企業が倒産する最たる理由は、「どこからも資金が調達できなくなって、支払が不能になった」から。逆にいえば、お金が尽きない状態をつくれるようになれば、50年、100年と事業を継続することができるわけです。
お金が尽きないようにするために不可欠なのが、キャッシュフローの原理原則や基礎知識。当連載では、「中小企業こそ日本を支える礎である」という理念を持ち、中小企業の財務支援に特化した税理士事務所、エンパワージャパン代表を務めます穂坂光紀がキャッシュフローのポイントや実践的な方法を紹介していきます。
今回は、多くの中小企業経営者が混同しがちな「損益(利益計算)」と「収支(キャッシュフロー)」の違いについて、掘り下げて解説したいと思います。
穂坂光紀氏
「損益」とは正しい方向に向かっているかを測るコンパスのようなもの
「損益(利益計算)」と「収支(キャッシュフロー)」。この2つは似ていますが、意味合いはまったく異なります。そして、これを正しく理解できていないと経営判断を誤ってしまうこともあるのです。
まず、「損益」は「損益計算書」といわれるように、事業年度(一般的には1年間)における経営成績を把握するための指標のこと。なお、簿記とか会計などは適正な損益(儲かっているのかどうか)を計算するためのツールです。損益がプラスであれば「黒字」、マイナスであれば「赤字」という具合に、今年の経営成績をわかりやすく把握でき、経営者にとっては馴染みやすいものだと思います。
ただし、経営成績が「黒字」または「赤字」であることと、会社が存続できるかどうかは全く別物です。損益が赤字だからといって、ただちに会社が潰れるわけではありませんし、黒字だからといって絶対に潰れないという保証もないわけです。もし、赤字会社が全て潰れてしまうとしたら、毎年70%以上が赤字決算といわれる日本の中小零細企業はほぼ壊滅してしまうでしょう。もちろん、ずっと赤字経営を続けていればいずれは存続できなくなる可能性が高まりますが、あくまでもそれは間接的な理由ということです。
会社経営を航海に例えるのであれば、「損益」はコンパスのようなもの。つまり、自分たちが目指す目的地へ正しく向かっているのかを確認するための指標といえます。損益が赤字ということは、日頃の営業活動のどこかが正常に機能しておらず、方向修正が必要だということです。逆に損益が黒字であれば、方向性は概ね間違っていないという確認ができますし、どの程度黒字が出ているのかによって「目的地まで、あとどれくらいで到達するのか」といった予測も立てられるようになります。これが「損益」を把握する意味合いです。繰り返しになりますが、あくまでも方向性を示すためのものであり、「このまま航海を続けられるのか」という根本的な問題とは別物です。
「キャッシュフロー」は、船でいう動力のようなもの
次に、「キャッシュフロー(収支)」についてですが、こちらは「収入(お金が入ってくること)」と「支出(お金が出ていくこと)」を把握し、会社が正常に機能するかどうかを測るためのツールです。当たり前ですが、お金が無ければ使うこともできません。つまり、支出を上回る収入がなければ会社の資金は減少していき、資金が尽きると会社は潰れます。会社を存続させるためには資金が底を尽かないように、収入と支出をコントロールすることが不可欠です。
航海で例えるならキャッシュフローは動力(エンジン)にあたります。船を推進させるには燃料が必要です。動力が大きくなるほど推進力は高まりますが、そのぶん大量の燃料を必要とします。また、燃料が尽きると船はストップして海を漂流することになるため、常に燃料の残量をチェックしながら航海を続けていく必要があります。
では、会社における燃料はなんでしょうか? そう、お金です。会社を推進するためにはお金を使わなければいけないわけです。そして、支出を続けても資金が尽きないようにするためには、収入によって資金を補充する必要があります。支出を増やしつつ、それを上回る収入を確保し続けることで会社は存続し、成長していきます。それを把握することがキャッシュフローの意味合いであり、会社経営にとって非常に重要な指標だということです。
「収益と収入」「費用と支出」は同じではない
損益とキャッシュフローの意味合いを理解できたら、次は具体的な違いについて知る必要があります。例えば10万円の商品を販売し、翌月に代金を受け取る場合、損益計算上は商品を売った時点で「10万円の収益」として認識されます。しかし、キャッシュフロー上ではお金がまだ入ってきていないので「収入」として認識されず、翌月になって入金がされた時点で「10万円の収入」と認識することになります。このように「収益」と「収入」では認識のタイミングにズレが生じるのです。
また、銀行から1,000万円を借りた場合、損益計算上ではお金を借りただけなので収益として認識しませんが、キャッシュフロー上は実際にお金が増えているので「1,000万円の収入」と認識します。このように、損益にはならないが収入にはなるものもあります。この違いをしっかり理解しておかないと、黒字にもかかわらずお金がないといった事態を招いてしまうわけです。
「費用と支出」に関しても同じです。毎月銀行へ30万円の元本返済がある場合、損益計算上では、借りたお金を返しているだけなので「費用」として認識しませんが、実際にお金が出て行ってしまっているので、キャッシュフロー上は「30万円の支出」として認識します。まずは、このことをしっかりと覚えておきましょう。
次回はキャッシュフローについて、もう少し専門的なお話をしたいと思います。
■プロフィール
穂坂光紀
1981年、神奈川県小田原市出身。中小企業の財務支援に特化した税理士事務所、エンパワージャパンの代表税理士。「中小企業こそ日本を支える礎である」という理念から、持続可能な社会と企業を創るための「中小企業のための財政支援プログラム」を実施。強固な財務力を持つ優良企業に導く。共著に『七人のサムライ』がある。
■スタッフクレジット
文:穂坂光紀 編集:榎並紀行(やじろべえ)、服部桃子(株式会社CINRA)
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