企業が倒産する最たる理由は、「どこからも資金が調達できなくなって、支払が不能になった」から。逆にいえば、お金が尽きない状態をつくれるようになれば、50年、100年と事業を継続することができるわけです。
お金が尽きないようにするために不可欠なのが、キャッシュフローの原理原則や基礎知識。当連載では、「中小企業こそ日本を支える礎である」という理念を持ち、中小企業の財務支援に特化した税理士事務所、エンパワージャパン代表を務めます穂坂光紀がキャッシュフローのポイントや実践的な方法を紹介していきます。
今回は、事業活動の要でもある「お金の使い方」について。経営者が意識したい「投資」「消費」「浪費」の違いを解説したいと思います。
穂坂光紀氏
お金の使い方は「投資」「消費」「浪費」の3種類
お金というのは、持っているだけでは何も意味がありません。仮に銀行口座に1億円の残高があっても、引き出して利用することができないのであれば無いのと同じです。お金を資産の購入、人件費などの支払いに利用して初めて、その価値が生きるのです。つまり、お金は得るときよりも、使うときに本領が発揮されます。事業活動においても、「何にお金を使うか」を意識することは非常に重要なポイントです。
事業活動において、お金は何に使われるかによって大きく「投資」「消費」「浪費」の3つに分けることができます。
「投資」…投入したお金が将来にわたって元手以上になって返ってくるもの
「消費」…事業活動を維持するためにどうしても必要になるもの
「浪費」…投入したお金が戻ってこない、または目減りするようなもの
財務の観点からみれば、お金の使い方は「投資」「消費」「浪費」の3パターンしかありえません。事業活動とは、調達してきた資金を「投資」したり、「消費」したり、「浪費」したりしながら1年間に「元手を上回る運用成果(利益)」を出せたのかということなのです。
筋トレを例に考えてみましょう。「投資」は、エネルギーを使って筋肉に負荷を与えて筋肉量をいま以上に増やすことです。「消費」は基礎代謝のようなもので、日常生活を維持するだけでもエネルギーが必要になります。体が大きければ大きいほど維持するために多くのエネルギーが消費されてしまいます。「浪費」は暴飲暴食により不必要なカロリーを摂取したり、怠惰な生活をおくることで筋肉量が低下したりするようなもので、肥満の原因になります。
当たり前ですが、理想的な身体を目指すのであれば、適切な栄養とエネルギーを摂取(調達)し、適度な筋力トレーニングを行い(投資を増やす)、暴飲暴食を控えて怠惰な生活を見直すこと(浪費をなくす)です。このバランスが大きく崩れてしまえば病気のリスクが高まるのと同じように、会社の場合も規模を不必要に大きくしすぎると維持費が増大して、成長に必要な投資に資金が回らなくことがよくあります。「投資を最大化」し、「消費を最適化」し、「浪費を最小化」することが資産運用の大原則となるわけです。
お金に限らず、時間や人間関係などの「非貨幣性資産」についてもまったく同じことがいえます。自分や会社の将来にとってプラスになるものに多くの時間を使い、必要以上に活動領域や交友を拡げ過ぎず、弊害となるような活動や人間関係は減らしていくことで、事業の発展や成長が加速していきます。「何に」お金や時間を使うかで、人生の質も事業の質も変わっていくのです。
「投資のような浪費」と「浪費のような投資」に注意
「投資を最大化」し、「消費を最適化」し、「浪費を最小化」する。頭では分かっていても実際に会社を経営していく中で、どれが投資でどれが浪費なのかを見分けることは簡単ではありません。というよりも、それがわかるようであれば誰も苦労しません。多くの経営者は、実際の経験の中で失敗や試行錯誤を繰り返しながら取捨選択ができるようになっていくのです。
よく経営者が陥りやすい例として、会社の無駄をなくすために経費削減を打ち出して電気代やコピー用紙を節約したり、恒例だったイベントなどを廃止してみたりすることがあります。しかし、それによってたしかに毎月の経費は削減されたものの、社員のモチベーションが落ちてしまい、売上減少や社員が離職することも考えられます。このように、浪費だと思ったものがじつは投資だったケースや、逆に、社長が「これは会社にとって必要だ!」と意気込んで行なったことが社内での不調和を生んでしまうなど、結果的に浪費だったということもよくあります。
会社経営のなかでは「やってみなければわからないこと」もたくさんあります。だからこそ、色々とチャレンジすることが大切になるわけですが、そんななかでも「いまやっていることは、未来への投資につながっているのか?」という視点を常に持って日々行動することが大事です。これを心がけることで少しずつですが、適切な意思決定と投資ができるようになってきます。ぜひ、みなさんの未来のためにお金と時間を投資してください。
■プロフィール
穂坂光紀
1981年、神奈川県小田原市出身。中小企業の財務支援に特化した税理士事務所、エンパワージャパンの代表税理士。「中小企業こそ日本を支える礎である」という理念から、持続可能な社会と企業を創るための「中小企業のための財政支援プログラム」を実施。強固な財務力を持つ優良企業に導く。共著に『七人のサムライ』がある。
■スタッフクレジット
文:穂坂光紀 編集:榎並紀行(やじろべえ)、服部桃子(株式会社CINRA)
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