企業が倒産する最たる理由は、「どこからも資金が調達できなくなって、支払が不能になった」から。逆にいえば、お金が尽きない状態をつくれるようになれば、50年、100年と事業を継続することができるわけです。
お金が尽きないようにするために不可欠なのが、キャッシュフローの原理原則や基礎知識。当連載では、「中小企業こそ日本を支える礎である」という理念を持ち、中小企業の財務支援に特化した税理士事務所、エンパワージャパン代表を務めます穂坂光紀がキャッシュフローのポイントや実践的な方法を紹介していきます。
キャッシュフローの最大の目的は、資金が尽きて会社が潰れないようにすること。そのために「収入」と「支出」を把握、コントロールすることです。そして、その際に重要なのが「収入の最大化」と「支出の最適化」。今回は、キャッシュフローの原理原則ともいえる、この2つのポイントについて解説したいと思います。
穂坂光紀氏
キャッシュフローの最大の目的は「資金を枯渇させないこと」
資金は支出以上に収入があれば増加し、逆に支出よりも収入が少なければ減少します。キャッシュフローの最大の目的は、この資金の減少を抑えて尽きないようにすることです。
資金を減少させない方法は「収入を増やすこと」と「支出を減らすこと」の2つしかありません。当たり前のことのように思われますが、経営においてはこれらをしっかりと丁寧に把握・コントロールしておかないと、資金繰りに苦しむことになってしまう可能性が高まります。
そこで、「収入の最大化」と「支出の最適化」に分けて、それぞれ解説していきます。
キャッシュフロー基本原則①「収入を最大化する」
まずは収入からです。「収入を増やす」というと、今以上に売上を伸ばすことを考えがちですが、キャッシュフローにおいて重要なのは「収益(売上)」ではなく「収入(入金)」であるということを意識するようにしてください。
特に中小企業が疎かにしてしまいがちなのが「売掛金」で、キャッシュフローの悪化を招く主な要因の1つです。売掛金とは、売上に対して“まだお金が入金されていない状態”を差し、専門用語でいえば「売上債権(お金を受け取る権利)」という資産を持っていることになります。ここで問題なのは「(売上は)入金されない限り役に立たない」ということです。
例えば、会社の決算書に1,000万円の売掛金があるとしましょう。この場合の1000万円は「収益」として課税対象になります。しかし、実際には未入金であるため、手元にその分のお金がない状態ということになり、納税のためのお金を別で用意しなければならなくなってしまいます。
一般的に売上規模が大きくなればなるほど、それに比例して売掛金の残高も増えていきます。その度に損益計算上は収益が増える一方で、キャッシュフロー上は未入金状態が増えていき、資金繰りを圧迫してしまうのです。また、売掛金が増えれば増えるほど、回収ができずに不良債権化するリスクも高まり、それが更に資金繰りを悪くする要因になります。収入を最大化するためには「いかに早く売上代金を回収するか」を心掛けることが大切です。
収入を最大化するうえで、もう一つ重要なのは「資金調達量を増やす」こと。簡単にいえば、銀行借入を増やすということです。銀行借入は専門用語で「財務収支」と呼ばれ、収益として認識されない収入であるため、キャッシュフローとしては最も重要な要素です。安定的に資金調達ができる体制を整えておくことは収入を最大化し、会社を存続させるために不可欠であるといえます。
キャッシュフロー基本原則②「支出を最適化する」
続いて支出です。支出を減らすというと、すぐに「経費削減」となってしまいがちですが、過剰に経費削減をおこなうと逆に売上が減少して経営悪化を招くことがあります。会社を成長させるには「お金を使うこと」も必要であるため、支出は最小化するよりも「最適化」していくことが大切です。
売掛金と同様に支出の場合も「買掛金」や「未払金」「未払費用」のように費用として認識されながら、代金の支払いが完了していないものが存在します。専門用語でいうと「負債(支払いをする義務)」を抱えているという状態です。この場合、売掛金とは正反対に、費用になっているにも関わらず、その時点で資金は出金されていません。そのため、あくまでキャッシュフロー上は負債が増えれば増えるほど資金繰りが改善されるという傾向があります。もちろん、支払期限が来ているのに支払わないのは(当たり前ですが)NGです。しかし、支払い先などに迷惑をかけずに、可能な限り支払い期限を遅くする方法はあります。例えば、企業が経費の支払いにビジネス向けのクレジットカードである、ビジネス・カードやコーポレート・カードを活用するのも、支払期日を延ばすことで資金繰りを改善する効果があるためです。
もう一つ、支出の最適化において重要なのが「借入金の返済」です。借入金の返済は費用にならないにも関わらず、手元から資金が流出するため資金繰りの最大の圧迫要因となります。もちろん、借りたお金を返すのは当たり前ですが、キャッシュフローを理解している会社は資金が枯渇しないように、「借入返済した金額と同額以上の新規借り入れ」を同時に行うことで実質的に資金流出を防ぐ方法を常に行っています。例えば、年間300万円ずつ元本返済をしているのであれば3年間で900万円の元本返済があるので、3年後に1,200万円の追加調達をおこなって手元資金を300万円純増させるといった具体です。
これまでにも何度か述べてきましたが、大切なことは「借金をしないこと」ではありません。会社を存続させるために資金を枯渇させないことが最も重要であり、そのために収入を最大化し、支出を最適化するための手段がキャッシュフローです。時代の変化の流れが速い現代において会社を存続させ、成長していくためには「何となく」ではなく、キャッシュフローに対する正しい理解をもって、出来ることから整えていくことが必要です。
■プロフィール
穂坂光紀
1981年、神奈川県小田原市出身。中小企業の財務支援に特化した税理士事務所、エンパワージャパンの代表税理士。「中小企業こそ日本を支える礎である」という理念から、持続可能な社会と企業を創るための「中小企業のための財政支援プログラム」を実施。強固な財務力を持つ優良企業に導く。共著に『七人のサムライ』がある。
■スタッフクレジット
文:穂坂光紀 編集:榎並紀行(やじろべえ)、服部桃子(株式会社CINRA)
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