企業が倒産する最たる理由は、「どこからも資金が調達できなくなって、支払が不能になった」から。逆にいえば、お金が尽きない状態をつくれるようになれば、50年、100年と事業を継続することができるわけです。
お金が尽きないようにするために不可欠なのが、キャッシュフローの原理原則や基礎知識。当連載では、「中小企業こそ日本を支える礎である」という理念を持ち、中小企業の財務支援に特化した税理士事務所、エンパワージャパン代表を務めます穂坂光紀がキャッシュフローのポイントや実践的な方法を紹介していきます。
今回のテーマは、コロナ禍など経済に大きな影響を与える出来事を乗り越えるための、キャッシュフローの考え方。自助ではどうにもならない外的要因に対し、普段から備えておくことの大切さについて解説します。
穂坂光紀氏
コロナ禍を乗り越えるためのキャッシュフロー
新型コロナウイルスの発生から2年半以上が経過しました。「ウィズコロナ」や「アフターコロナ」などの言葉も生まれ、コロナと共存しながら新しい生活様式やビジネスを展開していく方向に舵が切られています。
みなさんの会社は、このコロナ禍でどんな影響を受けているでしょうか。直接的な打撃を受けた会社、間接的に影響を受けている会社、あまり影響のない会社、逆にコロナ禍によって業績を上げている会社。受け止め方は様々だと思います。今回はコロナ禍を乗り切り、乗り越えるためのキャッシュフローについてお話をしたいと思います。
大きな経済のうねりは約10年ごとにやってくる
経営の本質は「継続すること」つまり会社を存続させていくことです。しかしながら、自らの努力だけではどうにもならない「外的要因」として、経済環境の変化というものが定期的に起こります。過去には2011年の東日本大震災、2008年のリーマンショック、1991年のバブル崩壊、1989年の消費税導入、1985年のプラザ合意、1973年のオイルショック等々、いずれもあらゆる業界に影響を与えるほどのインパクトがある出来事が、およそ10年内の周期で起こりました。その度に経営者は頭を悩ませ、もがきながら突破口を見出す努力をし、そして乗り越えた会社が創業50年、100年という歴史を紡いできたわけです。
そして、今またコロナ禍や世界情勢が、日本のみならず世界の経済に影響を及ぼしています。経営者が知っておくべきなのは、こうした経済環境の変化は「定期的に必ずやってくる」という事実を認識することです。だとすれば、コロナ禍が収束したとしても、また次の経済にインパクトを与える出来事が数年後にやってくるということを念頭に、備えをしておかなければいけません。
経済活動は拡大と後退を常に繰り返す
経済学で最初に教わるのは「経済というのは“需要”と“供給”が常にバランスを取り合おうとして、時には“需要”の方が大きくなったり、逆に“供給”の方が大きくなったりする。これを繰り返すなかで、相互が利益を最大化するための競争の場である」ということです。この考え方が本当に正しいかどうかは別として、経済が拡大と後退を常に繰り返す性質を持っていることは事実です。
そのため経営者は、この経済の大きな流れを読み、流れにうまく乗りつつ、そして潮目が変わった時に対応できる状況を作っておくことが求められます。特に今回のコロナ禍のような「経済の津波」ともいえるほどの大きなうねりが来た時にこそ、キャッシュフローの真価が問われることになります。
経済の津波に対処する基本原則
津波が来た時に、最初に被害を受ける場所はどこでしょうか。答えは簡単で、「より海に近く、海抜が低いところ」です。ここから順次飲み込まれていき、ある一定のところで止まります。もし、津波が来ることがあらかじめ分かっているなら、少しでも海から離れた高台のところに家を建てるはずです。
経済の津波に関しても同じことがいえます。最初に壊滅されるのは「キャッシュが少なく(海から近く)、財務状態が弱い(海抜が低い)会社」です。逆に、キャッシュが潤沢にある会社はそう簡単には潰れませんし、いざという時に資金調達できる手段を持っている会社は、苦難を乗り切るまでの時間をかせぐことができます。いつの時代も大きな経済の津波への対処方法は「海に近づくな、高台へ逃げろ」が基本原則となります。
しかしながら、実際に津波が襲ってきてから高台に住む家を探しても手遅れです。「津波はいつか来るもの」という前提に立って、前もって自分の会社の「資金量は十分か」「追加の資金調達はできそうか」などを把握しておきましょう。その上で、多少でも資金量に不安を感じるようであれば「お金を借りられるときに限度額いっぱいまで借りて、少しでも海から遠ざかる」ことが、コロナ禍のような不安定な時代を乗り切るための財務の基本戦略になります。逆に、ギリギリまで自己資金で頑張って、足りなくなってから少しずつ銀行からの借入を繰り返すことは、兵力の逐次投入のように徐々に消耗していき、あっという間に枯渇します。
残念ですが銀行の仕事は「困っている人にお金を貸すこと」ではありません。
「お金を貸しても良いと判断した人にお金を貸すこと」が仕事なのです。本当に困った時に協力してくれる銀行は、日頃から良好な関係性を構築している場合に限られます。それでも短期間で二度も三度も借入を申し込んだら、さすがに銀行側も態度を硬化させていきます。だからこそ、お互いに良好な関係にあるときに貸してもらえるだけ借りておき、約束どおり返済を続けながら借入限度額の上限を引き上げておくこと。そうやって、自分の会社を高台へ移動させていくことが重要なのです。「転ばぬ先の杖」という言葉は、幾度の苦難を乗り越えてきた先人たちの知恵であるということを、私たちは肝に銘じる必要があると思います。
次回も引き続き、コロナ禍を乗り切るためのキャッシュフローについて、もう少し掘り下げて解説していきます。
■プロフィール
穂坂光紀
1981年、神奈川県小田原市出身。中小企業の財務支援に特化した税理士事務所、エンパワージャパンの代表税理士。「中小企業こそ日本を支える礎である」という理念から、持続可能な社会と企業を創るための「中小企業のための財政支援プログラム」を実施。強固な財務力を持つ優良企業に導く。共著に『七人のサムライ』がある。
■スタッフクレジット
文:穂坂光紀 編集:榎並紀行(やじろべえ)、服部桃子(株式会社CINRA)
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