企業が倒産する最たる理由は、「どこからも資金が調達できなくなって、支払が不能になった」から。逆にいえば、お金が尽きない状態をつくれるようになれば、50年、100年と事業を継続することができるわけです。
お金が尽きないようにするために不可欠なのが、キャッシュフローの原理原則や基礎知識。当連載では、「中小企業こそ日本を支える礎である」という理念を持ち、中小企業の財務支援に特化した税理士事務所、エンパワージャパン代表を務めます穂坂光紀がキャッシュフローのポイントや実践的な方法を紹介していきます。
今回は金融機関からの信用力を高めるためにも理解しておきたい、「お金の本質」について解説していきます。
穂坂光紀氏
「現金」と「預貯金」の大きな違い
皆さんはどれくらい「お金」というものについて理解しているでしょうか? 「お金=日本円」のことであり、それ以上でもそれ以下でもないと思っていませんか? その認識が間違いとはいいませんが、会社の経営者であるなら、もう少し深く理解する必要があります。
そもそも財務には「お金」という言葉は存在しません。「現金」や普通預金、定期預金といった「預貯金」などがそれにあたります。これらは全く同じようなもののように思えますが、財務的な視点では大きな違いがあります。今回は、この「現金」と「預貯金」の違いについて解説します。
そもそも「お金」ってなに?
「お金」とは何かと言われたら、財布から千円札や一万円札を出して「コレです」としか言いようがないですよね。千円札や一万円札のような紙幣は「日本銀行券」と記載されているとおり、日本銀行が発行した、日本政府の保証のついた紙切れです。ちなみに一万円札を一枚発行する際の原価は約20円程度らしいので、私たちは“20円の紙切れ”を10,000円の価値があるものとして日常生活で使用しています。つまり「お金」とは、その紙幣自体に価値があるのではなく、その紙幣に印刷された「日本政府の信用力」に価値があるわけです。また、世界中の国が「日本の一万円札には一万円の価値がある」と認めているからこそ、経済活動の中で取引を円滑に行うために利用されるのです。言い換えれば、お金自体はただのツールにすぎません。
このことから分かるのは、私たちは百万円の札束(原価2,000円の紙切れ)を得ることが大切なのではなく、百万円に相当する価値と信用を相手に認めてもらえたのかが重要であるということ。その結果を見える形であらわしたのが百万円の札束ということです。
相手に信用もされず、相応の価値も提供せずにお金だけを得ようとしても、決してうまくいくはずがありません。まずは自分の価値と信用を高めることが、お金を得る最良の方法だということを覚えておいてください。
銀行は現金取引を信用していない
お金のことを財務的な専門用語では「現金および現金同等物」といいます。「現金」とは先ほどから説明している紙幣や貨幣のことで、「現金同等物」とは現金と同じような性質を持ち、現金と即時交換できるものを指します。一番馴染みのあるのは「預貯金」です。
多くの場合は「現預金」や「現金および預金」などといった形で、現金と預貯金を合わせて表現します。そのため、現金は「手元にあるお金」、預貯金は「銀行に預けているお金」といった認識しかないかもしれません。もちろん間違いではないのですが、税務署や金融機関の立場からすると「現金」と「預貯金」では創り出されるプロセスが違うので、信用度に大きな違いが生まれます。
まず現金(貨幣や紙幣)には、誰の所有物なのかを記録しておく機能がないので、その現金があなた自身のものだと証明することが難しく、現金残高を証明するためには相手の目の前に札束を用意しなければいけません。一方、預貯金は会社名義の口座へ電子記録として管理されているため、通帳や残高証明を見せることで確認できます。また、改ざんも水増しもできないため、金融機関は預貯金残高を信用し、現金残高はあまり当てにしていないのです。決算書や帳簿上に現金残高が多くある場合(特に預金残高が少ないのに現金残高ばかりが多い場合)には、本当にそれだけの現金が手元にあるのか疑われてしまい、金融機関に対してマイナスの印象を与える可能性があります。
また、一般的な営業活動の中で銀行口座を使わずに現金でやり取りをするということは、「銀行口座を経由することに対して、何らかの不都合があるではないか」と、税務署や金融機関から疑われかねません。逆に、取引を行う者同士が銀行口座を利用している時点で、それぞれの金融機関において会社の信用情報と口座残高が照会されます。加えて、不適切な相手からの入金でないことの証明になるわけです。なおかつ、銀行口座の情報は税務署にも共有されるため、「適切な申告がされるであろう」という期待値と信用度を高める要因になります。そのため、金融機関との関係強化を図りたいのであれば、可能な限り現金取引を減らして、銀行口座による取引を増やしていく方が良いでしょう。
同様の理由から、クレジットカードを利用するのもオススメです。クレジット会社の与信をクリアした会社や個人が取引をしているということから、金融機関の信用はより高まります。
キャッシュレス化の流れはこれからもっと加速していきます。日本政府もキャッシュレス化推進のための税制改正を積極的に行っています。現金取引は不透明になりやすいことからも可能な限り現金を使わずに履歴が残る決済手段へ誘導しているのです。それは言い方を変えれば取引が透明化するほど会社の信用度も高まり、金融機関の協力体制を得られるということでもあります。同じ売上、同じお金であっても現金取引なのか銀行取引なのかによって見え方が違うということを理解して、会社経営をより加速してもらいたいと思います。
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■プロフィール
穂坂光紀
1981年、神奈川県小田原市出身。中小企業の財務支援に特化した税理士事務所、エンパワージャパンの代表税理士。「中小企業こそ日本を支える礎である」という理念から、持続可能な社会と企業を創るための「中小企業のための財政支援プログラム」を実施。強固な財務力を持つ優良企業に導く。共著に『七人のサムライ』がある。
■スタッフクレジット
文:穂坂光紀 編集:榎並紀行(やじろべえ)、服部桃子(株式会社CINRA)
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