企業が倒産する最たる理由は、「どこからも資金が調達できなくなって、支払が不能になった」から。逆にいえば、お金が尽きない状態をつくれるようになれば、50年、100年と事業を継続することができるわけです。
お金が尽きないようにするために不可欠なのが、キャッシュフローの原理原則や基礎知識。当連載では、「中小企業こそ日本を支える礎である」という理念を持ち、中小企業の財務支援に特化した税理士事務所、エンパワージャパン代表を務めます穂坂光紀がキャッシュフローのポイントや実践的な方法を紹介していきます。
第3回は、「キャッシュフローを税理士に全部任せてはいけない理由」についてお伝えしたいと思います。
穂坂光紀氏
税理士にお金のことを全部任せて本当に安心なのか?
具体的なキャッシュフローの話に入る前に、みなさんに知ってほしいことがあります。それは「税理士は万能ではない」ということです。
私は中小企業を全力でサポートしたいと考えています。そして私のように考えている税理士も多くいらっしゃると思います。とはいえ、税理士がサポートできる範囲は、経営者が思っている以上に狭いというのも実情です。なぜなら、税理士の専門領域である会計や税法は「過去の業績」を正しく導き出して税金を計算することであり、「未来のお金の流れ」を扱うキャッシュフローに関しては税理士の試験科目にありませんし、勉強もしていません。財務諸表の一つに「キャッシュフロー計算書」というものがありますが、これはあくまで過去のお金の入出金を発生原因別に集計しただけのものなので、経営において本当に必要とされるキャッシュフローとは異なるものです。
「お金が尽きないようにする」のは経営者の仕事
キャッシュフローとは、「お金が尽きないようにすること」です。いまも会社を存続できているということは、少なくとも「(いままでは)お金が尽きていない」のであり、税理士の目線で「過去」をいくら眺めてみても「いままではやってこられた」という結果しか出てきません。
経営者にとって重要なのは、過去ではなく「未来」に目を向けること。つまり、「これからやっていけるのか」ということであり、「将来にお金が尽きる心配はないか」ということです。未来のお金の流れを把握しコントロールすることがキャッシュフローの本当の目的です。
そのため、未来を把握することを目的としたキャッシュフローに関して、過去の結果しか見ることができない税理士が力になれることはほぼありません。ちなみに税理士だけでなく、銀行員や財務コンサルタントと呼ばれる人であっても、未来を見通す力を持った人は稀でしょう。過去にどこから入金があって、どこに支払いをしたのかは資料を見ればわかります。しかし、1か月後、2か月後にどこから入金がある予定なのか、どこに対して支払いをする予定なのかは外部の人間が知るはずもありません。経営者や会社内部の人が把握していない限り、未来の予測は誰にもできないのです。
キャッシュフローを他人任せにしてはいけない
税理士に請求書や領収書などを任せて「うちの税理士がうまくやってくれている」と思ってくださっている経営者(税理士としては信用いただけているということなので、とてもありがたい言葉なのですが。)は特に注意してください。税理士はあくまで過去の結果を集計しているだけ。未来はまったく見えていませんし、税理士をはじめ外部の専門家は、経営者との対話のなかで間接的に未来予測を立てることしかできません。本当の意味で、あなたの会社の未来を見通せるのは唯一あなただけです。
だからこそキャッシュフローに関してだけは、他人に任せるのではなく、経営者自身が把握し、コントロールできるようになってほしいのです。次回は、そのために必要な具体的なポイントについて解説していきます。
■プロフィール
穂坂光紀
1981年、神奈川県小田原市出身。中小企業の財務支援に特化した税理士事務所、エンパワージャパンの代表税理士。「中小企業こそ日本を支える礎である」という理念から、持続可能な社会と企業を創るための「中小企業のための財政支援プログラム」を実施。強固な財務力を持つ優良企業に導く。共著に『七人のサムライ』がある。
■スタッフクレジット
文:穂坂光紀 撮影:丹野雄二 編集:榎並紀行(やじろべえ)、服部桃子(株式会社CINRA)
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