企業が倒産する最たる理由は、「どこからも資金が調達できなくなって、支払が不能になった」から。逆にいえば、お金が尽きない状態をつくれるようになれば、50年、100年と事業を継続することができるわけです。
お金が尽きないようにするためには、キャッシュフローの原理原則や基礎知識を知ることが不可欠。当連載では、「中小企業こそ日本を支える礎である」という理念を持ち、中小企業の財務支援に特化した税理士事務所、エンパワージャパン代表を務めます穂坂光紀がキャッシュフローのポイントや実践的な方法を紹介していきます。
前回は、キャッシュフローを税理士に丸投げせず、経営者自身が把握することの重要性についてお伝えしました。では、キャッシュフローについて考える際、まずは何から始めればいいのか。第4回は、最低限おさえておきたいポイントなど、キャッシュフローの基本について解説します。
穂坂光紀氏
キャッシュフローの第一歩は「資金調達」について考えること
最初におさえておきたいのは、お金の流れには2つの側面があるということ。それは「資金調達(入金)」と「資金運用(出金)」です。キャッシュフローの観点から見る健全な事業活動は、「資金調達を最大化」し、「資金運用を最適化すること」と言えます。このことは、これまでの連載でも繰り返し述べてきました。
当然ながら、「お金の集め方(資金調達)」と「お金の使い方(資金運用)」が会社の未来を左右します。しかし、経営者のなかには、この二つの基本に対する理解が不足している方もいらっしゃいます。特に「資金調達」に関しては、選択肢が少ないということもあり苦手とする方が多いです。
お金の流れを生み出すためには、何よりも「お金を集めてくること(資金調達)」から始めなければなりません。川の流れと同じで、源泉の資金量が多いほどお金の流れは大きくなります。源泉が少ないのに資金量を増やそうと思っても無理があります。キャッシュフローにおける原理原則は「いかに源泉の資金量を増やすことができるか」を考え、実行することにありますが、中小零細企業の場合には「いかに少ないお金で効率よく利益を出すか」ということばかりに意識が向いてしまし、結果として資金繰りに苦しむことになります。資金繰りを安定させるためには「資金調達(資金量)」を増やすことが重要です。
ですから、キャッシュフローのファーストステップとしては、この資金調達のあり方について考えるのがよいかと思います。
適切な方法によってお金を集め、会社の資金量を増やす
では、どのようにお金を集めればいいのでしょうか。資金調達は、大まかに「①自ら稼ぎ出す」「②出資してもらう」「③お金を借りる」という三つの方法に分類されます。
まず、「①自ら稼ぎ出す」ですが、これはつまり「とにかく売上げを上げる」こと。たしかに、売上は大事ですし、事業活動で利益を出してお金を貯めていくというのは理想的ですが、現実的には時間がかかりますし、経営者の思惑通りにうまくいくとは限りません。それに、売上の数字だけにとらわれてしまうのも危険です。売上を上げるということは、そのぶん仕入れや人件費などの出費も嵩むということ。やり方を間違えると、かえって資金繰りを悪化させてしまうリスクもあるのです。
次に「②出資してもらう」ですが、中小零細企業が投資家などから出資を得るのはハードルが高く、準備やプレゼンスキルなども必要です。そうなるとなかなか現実的な選択肢とはいえません。
これらをふまえると、中小零細企業にとって最も現実的、かつ効率よく資金量を増やす方法は「③お金を借りる」です。特に、金融機関からの資金調達がしっかり出来るか否かが会社存続のカギを握るといっても過言ではありません。
経営者のなかには、借金をすることに対して抵抗感を持つ方も少なくないと思います。しかし、松下幸之助氏や稲森和夫氏といった「経営の神様」とまでいわれる人をはじめ、尊敬すべき経営者の自伝を読み解いても、誰一人として「借金をしたことがない」という方はいませんし、借金を悪だと考えている方もいません。むしろ、他者の力を借りて会社を成長させることに対する感謝の気持ちと「恩に報いる」という覚悟を持って経営を行っている方ほど、結果的に会社を長く存続させています。
適切な方法によって、適切に調達した資金は会社の資金量を増やし、投資を含めた資金運用の原資となります。中小零細企業がしっかりとしたキャッシュフローを確立するためには、まず借りることへの抵抗をなくすこと。そして、金融機関との関係を構築して資金調達のパイプを持つことがカギとなるのです。
次回は金融機関との関係を構築するために必要なポイントについて、お伝えしたいと思います。
■プロフィール
穂坂光紀
1981年、神奈川県小田原市出身。中小企業の財務支援に特化した税理士事務所、エンパワージャパンの代表税理士。「中小企業こそ日本を支える礎である」という理念から、持続可能な社会と企業を創るための「中小企業のための財政支援プログラム」を実施。強固な財務力を持つ優良企業に導く。共著に『七人のサムライ』がある。
■スタッフクレジット
文:穂坂光紀 撮影:丹野雄二 編集:榎並紀行(やじろべえ)、服部桃子(株式会社CINRA)
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