企業が倒産する最たる理由は、「どこからも資金が調達できなくなって、支払が不能になった」から。逆にいえば、お金が尽きない状態をつくれるようになれば、50年、100年と事業を継続することができるわけです。
お金が尽きないようにするために不可欠なのが、キャッシュフローの原理原則や基礎知識。当連載では、「中小企業こそ日本を支える礎である」という理念を持ち、中小企業の財務支援に特化した税理士事務所、エンパワージャパン代表を務めます穂坂光紀がキャッシュフローのポイントや実践的な方法を紹介していきます。
今回のテーマは、金融機関との関係づくりについて。中小企業にとって資金調達のパートナーである銀行と良好な関係を構築するうえで押さえておきたい、3つのポイントを解説します。
穂坂光紀氏
銀行担当者と関係を強化する3つのポイント
中小企業にとって、銀行は資金調達の重要なビジネスパートナーです。裏を返せば、金融機関にとっても企業は大切な投資先であるということです。経営者のなかには銀行に対してあまり良いイメージを持っていない方もいるようですが、銀行は決して企業を苦しめたいわけではなく、真剣に長く関係を構築できるビジネスパートナーを探しています。
だからこそ中小企業は銀行を意識した決算書を作成していただきたいですし、どうすれば良好な関係を構築できるかを考えて行動してもらいたいと思います。ここでは銀行との関係を構築するうえで、まず押さえておきたい「銀行担当者が喜ぶ3つのポイント」について解説していきます。
Point1 直近の試算表をすぐに提出できる
銀行との関係を構築するときに必須なのが、「試算表」です。決算書は年に1回確定した財務資料として作成されるものですが、試算表は途中経過として都度作成する未確定の財務資料のことです。銀行は何かある都度、試算表の提出を企業に求めてきます。そのときに直近の試算表をすぐに提出できるかどうかで銀行の評価は大きく変わります。
理想的なのは、先月末時点の試算表が3日以内に銀行に提出できる状態です。すぐに直近の試算表が出てくるということは、経営者が自分の会社の業績をいつでも把握できる状況にあるということです。そして、現状が把握できると、「未来の判断も迅速にできる会社だろう」と好意的に捉えてもらえる可能性が高まります。
最も良くないのは、銀行からの「いつ試算表をもらえますか?」との問いに対して「税理士に聞いてみないとわからない」と回答をすることです。本来、会社の業績は経営者自身が理解しておくべきこと。税理士に聞かないと分からないというのは、自分の会社のことを把握できていないと捉えられても仕方ありません。
仮に3~4か月前の試算表しか出せなければ、銀行からは「普段は何をみて経営をしているんだろう?」と疑問を持たれてしまうでしょう。銀行と良好な関係を構築したいのであれば、試算表は毎月作成できる状態をつくるべきですし、そのような体制を一緒につくれる税理士事務所を選ぶべきだと思います。
Point2 3~4か月ごとに試算表を自ら提出する
一般的に、銀行から試算表の提出を求められるのは、新たにお金を借りるときであったり、逆にリスケと呼ばれる返済スケジュールを変更するときのように、「会社側から何かをお願いする」ケースがほとんどです。
しかし、あえてこちらから積極的に試算表を銀行に提出することもできます。実は銀行担当者が一番求めているのは「あなたとのコミュニケーション」です。人間関係に置き換えても、必要なときだけ連絡してくる人よりも、日頃から交流があり親密な関係を築いている人の方が、「何かをしてあげたい」という気持ちになると思います。それは、銀行の担当者も同じです。
いますぐに資金調達の必要がなかったとしても、定期的に試算表を銀行へ提出しておくと銀行はちゃんと受け取って保管しておいてくれます。その際に現状の事業実態や将来の展望などを担当者に対して話しておくことにより、いざ資金が必要となった時に銀行側も協力しやすい状況をつくることができます。じつは平常時のコミュニケーションこそが、非常時に活きてくるのです。
Point3 資金繰りを作成している
当たり前ですが、銀行にとって一番困るのは「貸したお金が返ってこないこと」です。そのために融資先の健全性をさまざまな方法で測定しながら、協力できる企業を探しているわけです。しかし、この会社だったら大丈夫だと判断して融資しても、将来どうなるかは誰にもわかりません。そのときに判断材料として重宝されるのが「資金繰り表」です。
資金繰り表は、将来の入金と出金の予定をあらかじめ把握しておくことによって、資金が枯渇しないかを判断するための管理表です。これを作成しておくと、経営者自身もいつのタイミングでお金を借りるべきなのか、将来への投資をしていいのかの判断をしやすくなります。また、銀行にとっても前もって資金需要を把握できるため、資金が枯渇する前に協力体制をとることができるわけです。資金繰り表を銀行担当者と共有している企業は、かなり緊密な関係を構築できているといえるでしょう。
なお、資金繰り表は未来の入金と出金の予測であるため、会社自身が把握できていないと税理士事務所にも作成することができません。経営を安定させるためにも、銀行と良好な関係を作るためにも、経営者自身未来の入出金に対する感度を上げたいところです。
以上が銀行担当者と良好な関係を構築するために必要な3つのポイントです。会社の業績を変えることは簡単ではないと思いますが、銀行とのつき合い方はいまからでも変えることができます。決算書の数字ももちろん大切ですが、まずは銀行との関係強化から始めてみることをおすすめします。
■プロフィール
穂坂光紀
1981年、神奈川県小田原市出身。中小企業の財務支援に特化した税理士事務所、エンパワージャパンの代表税理士。「中小企業こそ日本を支える礎である」という理念から、持続可能な社会と企業を創るための「中小企業のための財政支援プログラム」を実施。強固な財務力を持つ優良企業に導く。共著に『七人のサムライ』がある。
■スタッフクレジット
文:穂坂光紀 編集:榎並紀行(やじろべえ)、服部桃子(株式会社CINRA)
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