日本の会社の約99%は中小零細企業。古くから日本の経済、雇用、暮らしを支えてきました。しかし、大企業に比べて環境の変化による影響を受けやすく、企業生存率はかなり低いのが実情です。
企業が倒産する最たる理由は、「どこからも資金が調達できなくなって、支払が不能になったとき」です。逆にいえば、お金が尽きない状態をつくれるようになれば、50年、100年と事業を継続することができるわけです。
お金が尽きないようにするために不可欠なのが、キャッシュフローの原理原則や基礎知識。当連載では、中小企業の財務支援に特化した税理士事務所、エンパワージャパン代表を務めます穂坂光紀がキャッシュフローのポイントや実践的な方法を紹介していきます。
第2回は、そもそもキャッシュフローとは何なのか、事業を継続していくために、なぜそれが必要なのかについてお伝えしたいと思います。
キャッシュフローを小難しく考える必要はない
インターネットで「キャッシュフロー経営」「財務戦略」などと検索すると、膨大な数の情報がヒットします。関連する書籍だけでも数えきれないほど出版されていて、MBA(経営学修士)ホルダーや財務コンサルタントなどの「専門家」が難解な専門用語と統計を駆使した解説が溢れている。私でさえ、その内容を聞くたびに、思考回路が停止してしまいます。
ハッキリと断言します。簡単な言葉で表現できないキャッシュフローや財務は、何の役に立ちません。経営者は学問の専門家ではないので、難しい用語を覚えても意味はありません。財務において大切なことはただ一つ。会社を存続させるために、キャッシュフローを理解することだけです。みなさんも、難しく考える必要はありません。
穂坂光紀氏
大企業が存続し、中小零細企業が潰れる理由
企業が潰れる理由は一つしかありません。「どこからも資金が調達できなくなって、支払が不能になったとき」です。この当たり前の原理原則は、言い換えると「資金が調達できる限り会社は潰れることがない」ということを意味しています。
この20年間で、中小零細企業の数は約100万社も減少しました。対して、上場企業・大企業の数は減少どころか増加しています。なぜ、上場企業や大企業は安泰で、中小零細企業ばかりが潰れるのでしょうか。答えは簡単です。それは「上場企業や大企業は、資金を調達する方法が無限にあるから」なのです。そもそも「上場」は株式を一般公開して資本を集めることが目的です。上場企業や大企業は業績不振で資金が尽きそうになると、他の企業や投資家が買収という形で資本を投入するため、株主は変わっても企業は存続します。一方、中小零細企業は資金を調達する方法が限られているため、資金が尽きたらゲームオーバー。それだけの違いが、大きく明暗を分けてしまうわけです。
商品やサービスが優れていれば会社は安泰だと思っている経営者もいますが、「黒字倒産」という言葉があるように、業績が良くても会社は潰れます。逆に赤字続きでも潰れない会社もあります。つまり業績の良し悪しは、事業存続が困難になる「原因」にはなっても、「理由」にはならないということです。
お金の入口と出口をバランスよく拡げて行くことが大事
「お金が尽きないようにすること」。それこそがキャッシュフローの原則です。
では、どうすればお金が尽きない状態をつくれるのでしょうか。200年以上前に世界初の協同組合の概念をつくり、600ヶ所を超える農村を復興させたといわれる二宮尊徳翁が素晴らしい教訓を遺してくれています。「報徳仕法」と呼ばれたその方法の軸である「分度」とは、簡単にいえば「お金の入り(入金)と出(出金)」を正確に把握して、「入ってくるお金の範囲内でお金を使う」ことを徹底するというものです。
当たり前ですが10,000円の入金に対して8,000円のお金を使えば2,000円のお金が残ります。10,000円の入金に対して15,000円のお金を使えば5,000円のお金が減ります。増えたり減ったりするお金のことを「フロー(流れ)」といい、残っているお金を「ストック(保有)」といいます。ストックが尽きたらゲームオーバーなので、尽きないようにフローをコントロールするのがキャッシュフローです。
お金の流れには入口と出口があります。入ってくるお金(入金)が入口であり、出ていくお金(出金)が出口です。入口が狭いのに出口が大きければ、あっという間にお金は尽きてしまいます。逆に、入口が大きいのに出口が狭すぎると容量オーバーで内部崩壊します。つまり、入口と出口のバランスを保ちつつ、両方を拡げていくことで企業は発展していくのです。
中小零細企業の経営者にこそ伝えたい「論語と算盤」の精神
お金の入口のことを「資金調達」、お金の出口を「資金運用」と呼びます。健全な資金調達が常に行われ、適切な資金運用がなされている限り、企業が潰れることはありません。潰れる企業の共通点は、資金調達が不能になったか資金運用に失敗したかのいずれかしかないのです。
繰り返しになりますが、上場企業や大企業は資金調達の方法が多いので潰れにくく、中小零細企業は資金調達の方法が限られているので潰れやすい。まずは、この事実を理解してください。そして、資金調達の方法が限られている中小零細企業だからこそ、事業存続のためにはキャッシュフローを正しく理解し経営していくことが必要なのだと認識していただければと思います。
近代日本経済の父と呼ばれる渋沢栄一翁は「論語と算盤」「道徳経済合一説」などでこのように伝えています。地域の人たちのため、社会のため、社員のため、未来の子どもたちのための、しっかりとした基盤をつくるには、キャッシュフローに基づいた力強い財務体質を持つことが不可欠であると。
地域に必要とされる中小零細企業こそ「論語と算盤」の精神をもって、50年後も100年後も変わらず存続していだきたい。私はそう思います。
■プロフィール
穂坂光紀
1981年、神奈川県小田原市出身。中小企業の財務支援に特化した税理士事務所、エンパワージャパンの代表税理士。「中小企業こそ日本を支える礎である」という理念から、持続可能な社会と企業を創るための「中小企業のための財政支援プログラム」を実施。強固な財務力を持つ優良企業に導く。共著に『七人のサムライ』がある。
■スタッフクレジット
文:穂坂光紀 プロフィール写真撮影:丹野雄二 編集:榎並紀行(やじろべえ)、服部桃子(株式会社CINRA)
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