジ、普通の有人レジに加え、買い物客がスタッフと積極的に話せる「おしゃべりレーン」を設けた。後者は、孤独感を感じている高齢者や子育て中の親など、多様な人に好まれている。
おしゃべりレーンで働くのも、普通のレジでは機械のように扱われると寂しさを感じていた従業員であり、彼らは客と個人的に接触できることを喜んでいる。一方、人と話すのが苦手な従業員は普通のレーンにのみ立つ。結果として、複数のニーズに応え、顧客と従業員の満足度も向上させた。
このように社内に対立する考えがあったとしても、それぞれの意見を出し合い、無理に一つにまとめようとせず、違いに向き合ってみよう。イノベーションを生み出すきっかけが生まれるかもしれない。
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【スタッフクレジット】
文・編集:クーリエ・ジャポン(講談社)
写真:Getty Images