企業が倒産する最たる理由は、「どこからも資金が調達できなくなって、支払が不能になった」から。逆にいえば、お金が尽きない状態をつくれるようになれば、50年、100年と事業を継続することができるわけです。
お金が尽きないようにするために不可欠なのが、キャッシュフローの原理原則や基礎知識。当連載では、「中小企業こそ日本を支える礎である」という理念を持ち、中小企業の財務支援に特化した税理士事務所、エンパワージャパン代表を務めます穂坂光紀がキャッシュフローのポイントや実践的な方法を紹介していきます。
今回のテーマは会社経営においてビジネス・カードなどの「法人向けクレジットカード」を活用するメリットについて。経費の支払いなどをクレジットカードで行なうことで、キャッシュフローや経理事務にどのような利点があるのか、具体的に解説します。
穂坂光紀氏
「法人向けクレジットカード」を活用する3つのメリット
皆さんは、クレジットカードを持ったり、使ったりすることについてどのような印象を持っているでしょうか? 使い過ぎ注意とか、返済が不安とか、そのようなイメージもあるかもしれません。たしかにどんなものでも正常な範囲を超えて利用すれば危険性が伴うことはあります。
しかし、一般消費者がクレジットカードを活用することと、事業者が事業として法人向けクレジットカードを利用することとは意味合いが大きく異なります。特に、法人口座を引き落とし先に設定できるビジネス・カードなどの法人向けクレジットカードは経理処理の手間が軽減するなど、大きな利点があるのです。
ここでは法人向けクレジットカードを活用することが会社経営に与える3つのメリットについて解説していきます。
メリット①「金融機関の信用度が高まる」
事業者にとって法人向けクレジットカードを活用する一番のメリットは「金融機関の印象が良くなる」ことです。クレジットカードをたくさん持っていたり、頻繁に利用していたりすると金融機関から悪い印象を持たれるのではないかと思う方もいますが、実際はまったく逆です。クレジットカードを持てるということは、その時点でクレジット会社の与信審査(本人確認や過去の取引履歴)で問題がないと判断されている証拠でもあり、日常的に利用が出来ているということは、支払期限に利用額の支払を滞りなく行なっていることの裏返しでもあります。
金融機関が最も好む相手は、「約束を守る人」であり、返済期日にきっちりと返済をしてくれる人です。そのような方であれば、安心してお金を貸せると金融機関は判断します。また、クレジットカードの支払いは必ず銀行口座を利用することになるので、その意味でも金融機関はクレジットカードを積極的に利用してくれている方が望ましいのです。
「いつでもニコニコ現金払い」は信用されない?
なかには、現金での直接取引しか信用しないという経営者もいます。しかし、じつは金融機関は、現金をあまり信用していません。売上代金や支払代金を現金の手渡しだけでやり取りしていると「なぜ銀行口座やクレジットカードを使わないのか」「銀行口座やクレジットカードを使えない理由が何かあるのではないか」という見方をする銀行担当者もいます。銀行口座やクレジットカードを積極的に利用し、金融機関への印象を上げておくことは、いざというときに協力してもらえる体制をつくっておくことでもあるのです。
メリット②「キャッシュフローが改善する」
キャッシュフローを改善するための基本原則は「できるだけ早くお金を回収し、支払を可能な限り先延ばしにする」ことです。先延ばしにするというと聞こえは悪いですが、法律や契約で認められた範囲で支払をコントロールすることは非常に重要です。事業用の決済にクレジットカードを利用すると、現金で決済した場合と比べて実際の支払日が1、2か月ほど先延ばしされます。例えば、毎月数百万円の経費をクレジットカード払いに変更したとしましょう。すると、当月に必ず支払いを行う現金払いに比べ、翌月に先延ばしになることで、常に会社に資金が残る状態をつくることができるわけです。
もちろん、クレジットカードを利用するとポイントが貯まるメリットもあります。しかし、経営においてはそれ以上に「支払いの期日が延びること」のほうが大きな利点です。事業者はぜひ、キャッシュフローを改善させるという視点で、法人向けクレジットカードを有効に使うことを検討してみてください。
メリット③「事務処理の負担が軽減する」
会社の経理にとって、社員一人ひとりの経費精算は悩みの種でもあります。特に現金による立替精算は、「精算表を作成」→「領収書と照合」→「集計して金額に誤りがないかチェック」→「本人に精算額を渡す」といった煩雑な作業が発生してしまいますし、領収書1つひとつを確認して伝票を作成するなど膨大な手間と時間がかかります。
そこで経費精算のプロセスにクレジットカードを活用することで「誰が利用したのか」「いつ利用したのか」の履歴が残り、かつ支払は銀行口座から直接引き落とされるので社員一人ひとりに個別に精算する必要がなくなります。さらに、クレジットカードの利用履歴をそのまま会計ソフトにデータで取り込むことができ、伝票作成や会計入力などの時間も短縮されます。つまりは、決算書の準備や確定申告準備の作業も軽減されます。結果的に経理事務の負担は大幅に削減され、事務コストの改善にもつながるため、会社の利益にも貢献することとなります。
以上のような点からも、会社が事業決済に法人向けクレジットカードを活用することには大きなメリットがあります。先入観や固定観念に囚われることなく、会社の資金繰り改善や金融機関との関係性向上のためにも、積極的に法人向けのクレジットカードを活用することをおすすめします。
■プロフィール
穂坂光紀
1981年、神奈川県小田原市出身。中小企業の財務支援に特化した税理士事務所、エンパワージャパンの代表税理士。「中小企業こそ日本を支える礎である」という理念から、持続可能な社会と企業を創るための「中小企業のための財政支援プログラム」を実施。強固な財務力を持つ優良企業に導く。共著に『七人のサムライ』がある。
■スタッフクレジット
文:穂坂光紀 編集:榎並紀行(やじろべえ)、服部桃子(株式会社CINRA)
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