■監修者プロフィール
金子 賢司(かねこ・けんじ)
CFP
東証一部上場企業で10年間サラリーマンを務めるなか、業務中の交通事故をきっかけに企業の福利厚生に興味を持ち、社会保障の勉強をはじめる。以降ファイナンシャルプランナーとして活動し、個人・法人のお金に関する相談、北海道のテレビ番組のコメンテーター、年間毎年約100件のセミナー講師なども務める。趣味はフィットネス。健康とお金、豊かなライフスタイルを実践・発信している。
家計の相談・マネーセミナー講師 ファイナンシャルプランナー(FP)金子賢司(外部サイトに移動します)
【目次】
キャッシュアウトとは
会社法におけるキャッシュアウト(スクイーズアウト)の意味
会社法におけるキャッシュアウト(スクイーズアウト)の手法
・全部取得条項付種類株式の活用
・株式併合
・株式交換の応用
・株式等売渡請求
会社法におけるキャッシュアウト(スクイーズアウト)を行う際の注意点
・余裕を持ったスケジュールで進める必要がある
・十分な資金の準備が必要となる
・訴訟リスクへの備えが必要となる
キャッシュフロー(お金の流れ)文脈におけるキャッシュアウトの意味
キャッシュアウトの増加はキャッシュフローが悪化する原因になり得る
・キャッシュアウトが増加する原因
・キャッシュインが減少する原因
キャッシュフローを改善する方法
・資金繰り表の作成
・未収売掛金の回収
・クレジットカードの活用
キャッシュアウトのまとめ
キャッシュアウトとは
「キャッシュアウト」という言葉は、2つの意味で使われます。
1つは会社法において使用され、現金を対価にして少数株主を会社から撤退させることを意味するものです。スクイーズアウトとも呼ばれます。
もう1つはキャッシュフローの文脈で使用され、資金(キャッシュ)が外部へ流出(アウト)することを意味します。
「会社法におけるキャッシュアウト」、「キャッシュフロー(お金の流れ)文脈におけるキャッシュアウト」それぞれについて詳しく説明します。
会社法におけるキャッシュアウト(スクイーズアウト)の意味
会社法において使用される場合、キャッシュアウトは現金を対価にして少数株主を会社から撤退させることを意味し、「スクイーズアウト」とも呼ばれます。
キャッシュアウトにより、敵対的な少数株主を撤退させることができれば、株主総会決議のスムーズな進行や意思決定の迅速化、株主対応のコスト削減、などのメリットがあるでしょう。
会社法におけるキャッシュアウト(スクイーズアウト)の手法
会社法における主なキャッシュアウトの手法は4つについて、それぞれの内容を説明します。
全部取得条項付種類株式の活用
全部取得条項付種類株式を活用して親会社がすべての株式を取得すれば、キャッシュアウトすることが可能です。株主総会の特別決議によって、以下のような手続きが行われます。
1. 会社を「種類株式発行会社」に移行させる
2. 発行済みの普通株式を全部取得条項付種類株式に変更する
3. 全部取得条項付種類株式をすべて取得し、新たな普通株式を対価とする
4. 少数株主の取得する普通株式が1株未満(端株)になるよう株式の比率を調整し、その端株を現金で買い取る
普通株式とは、株主の権利に制限のない一般的な株式のことで、全部取得条項付種類株式とは、株主総会の特別決議によって会社がその全部を取得できる旨を定める株式のことを指します。
例えば、株主Aが160株、株主Bが20株、株主Cが35株の株式を保有しているとしましょう。そして、株主総会の特別決議によって「普通株式40株につき、種類株式X1株を交付する」とした場合、株主Aは種類株式Xを4株保有することになり、一方で、株主BとCが保有していた普通株式は種類株式Xの1株に満たないため、対価として株主BとCに現金を支払い、キャッシュアウトすることになります。
なお、全部取得条項付種類株式を取得するには、株主総会の特別決議で議決権の3分の2を取得する必要があります。
株式併合
株式併合とは、既存の複数の株式を一定の割合(併合割合)に応じて1株に統合することにより、発行済み株式数を減らすことです。発行済み株式数は減りますが、1株当たりの株価が上がるため、資産価値には影響ありません。
例えば、株主Aが200株、株主Bが30株、株主Cが4株の株式を保有しているとします。そこで、併合割合を5:1とし株式併合した場合、株主Aの持ち株は40株、Bの持ち株は6株、株主Cの持ち株は1株未満となります。その際、持ち株が1株未満になった株主Cは、株主としての権利を行使できなくなるため、現金を対価としてキャッシュアウトすることになります。
なお、株式併合を行うためには、会社法で定められているように、株主総会で議決権の3分の2以上の同意が必要(外部サイトに移動します)です。
