企業が倒産する最たる理由は、「どこからも資金が調達できなくなって、支払が不能になった」から。逆にいえば、お金が尽きない状態をつくれるようになれば、50年、100年と事業を継続することができるわけです。
お金が尽きないようにするためには、キャッシュフローの原理原則や基礎知識を知ることが不可欠。当連載では、「中小企業こそ日本を支える礎である」という理念を持ち、中小企業の財務支援に特化した税理士事務所、エンパワージャパン代表を務めます穂坂光紀がキャッシュフローのポイントや実践的な方法を紹介していきます。
前回は、金融機関から資金調達をする際に必要な、「信用の築き方」について、基本的な考え方をお伝えしました。今回は、その信用の証明書となる「決算書」について解説したいと思います。
穂坂光紀氏
決算書は会社の「信用度」を客観視するもの
信用されない会社はお金を借りることもできませんし、取引先と良好な関係を構築することもできません。信用とは「過去から現在までの実績に対する客観的な評価」だと前回お話しました。「過去の実績」とは「いままで何をしてきたか」ということであり、それを客観的に示すものとして利用されるのが決算書(財務諸表)です。
決算書は「会社の成績表」などと言われたりしますが、これはあまり適切な表現とはいえません。成績表というのであれば「どの程度の成績を取れば優秀なのか」「他者と比較して当社はどうなのか」がわからなければ活用しようがありません。
ハッキリと言います。決算書は会社の成績表ではなく、「あなたの信用度(与信)の証明書」です。つまり、あなたの会社は信用に足る存在なのか、信用できない会社なのかを判断する最重要書類ということです。では、なぜ決算書は信用度の証明書になるのか。理由は大きく2つあります。
1つは「法的確実性」。会社は決算書を基にして法人税や消費税などの税金の申告を行い、その際に決算書は国に提出されます。国に提出するためには会社法や会計法、税法などに照らし合わせて適法に作成されていなければ違法ですので、国に提出されている時点で法的に問題がないという信用を国が与えてくれているわけです。だからこそ「粉飾決算」や「脱税」など、意図的に結果を操作した決算書は法的確実性を失います。そもそも信用に値しない、更には不正な決算書を作成するような会社であり、代表者なのだという烙印が押されてしまい、信用の回復には膨大な時間がかかるのです。
2つめは「客観性」。決算書にはお金で評価できる数値しか記載されません。会計のルールに基づいて作成された決算書では現金100万円は誰が評価しても100万円の価値があります。もし決算書が会社の成績表だとするのであれば将来性とか社員の質などお金で測定できない価値も評価しなければいけませんが、あえてお金で換算できるものだけを決算書に記載すると決めたことで誰が計算しても同じ結果が得られるわけです、また、毎年同じ形式で作成されることで過去との比較・検証が可能になり、信用度を測るには最適な資料とされているのです。
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貸借対照表の数字によって信用度が決まる
少々固い話になってしまいましたが、決算書は信用度の証明書そのものですので、いかに信用される決算書を作成するかが金融機関と良好な関係を創る際には重要かということを理解してください。そのうえで決算書についてもう少し掘り下げて解説します。
決算書(財務諸表)は、基本的に「①貸借対照表」「②損益計算書」「③キャッシュフロー計算書」「④株主資本等変動計算書」「⑤個別注記表」の5つの書類によって構成される報告書のことをいいますが、特に重要度が高いのが①貸借対照表と②損益計算書であり、そのなかでも金融機関が一番注目するのが「貸借対照表」です。信用度の証明書という点でいえば貸借対照表の数字によって信用度が決まるといっても過言ではありません。
しかしながら、中小企業経営者が決算書を見るときはどうしても損益計算書に目が行きがちです。損益計算書は売上高や営業利益、税引前当期利益など1年間の業績報告書なので見やすいですし、「もっと売上を上げよう」、「経費を抑えよう」といった具体的な行動につながりやすいからです。そのため、損益計算書の読み方は分かるけど、貸借対照表の読み方はよくわからないという経営者も多いのではないでしょうか。
金融機関と良好な関係を構築して、必要なときに必要なだけの資金を調達するためには貸借対照表に対する理解と具体的な改善に向けての計画策定が必須となります。次回は貸借対照表の読み方と具体的なチェックポイントを解説していきます。
■プロフィール
穂坂光紀
1981年、神奈川県小田原市出身。中小企業の財務支援に特化した税理士事務所、エンパワージャパンの代表税理士。「中小企業こそ日本を支える礎である」という理念から、持続可能な社会と企業を創るための「中小企業のための財政支援プログラム」を実施。強固な財務力を持つ優良企業に導く。共著に『七人のサムライ』がある。
■スタッフクレジット
文:穂坂光紀 編集:榎並紀行(やじろべえ)、服部桃子(株式会社CINRA)
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