企業が倒産する最たる理由は、「どこからも資金が調達できなくなって、支払が不能になった」から。逆にいえば、お金が尽きない状態をつくれるようになれば、50年、100年と事業を継続することができるわけです。
お金が尽きないようにするためには、キャッシュフローの原理原則や基礎知識を知ることが不可欠。当連載では、「中小企業こそ日本を支える礎である」という理念を持ち、中小企業の財務支援に特化した税理士事務所、エンパワージャパン代表を務めます穂坂光紀がキャッシュフローのポイントや実践的な方法を紹介していきます。
前回は、決算書は会社の信用を見る証明書であるとお伝えしました。今回は、そのなかでも特に重要な「貸借対照表」の読み方やチェックポイントについて解説したいと思います。
穂坂光紀氏
会社存続のために欠かせない、貸借対照表の2つの要素
前回、決算書は会社の信用の証明書になるとお伝えしました。その決算書において信用を積み上げるために特に重要なのは「貸借対照表」への理解です。財務のプロは貸借対照表だけを見れば経営者の性格や財務知識の多寡、健全性まで読み解くことができます。それほど貸借対照表には会社の経営情報が含まれているということです。まずは貸借対照表の基礎的な理解から始めていきましょう。
簿記では、「貸借対照表とは一定時点における財政状態(資産、負債、純資産)を明らかにした表である」と教えられます。そのとおりなのですが、経営者が理解すべきことは「貸借対照表とは、どこから資金が調達されて(負債、純資産)、現在どのように運用されているか(資産)が記録された表」だということです。「資金調達」と「資金運用」、この2つの要素が会社の存続のために不可欠であり、それが貸借対照表を見れば分かるということです。
貸借対照表を図にすると、ボックスの左側が「資金運用(資産)」、右側が「資金調達(負債、純資産)」の金額が記載されることになります
事業活動を行うためにはお金が必要で、必ずどこからか調達する必要があります。貸借対照表のボックスは左側(資産)と右側(負債、純資産)の合計額が一致するようにつくられているので、何らかの方法で1億円の資金を調達した場合、必ず運用側の資産も1億円増加することになります。つまり、調達金額が大きいほど運用できる金額も増え、運用の成果もより出しやすくなります。
調達と運用は表裏の関係にありますので、調達がうまくいかなければ運用できる資金も枯渇しますし、運用に失敗すれば結果的に次の調達が難しくなります。調達がうまくいっているか、運用に失敗していないか、これらは貸借対照表を読み解くことでだいたい把握できます。
資金の「質」よりも調達金額の「総量」を増やすことが大事
また、順調に調達ができていることは、あなたの会社の信用にもつながります。お金を貸してくれたり、出資してくれる相手は決して慈善活動ではなく、それに見合う見返りがあると判断しているわけです。より多くのお金が調達できるということは、それだけ会社に信用があるということであり、その積み重ねを客観的に評価したものが貸借対照表の調達側(負債、純資産)に現れているのです。
ここで特に理解してほしいことは、借金であっても、出資であっても、商売で稼いだお金であっても資金を調達する手段であるという点において変わりはないということです。ギリギリまで借金をしないで頑張ったために思い切った手が打てなかったり、日頃から金融機関との実績をつくっていなかったりしたために、いざというときに協力してもらえずに経営危機に直面するケースもあります。
借金そのものは善でも悪でもありません。借金ができるということは、それだけの信用が会社にあるという裏返しであるということを忘れないでください。悪いのは借金自体ではなく、借金によって調達した資金が適切に運用されないこと。会社を成長させるも、衰退させるも運用次第なのです。
最大限に資金を調達し、最適な効率で資金を運用する。この財務の基本をふまえたうえで、調達と運用の現状を把握するための資料として貸借対照表を読めるようになると経営判断に大いに役立つはずです。
■プロフィール
穂坂光紀
1981年、神奈川県小田原市出身。中小企業の財務支援に特化した税理士事務所、エンパワージャパンの代表税理士。「中小企業こそ日本を支える礎である」という理念から、持続可能な社会と企業を創るための「中小企業のための財政支援プログラム」を実施。強固な財務力を持つ優良企業に導く。共著に『七人のサムライ』がある。
■スタッフクレジット
文:穂坂光紀 編集:榎並紀行(やじろべえ)、服部桃子(株式会社CINRA)
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