株式交換の応用
株式交換とは、ある株式会社が対象会社を100%子会社にするための企業再編手法のひとつで、完全子会社となる会社(対象会社)の発行済株式のすべてを完全親会社となる会社(株式会社または合同会社)に取得させる手法です。株式交換後には、対象会社に対して100%の完全支配関係が生じます。株式交換の応用という手法は、この株式交換を応用することで、子会社の少数株主をキャッシュアウトする方法です。
具体的な流れは以下のとおりです。
1. 会社Aが発行している全株式を会社Bへ譲渡する。これにより、会社Aは完全小会社、会社Bは完全親会社となる。なお、会社Aの株主Cが所有していた株式も、親会社Bが取得することになる
2. 株主Cへの対価として、親会社Bは自社の株式を株主Cへ交付する
3. 株主Cは親会社Bの株主に加わる
4. 親会社Bが株式併合を行い、株式の比率を調整して、持ち株が1株未満の株主をキャッシュアウトする
なお、株式交換の対価として、完全親会社の株式を完全子会社の株主に交付することが一般的ですが、現金等を交付することも認められているので、現金を対価としてキャッシュアウトすることも可能です。
また、株式交換を行うには、株主総会の特別決議で議決権の3分の2を取得する必要があります。
株式等売渡請求
株式等売渡請求とは、2015年5月施行の改正会社法により可能となった方法で、株式会社の総株主のうち議決権の90%以上を有する特別支配株主に限り、新キャッシュアウト制度を利用して、他の全株主に株式全部を直接売り渡すよう請求する株式等売渡請求が可能です。
株式等売渡請求は取締役会の決議のみで実行でき、株主総会の特別決議で議決権の3分の2を取得する必要はありません。
会社法におけるキャッシュアウト(スクイーズアウト)を行う際の注意点
会社法におけるキャッシュアウト(スクイーズアウト)を行う際に注意すべき点も紹介します。
余裕を持ったスケジュールで進める必要がある
株式等売渡請求を除いた3つの手法では、株主総会の特別決議を行わなければなりません。その際、株主総会の基準日の設定や議題の確定、各株主への招集通知など、複数の手順を踏む必要があります。
例えば、基準日の設定ためには、最低でも14日以上前に「公告」という告知の手続きが必要です。
それだけではなく、株主の招集通知を発送してから実際に株主総会を開催するには14日以上の期間を開ける必要があります。株式総会を実施するまでに1ヶ月~2ヶ月ほどはかかることを念頭におきましょう。
十分な資金の準備が必要となる
どの手法でキャッシュアウトを実施する場合でも、事前に一定の株式の保有、最低でも、議決権の3分の2以上の株式が必要になります。
それだけではなく、株式を取得するための対価にかかるコストも把握し、十分な資金を準備する必要があるでしょう。
訴訟リスクへの備えが必要となる
キャッシュアウトの対象となった株主から会社法に則ってさまざまな訴訟を起こされる可能性があることを念頭におき、準備をしておく必要があるでしょう。
訴訟のリスクを抑えるためにできる対策をおこない、万が一の際にも対応できるように備えましょう。
キャッシュフロー(お金の流れ)文脈におけるキャッシュアウトの意味
キャッシュフローの文脈で使用される場合、キャッシュアウトは、商品の仕入れや設備への投資などにより、資金(キャッシュ)が外部へ流出(アウト)することを意味します。ここでいう資金とは、現預金や容易に換金可能な現金同等物を指します。
そして、このキャッシュアウトの反対語として使われるのが、「キャッシュイン」で、資金の流入を意味します。資金の流入から流出を差し引いた「収支」、キャッシュがどう増減しどれだけ残ったのかを「キャッシュフロー」といい、事業や企業活動における資金の流れを指します。
関連記事:キャッシュフロー計算書と損益計算書の違いとは?考え方を解説
キャッシュアウトの増加はキャッシュフローが悪化する原因になり得る
キャッシュフローの悪化とは、手元の資金が減少し、企業活動に必要な運転資金が足りなくなることを指します。キャッシュフローが悪化する原因は大きく2つです。
1つは、「キャッシュアウトの増加」でもう1つは「キャッシュインの減少」です。キャッシュイン(回収)とキャッシュアウト(支払い)のタイミングにズレが生じ、資金が不足してしまう場合にキャッシュフローは悪化します。ここでは、キャッシュアウトの増加」と「キャッシュインの減少」それぞれが起こってしまう代表的な原因を紹介します。
関連記事:キャッシュフロー計算書を作成する上で重要な目的や意味を解説
キャッシュアウトが増加する原因
キャッシュアウトが増加している場合に考えられる原因の例として、以下が挙げられます。
・コストの増加
・過度な在庫の保有
