企業が倒産する最たる理由は、「どこからも資金が調達できなくなって、支払が不能になった」から。逆にいえば、お金が尽きない状態をつくれるようになれば、50年、100年と事業を継続することができるわけです。
お金が尽きないようにするために不可欠なのが、キャッシュフローの原理原則や基礎知識を知ること。当連載では、「中小企業こそ日本を支える礎である」という理念を持ち、中小企業の財務支援に特化した税理士事務所、エンパワージャパン代表を務めます穂坂光紀がキャッシュフローのポイントや実践的な方法を紹介していきます。
第4回では、キャッシュフローを考える第一歩として、「資金調達」のあり方についてお伝えしました。今回は、銀行をはじめ金融機関から資金調達をする際に必要な、「信用の築き方」について解説します。
穂坂光紀氏
銀行はどんな会社にお金を貸すのか?
想像してみてください。あなたは銀行の融資担当者で、お金を貸すことが仕事です。ちょうど中小零細企業の経営者がお金を借りにきました。あなたは何を基準にお金を貸しますか?
結論から言います。金融機関は「あなたの会社が信用できるか」によって融資するかを判断しています。信用できない人にはお金を貸しません。それは融資に限らず、出資を募る場合であっても、誰かと商売をする場合であっても同じでしょう。信用できない人には出資をしないし、一緒に商売をしようとは思わないはずです。私たちが思っている以上に「信用」という言葉には重い意味があります。では「信用」とは具体的に何を指すのでしょうか?
よく知りもしない人から「私を信用してください」と言われても、言葉だけでは難しいはずです。信用とは言うなれば、「過去から現在までの実績に対する客観的な評価」のこと。つまりは「いままで何をしてきたか」が信用の評価基準ということです。
信用を築くためには、地道に実績を積み上げていく必要がありますし、行動を誤ってしまえば、積み上げた信用は一瞬で崩れ去ります。簡単には築けないからこそ、金融機関は信用を重要視するのです。「信用の大きさ」=「金融機関から調達できる資金量」と言ってもいいくらいです。
あらためて振り返ってみてください。あなたの会社は銀行が信用するに値する実績、行動を積み上げることができているでしょうか?客観的になって振り返ることで見えてくることもあるのではないでしょうか。
金融機関に最も嫌われるのは「約束を守らない」経営者
「信用できる人」と「信用できない人」を分ける決定的な要素は「約束を守ること」と「裏切らないこと」。この二点に尽きます。当たり前に聞こえるかもしれませんが、経営においてどんな些細なことであっても蔑ろにせず、きっちりと約束を守り続けることは簡単なことではありません。約束を守ることで信用が積み上がり、約束を破ることで信用が失われます。
特に重要なのは、「お金に関する約束」を守ること。なかでも「支払期限を守る」ことです。最低限これができないと信用されないどころか、相手にすらされなくなってしまいます。金融機関が一番嫌うのは「返済期限を守らない人」です。どんなに小さな金額であっても、支払期限を守ること。これが信用をつくる第一歩です。
融資と返済を繰り返して、とにかく「実績」を積み上げる
次に大切なのが「実績をつくること」です。とりわけ、金融機関に対して重要なのは「融資実績」と「返済実績」です。より多額のお金を借りる、借入回数を重ねる、そして確実に返済をする。これらを繰り返すことで信用が形成されていきます。融資においては、金融機関にとっての得意先はお金を預けてくれる人ではなく、「お金を借りてくれる人」だということを忘れないでください。金融機関にとっては「より多くお金を借りてくれて、確実に返してくれる会社」が良い会社であり、そのような得意先を探しているのです。
経営者のなかには無借金経営こそが理想の経営だと思っている方もいますが、借入実績のない会社は金融機関との関係が薄弱なので業績不振になった途端に借り入れができなくなり倒産する危険性があります。中小企業にとって金融機関からの資金調達は生命線でもあるので、平常時から「融資実績」と「返済実績」をつくり、信用を積み上げておくことが大切です。
金融機関に対する最大の裏切り行為、それは「借金踏み倒し」と「粉飾決算」です。会社の信用を粉々に砕くだけでなく、将来にわたる「信頼関係」すら築けなくなる可能性があります。せっかくの価値ある事業と会社を継続させていくためにも、ぜひ心に留めていただきたいと思います。
次回は、より踏み込んで「決算書と信用との関係性」について解説していきます。
■プロフィール
穂坂光紀
1981年、神奈川県小田原市出身。中小企業の財務支援に特化した税理士事務所、エンパワージャパンの代表税理士。「中小企業こそ日本を支える礎である」という理念から、持続可能な社会と企業を創るための「中小企業のための財政支援プログラム」を実施。強固な財務力を持つ優良企業に導く。共著に『七人のサムライ』がある。
■スタッフクレジット
文:穂坂光紀 撮影:丹野雄二 編集:榎並紀行(やじろべえ)、服部桃子(株式会社CINRA)
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