企業が倒産する最たる理由は、「どこからも資金が調達できなくなって、支払が不能になった」から。逆にいえば、お金が尽きない状態をつくれるようになれば、50年、100年と事業を継続することができるわけです。
お金が尽きないようにするために不可欠なのが、キャッシュフローの原理原則や基礎知識。当連載では、「中小企業こそ日本を支える礎である」という理念を持ち、中小企業の財務支援に特化した税理士事務所、エンパワージャパン代表を務めます穂坂光紀がキャッシュフローのポイントや実践的な方法を紹介していきます。
前回は「お金」について、財務的な観点から解説をしました。今回は、そのお金と関係性が深い「資産運用」について、少し深く掘り下げて解説したいと思います。
穂坂光紀氏
「資産運用」について考える
「資産運用」と聞くと、株や投資信託、不動産投資、FX、暗号通貨など手元資金を金融商品や不動産に変えて、今以上にお金を増やしていくといったイメージを思い浮かべる方がほとんどだと思います。いわゆる「不労所得」と呼ばれる、お金を使ってお金を増やすマネーゲームが資産運用であり、経済的に余裕のある人がやるものと思っている方もいるかもしれません。しかし、本当の資産運用とはもっと広範囲であり、決してマネーゲームだけではありません。そして、会社経営者だけでなく、すべての人にとって大切なものです。ぜひ、柔軟な考え方をもって資産運用について考えてみましょう。
資産とは、価値を生み出すもののこと
「資産運用=お金の運用」と思い込んでしまうと視野がとても狭くなってしまいます。確かにお金(現金および現金同等物)は、資産の1つであることは間違いありません。会計上でも現金預金は「流動資産」という項目で最初に記載される重要な資産です。
しかし、本来の意味としての資産とは「価値を生み出すもの」のこと。現在から未来へかけて新たな価値を生み出していくものは、全て資産と呼ぶべきものです。
資産には「貨幣性資産」と「非貨幣性資産」の二種類が存在します。「貨幣性資産」とは、お金で測定することができるもの。決算書などに記載される、一般的に資産と呼ばれているものです。「非貨幣資産」とは、お金では測ることはできないが確実に存在しており、将来にわたって価値を生み出すもののこと。これも広い意味では資産になります。
「貨幣性資産」は客観的にどれくらい保有しているのかを数字で表すことができるため、税理士などの専門家が経営改善をおこなう場合には、決算書などの財務状態に基づいてアドバイスをおこないますが、じつは決算書に記載されない「非貨幣資産」のほうも会社経営において無視できない重要な資産と言えるのです。そのため、本当の意味で会社を存続させ、成長していくためには非貨幣性資産の改善にも目を向ける必要があります。
日々の行動が目に見えない資産を増やす
「非貨幣性資産」は、身の周りに多く存在します。例えば「知識」や「経験」。あなたが得てきた知識や経験をお金で測ることはできませんが、その知識や経験を生かして仕事を生み出し、お金を得ることができます。そういう意味で、一朝一夕には得られない知識や経験を持つことは、個人にとっても会社にとっても非常に価値が高いと言えます。
また、「人間関係」も代表的な非貨幣性資産の一つです。なぜなら、経済活動は人と人、モノとモノの価値がつながったときに生まれるからです。そのため、いつ、どこで、誰と出会うのかは人生にとっても事業活動にとっても重要です。大切な人との出会いをお金で測ることはできませんが、良質な人間関係を築くことで会社経営にいい影響を及ぼすことは間違いありません。
さらには、そうした人づきあいの積み重ねによって生まれる「信用」や「信頼」も重要な非貨幣性資産です。信用があるからこそ商売は成り立ちますし、信用があるからこそ金融機関はあなたにお金を貸します。つまり、信用はお金を生み出すのです。そういう意味では、日頃から信頼を生むような行動を心がけることで、見えない資産が創られていくといえるでしょう。もちろん、あなたの行動によっては逆に資産を失い続けることにもなりかねないわけですが。
このように、非貨幣性資産はさまざまな形でお金を生み出します。それは、立派な「資産運用」と言えるのではないでしょうか。その上で、問いたいと思います。あなたは経営者として「何に」投資をしますか?
事業活動そのものが資産運用です
また、もう一つ私が経営者の方にお伝えしたいのは、「事業活動とは、それ自体が資産運用である」ということです。
財務において事業活動とは、出資者や債権者から資金を調達し、それを適切に運用して収益を得ることをいいます。まさに資産運用そのものですよね。例えばラーメン屋であれば、銀行から借金して店舗を借り、食材を仕入れ、人を雇い、広告宣伝をして、お客さんにラーメンを提供することで収益を得ます。そこで投入したお金以上の利益が得られれば資産運用として成功です。
金融商品に投資するのも、事業に投資するのも同じ資産運用なのであれば、より成果の出るほうに投資したいものです。その観点で言えば、金融商品や不動産などへの投資で年間10%の利益を生み出すことは簡単ではありません。一方、事業活動において自分の生活費を捻出しつつ、さらに5%や10%の利益を生み出すのはどうでしょうか。決して簡単とは言いませんが、できないことではありません。
このことからも事業活動そのものに積極的に投資することは、有用な資産運用の方法であるといえます。さらに事業活動では、貨幣性資産だけでなく、非貨幣性資産も同時に運用することになるため、信用や人間関係、知識や経験も蓄積されていき、それが会社の存続と成長を支えてくれるようになります。お金を投資するだけではなく、「目に見えない資産に対しても投資をする」という意識を、経営者の方にはぜひ持ってもらいたいと思います。
■プロフィール
穂坂光紀
1981年、神奈川県小田原市出身。中小企業の財務支援に特化した税理士事務所、エンパワージャパンの代表税理士。「中小企業こそ日本を支える礎である」という理念から、持続可能な社会と企業を創るための「中小企業のための財政支援プログラム」を実施。強固な財務力を持つ優良企業に導く。共著に『七人のサムライ』がある。
■スタッフクレジット
文:穂坂光紀 編集:榎並紀行(やじろべえ)、服部桃子(株式会社CINRA)
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