企業が倒産する最たる理由は、「どこからも資金が調達できなくなって、支払が不能になった」から。逆にいえば、お金が尽きない状態をつくれるようになれば、50年、100年と事業を継続することができるわけです。
お金が尽きないようにするために不可欠なのが、キャッシュフローの原理原則や基礎知識。当連載では、「中小企業こそ日本を支える礎である」という理念を持ち、中小企業の財務支援に特化した税理士事務所、エンパワージャパン代表を務めます穂坂光紀がキャッシュフローのポイントや実践的な方法を紹介していきます。
今回のテーマは前回に引き続き、貸借対照表の「負債」について。前回、負債は資金調達の方法の一つであり、適正な範囲で負債を増やしていくことで会社の資金量は増えていくとお伝えしました。では、その「適正な範囲」とはどれくらいなのか。許容範囲の目安についての考え方を解説します。
穂坂光紀氏
借金の許容範囲を理解する
負債は「返済期限付きの資金調達方法」であり、期限までに返済できないと倒産の危険もあります。そのため、許容範囲内で資金調達をすることが大切であると、前回もお伝えしました。
では、具体的にどの程度までであれば借金をしても大丈夫なのか、許容範囲の目安を確認しておきましょう。とはいえ、ここでお伝えするのはあくまでも一般的な目安であり、会社の規模や業種、個々の事情によって許容範囲は異なります。詳しくは税理士などの専門家に相談してください。
まず借入金というのは、お金を借りる目的に応じて「設備資金」と「運転資金」の2つに大別されます。「設備資金」とは会社の設備投資のために借りるお金のことで、建物や土地、機械装置や車両運搬具などの購入費用として利用されます。「運転資金」とは、通常営業を行っていくにあたって必要な資金のために借りるお金のことで、人件費や広告宣伝費、仕入や交通費など日々の細かい支払いとして利用されます。
借金の許容範囲はその目的、つまり「設備資金」か「運転資金」かによって異なります。
設備資金は「何年で元を回収するか」がポイント
まずは「設備資金」について。そもそも、なぜ設備投資を行うのかというと、「投資を行うことで、今以上に利益を得ることができる」と期待するからです。お金を借りて投資する以上、投資した金額以上に利益を稼ぎ出せなければ意味がありません。
その観点からも、設備資金として借入を行う場合には、「借入金額を何年で回収できるか」によって許容範囲を設定します。例えば1,000万円の機械を購入する場合、その機械が理論上何年くらい稼働できるのか、どれくらいの売上に貢献するのかを見積もります。仮に5年間で元を取るのであれば、年間200万円。3年間で元を取るなら年間333万円以上。これくらいの利益増加が見込めるのであれば、投資をすべきということになります。
しかし、いくら将来の利益が見込めるといっても無制限に借入を行えるわけではありません。業種にもよりますが、設備資金として借りることができる金額は、年商(年間の売上総額)の30%~50%程度が許容範囲です。年商1億円の会社であれば3,000万円~5,000万円といったところになります。
ただし、無理なく返済できる借入額を考える際には、売上だけでなく返済期間中の利益の見込みも踏まえる必要があるでしょう。仮に、年商1億円の会社が5000万円の借入をしたとします。5000万円は、年商1億円の会社が毎年10%の利益を5年継続してやっと到達できる額です。どんなに優秀な会社でも、売上に対する税引後利益を10%確保することは簡単ではありません。このこともふまえ、現実的に返済が可能な借入額を検討する必要があります。
運転資金は、毎月の固定費の2~3カ月分が目安
次に「運転資金」についてです。運転資金の調達は、主に毎月の経費の支払いに必要な資金を確保するために行います。基本的に営業活動は、「日々の売上」によって入金されるお金の中から「経費の支払い」をして、残ったものが利益とります。そのため、毎月発生する経費は収入の中から賄うのが原則です。
しかし、実際には売上が入金されるタイミングよりも先に経費を支払うパターンが多くあるため、その収支のズレの分だけ資金が必要となり、その不足分を補うために調達するのが運転資金ということになります。
この際、ポイントとなるのが「売掛金の入金サイト」と「毎月の固定費」です。売掛金は、相手に請求した売上金額が30日後や60日後に入金されるのが一般的です。対して「毎月の固定費」は、売上の入金状況に関係なく発生するため、どうしてもタイムラグが生じてしまうのです。
そのため、この2つの金額のバランスを見て、借入額を検討する必要があります。売掛金の入金サイトから計算する場合には、月商(月間の売上総額)の1.5~2カ月分が目安。逆に毎月の固定費から計算する場合には、2~3カ月分が運転資金の必要額の目安となります。それ以上の運転資金の調達は毎月の収支が見合っていないという判断となるため、そもそもの日々の営業活動を見直す必要があります。
年間利益から許容範囲を逆算する
借金は、稼ぎ出した利益の中から返済していかなければいけません。そこで、「いま借りているお金を何年後に完済できるのか」を利益から逆算し、許容範囲を割り出すという方法もあります。ここでいう利益とは「経常利益+減価償却費」です。なお、減価償却費は支出を伴わない経費なので、返済原資に充てられると考えられています。
利益から計算する許容範囲の目安は、「(経常利益+減価償却費)×10年」です。経常利益500万円、減価償却費300万円の会社の場合には、(500万円+300万円)×10年=8,000万円といった具合です。
これに基づくと、経常利益が多くなるほど借入金の許容範囲が大きくなっていくことが分かります。つまり、安定的に資金調達をするためには一定以上の利益を確保することが大切なのです。逆に赤字の会社は、返済原資が無いということで銀行からの評価も厳しいものとなります。
これらを踏まえながら自分の会社の許容範囲を知り、しっかりと会社の資金量を増やしていくことが健全な会社経営には必要です。
関連記事:減価償却費とは?計算方法から特例まで基本をわかりやすく解説
■プロフィール
穂坂光紀
1981年、神奈川県小田原市出身。中小企業の財務支援に特化した税理士事務所、エンパワージャパンの代表税理士。「中小企業こそ日本を支える礎である」という理念から、持続可能な社会と企業を創るための「中小企業のための財政支援プログラム」を実施。強固な財務力を持つ優良企業に導く。共著に『七人のサムライ』がある。
■スタッフクレジット
文:穂坂光紀 編集:榎並紀行(やじろべえ)、服部桃子(株式会社CINRA)
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