企業が倒産する最たる理由は、「どこからも資金が調達できなくなって、支払が不能になった」から。逆にいえば、お金が尽きない状態をつくれるようになれば、50年、100年と事業を継続することができるわけです。
お金が尽きないようにするために不可欠なのが、キャッシュフローの原理原則や基礎知識。当連載では、「中小企業こそ日本を支える礎である」という理念を持ち、中小企業の財務支援に特化した税理士事務所、エンパワージャパン代表を務めます穂坂光紀がキャッシュフローのポイントや実践的な方法を紹介していきます。
今回のテーマは、前回に引き続きコロナ禍など経済に大きな影響を与える出来事を乗り越えるための、キャッシュフローについて。特別融資などの特例制度をうまく活用し、コロナ禍を乗り切るだけでなく、その先の成長へとつなげるための考え方を解説します。
穂坂光紀氏
コロナ禍で中小零細企業向けの特例措置が拡充
新型コロナウイルスの感染拡大以降、社会や企業を取り巻く状況は一変しました。私たち税務・財務の世界も例に漏れず、関連する優遇措置や特例措置も、これまでにないほど数多く打ち出されました。
これらの特例措置を活用した結果、皆さんの会社はどうなったでしょうか? 業績不振から立ち直り成長している会社もあれば、コロナ関連で調達した資金が徐々に枯渇し始めてきている会社もあるかもしれません。今回は、コロナ関連の優遇措置によって中小零細企業がどのような状況になったのかについてお話します。
「コロナ特別融資」は鎮痛剤のようなもの
コロナによる最初の緊急事態宣言が発令された2020年4月。すぐに用意されたのが「コロナ特別融資(セーフティネット4号、5号など)」です。コロナの影響によって売上が減少している企業を対象に「3年間実質無利息」「返済は一定期間据置き」「利子は極めて低い」といった条件に加え、融資審査がゆるく、中小企業でも最大で1億6,000万円まで融資が受けられるという、通常時では考えられないものでした。これを利用し、助かった会社も多いはずです。
しかし、この特別融資枠には「半年から1年後にはコロナ禍が収束に向かい、今までどおりの経済活動が戻る」という、そもそもの前提がありました。ところが、それから2年以上もの歳月が過ぎた現在でも社会が正常化したとはいえず、今なお苦しんでいる経営者も多いはず。そこへきて、据え置かれていたコロナ融資の返済が始まってきています。
熱が出て頭が痛いときには解熱剤を飲めば、一時的に楽になります。しかし、熱や頭痛が治っても、それらを引き起こしているウイルスなどの原因が解消されない限り、再び体調が悪化する可能性があります。それでも人間の体には自己免疫が備わっているため自然治癒もしますが、残念ながら会社の場合そうはいきません。特別融資を受けて資金を注入すれば当面の不安は減りますが、根本的な経営の問題が解消されることはないのです。なかには、一時的に痛みが和らいだことに安心した経営者が根本的な経営改善に取り組むことを怠ってしまったために、状況がさらに悪化してしまったケースも見受けられます。
その一方で、コロナ関連の優遇措置を活用しながら経営を立て直し、逆に成長を加速させている会社もあります。衰退する会社と成長する会社の明暗を分けた要素として、特にコロナ関連の優遇措置の使い方が大きいのではないかと私は考えています。
調達した資金は適切に投資を
では、コロナ禍でも成長している会社には、どんな特徴があるのか。大きな傾向としては、資金的にそこまで困っていなくても利用できる優遇措置をうまく使い、調達した資金を使って新規出店や設備投資、システムの構築といった投資を積極的に行うことで、より収益を上げる体制の強化に努めていることが分かります。
キャッシュフローの基本は「最大限に資金を調達し、最適に投資すること」です。言い換えれば、投入した資金以上の利益を得るために、適切な投資を行っていくこと。衰退する会社は調達した資金を「現状維持」のために消費しますが、成長する会社は新たな事業の構築のために投資をするのです。
「(資金)調達」と「運用(投資)」、この両輪が回り続けることで会社は成長していきます。つまり、優れた経営者は資金調達が上手いと同時に、資金の使い方に長けているといえるでしょう。具体的に言うと、そうした経営者は「無駄な浪費を避け、会社が肥大しないように気を配りながら、最も投資効率の高いものに資金を投入する」ことができています。今回のコロナ禍のように先行きが不透明な状況においても無駄なもの、不採算なものを削り、必要なもの、将来性のあるものに投資をすることで急場を凌ぐだけでなく、その先の成長をも見据えているのです。
「投資」というと株式や不動産などが思い浮かぶかもしれませんが、人材の採用や教育、労働環境の整備、ブランディングや社内体制の見直しなど、企業価値を高めるために時間や資金を投入することも、広い意味では「投資」です。
自分の会社を良くするための投資は、積極的に行ってください。そして、そのために必要な資金調達の手段として、コロナ関連の優遇措置をはじめ使えるものは積極的に活用するといいでしょう。
■プロフィール
穂坂光紀
1981年、神奈川県小田原市出身。中小企業の財務支援に特化した税理士事務所、エンパワージャパンの代表税理士。「中小企業こそ日本を支える礎である」という理念から、持続可能な社会と企業を創るための「中小企業のための財政支援プログラム」を実施。強固な財務力を持つ優良企業に導く。共著に『七人のサムライ』がある。
■スタッフクレジット
文:穂坂光紀 編集:榎並紀行(やじろべえ)、服部桃子(株式会社CINRA)
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