日本の会社の約99%は中小零細企業。古くから日本の経済、雇用、暮らしを支えてきました。しかし、大企業に比べて環境の変化による影響を受けやすく、企業生存率はかなり低いのが実状です。
企業が倒産する理由はただ一つ。「どこからも資金が調達できなくなって、支払が不能になったとき」です。逆にいえば、お金が尽きない状態をつくれるようになれば、50年、100年と事業を継続することができるわけです。
お金が尽きないようにするために不可欠なのが、キャッシュフローの原理原則や基礎知識。当連載では、中小企業の財務支援に特化した税理士事務所、エンパワージャパン代表を務めます穂坂光紀がキャッシュフローのポイントや実践的な方法を紹介していきます。
第1回は、私の税理士としての活動の根幹にある「中小零細企業への思い」をお伝えしたいと思います。
中小零細企業の未来こそが日本の未来
日本には創業100年を超える企業が多く、その数は世界一ともいわれています。そのほとんどは上場企業や大企業ではなく、中小零細企業です。
日本は古くから、中小零細企業に支えられてきました。現在でも、日本の会社の99%は中小零細企業であり、労働者の70%以上がそこで働いています。また、日本全国に存在する中小零細企業はそれぞれの地域に根づきながら、多様な街づくりやコミュニティー形成に貢献しています。これは世界に誇るべきことです。
さらに、地域に住む方々が安全・安心な生活を送れるのは、飲食店や建設業、農業、介護事業といった生活に必要なサービス・インフラを提供してくれる企業があってこそ。地域のためのサービスを提供する中小零細企業で働く人たちは、そのほとんどが自身も地域の生活者です。そうした「地域循環」は江戸時代から繰り返されていて、日本経済の礎となってきました。
地域企業にとって最大の社会貢献は「雇用の創出」です。雇用が生み出されることで働く人たちの生活が維持され、地域活動や地域関連サービスが成り立ちます。事業を行うということは直接的にも間接的にも人々の生活に関わっており、それが多様な地域社会をつくり上げています。そういった意味でも、中小零細企業の存在こそが日本には不可欠といえます。
穂坂光紀氏
子供は地域の商店と、そこで働く大人を見て育つ
しかしながら、昨今の中小零細企業を取り巻く環境は厳しさを増しています。リーマンショック、東日本大震災、新型コロナウイルス……。立て続けに起こる経済インパクトによって、この15年間で中小零細企業の倒産・廃業は加速度的に増加しました。加えて、150万社を超える数の中小零細企業が後継者不在という危機的状況に直面しています。
この流れは、どうにかして食い止めなければいけません。なぜなら、中小零細企業の未来こそが日本の未来そのものだからです。
子どもは大人の背中を見て育ちます。インターネットを通じて世界中にアクセスできる情報社会であっても、実際に子どもたちが生活のなかで関わっているのは、街の飲食店やスーパー、歯医者や日用品店など。つまり、地域の中小零細企業であり、そこで働く大人たちです。地域の企業がしっかりと経営をして、働く大人たちが輝いていれば子どもたちも地域に目を向けますし、「自分が地元を支えるんだ」という想いを持つ子も出てきます。逆に地域企業が衰退してくれば「こんな街にいてもしょうがない」と、若者たちは離れていきます。だからこそ、日本の未来は地域の中小零細企業にかかっているといっても過言ではないのです。
会社を存続できなくなる理由はただ一つ
当たり前の話ですが、会社を潰したいと思っている経営者は一人もいません。すべての経営者が事業存続のために日々努力しています。それにも関わらず倒産・廃業せざるを得ない企業が多くあるのが現実です。
では、なぜ倒産・廃業が起こるのか。どうすれば、会社や事業を次の世代に引き継げるのか。経営者にとっては非常に重要な課題です。
正直にコツコツとマジメに仕事を続ける。しっかりした経営理念を持ち、想いを発信し続ける。どちらも大事なことですが、残念ながらそれだけで事業を存続できるかというと、現実はそんなに簡単ではありません。想いがあっても、経営者の人格がどれほど秀でていても、倒産するときは倒産します。善悪や優劣の問題ではないのです。
では、会社が存続できなくなる「原因」は何でしょうか。時代の変化により商品やサービスが売れなくなった、内部組織が崩壊した、お客さまから訴えられた、競合が現れた……。言い出したらキリがありません。
しかし、原因が何であれ、会社が存続できなくなる最も大きな理由は、「どこからも資金が調達できなくなり、支払いが不能になったとき」です。その瞬間に会社はあっという間に倒産します。つまり、お金が尽きたらゲームオーバーであり、逆に言えばお金が調達できる限り、どれだけ業績不振でも会社は潰れません。
経営者に必要なキャッシュフローの原理原則と基礎知識
使い古された言葉ですが、会社にとってお金は血液。血流が止まったら生命が維持できないのと同じです。人間は意識しなくても24時間休むことなく心臓が動き続け、血液を体中に流し続けますが、会社はそうはいきません。意識してお金を流し続けないとすぐに詰まりますし、不足してしまうのです。
お金の流れを把握し最適化することを「キャッシュフロー」や「財務」と呼びます。これらは結局のところ、お金が尽きないように管理するということ。言葉にすると単純に聞こえるかもしれませんが、実際の経営においてお金の流れをコントロールすることは簡単ではありません。だからこそキャッシュフローの原理原則と基礎知識さえ身につけておけば、経営判断をする際に必ず役立ちます。
繰り返しになりますが、日本の未来は中小零細企業が担っています。そのために事業を存続させていきたい、次の世代へのしっかりと引き継がせたいと願っている方にこそ、正しいキャッシュフローを理解していただきたい。この連載で、そのためのポイントや実践的な方法を紹介していければと思っております。
■プロフィール
穂坂光紀
1981年、神奈川県小田原市出身。中小企業の財務支援に特化した税理士事務所、エンパワージャパンの代表税理士。「中小企業こそ日本を支える礎である」という理念から、持続可能な社会と企業を創るための「中小企業のための財政支援プログラム」を実施。強固な財務力を持つ優良企業に導く。共著に『七人のサムライ』がある。
■スタッフクレジット
文:穂坂光紀 プロフィール写真撮影:丹野雄二 編集:榎並紀行(やじろべえ)、服部桃子(株式会社CINRA)
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