・多額の設備投資
・借入返済額の増加
・仮払金や前払金の増加
・売掛金の回収と買掛金の支払いのずれ
キャッシュアウトが増加するということは、その分の資金が必要となるということです。資金が枯渇しないようにコントロールしなければなりません。
たとえば、売上が急激に伸びた場合でも、売掛金の回収よりも先に買掛金の支払いが発生ないようにコントロールして仕入れを行わないと、キャッシュフローは悪化してしまいます。
このコントロールがうまくできないと、売上が好調で利益が出ているにもかかわらずキャッシュフローの悪化により資金が枯渇して倒産する、いわゆる「黒字倒産」と呼ばれる状況になってしまいます。
キャッシュインが減少する原因
一方、キャッシュインが減少している場合、以下のような原因があると考えられます。
・自社の売上の減少
・売掛金の回収遅れ
キャッシュインが減少するということは、その分、資金に余裕がなくなるということです。資金が枯渇しないようにコントロールしなければなりません。
安定した売上がある場合でも、売掛金の回収に遅れが生じていると、資金が不足し、仕入れや人件費などの支払いが滞ってしまう可能性があります。
キャッシュフローを改善する方法
キャッシュフローが悪化すると、ビジネスの成長を止めてしまったり、資金繰りが苦しくなり資金に関して何らかの対策が必要となったり、倒産のリスクが高まってしまう可能性があるでしょう。健全な経営を実現するためにも、なるべく早く対処することが大切です。
キャッシュフローはキャッシュインからキャッシュアウトを差し引いて算出します。つまり、キャッシュインを増やし、キャッシュアウトを減らせば、キャッシュフローが健全な状態へと改善されていきます。
キャッシュフローを改善する方法はさまざまですが、ここでは3つ紹介します。
資金繰り表の作成
悪化している原因に関わらず、まずは改善の第一歩として、キャッシュフローの現況を把握しましょう。そのためには資金繰り表を作成が必要です。
資金繰り表とは、一定期間における現金収入と現金支出を分類、集計し、現金収支の動きや現金過不足の実態など、資金の動きを視覚的に把握できる表のことです。
資金繰り表を作成することで、キャッシュフロー悪化の兆候に気付きやすくなるため、収支のバランスが崩れ、今後の支払いに必要な資金が不足する状態を指す、資金ショートを防ぐことが可能です。
さらに、資金繰り表の作成は、キャッシュフローが悪化する原因の特定にも役立ちます。キャッシュフロー悪化原因の可視化により、やるべき改善策も見えてくるでしょう。
未収売掛金の回収
未収の売掛金があればできるだけ早い段階で回収するようにしましょう。貸し倒れになってしまわないように、請求漏れがないか、支払い遅れがないかを定期的にチェックし、未収売掛金を減らすことが重要です。
売掛金の貸し倒れを防ぐためには、取引を行う前に与信審査を徹底することが重要です。商談を行う段階で情報収集を行い、取引をしても問題がないかどうかを調査しましょう。
取引開始時だけではなく、定期的に行うことで、取引先の経営状況が悪化しても気づくことができるので、想定外の貸し倒れが発生する事態を防ぐことが可能になります。
クレジットカードの活用
回収と支払いのタイミングのズレによってキャッシュフローが悪化している場合、仕入れや経費の支払いにクレジットカードを活用すると、支払いが翌月もしくは翌々月になるため、キャッシュフローの悪化を防げます。
これによって支払期日までの余裕が生まれ、手元に現金が残る状態となり、キャッシュフローを安定させることが可能です。
法人口座を引き落とし先に設定できるアメリカン・エキスプレスのビジネス・カードを活用することで、キャッシュフローの改善だけでなく、経費精算の効率化も図れます。
アメリカン・エキスプレスのビジネス・カードには、あとから分割払い、リボ払いに変更できるサービスがあるので、ビジネスの状況に応じて、計画的に一括決済後に支払方法を柔軟に変更することも可能です。
関連記事:法人向けクレジットカード(ビジネスカード)を作るメリットとは?
関連記事:リボ払いとは?法人カードで利用するメリットや利用時の注意点を解説
キャッシュアウトのまとめ
「キャッシュアウト」について、以下に要点をまとめます。
・「キャッシュアウト」という言葉は、会社法における「現金を対価にして少数株主を会社から撤退させること」と、キャッシュフロー(お金の流れ)文脈における「資金(キャッシュ)が外部へ流出(アウト)すること」、2つの意味で使われる
・会社法におけるキャッシュアウト(スクイーズアウト)の手法は主に4つあり、これらを行う際はスケジュールや資金、訴訟リスクなどへの注意が必要・キャッシュフローが悪化する原因の1つがキャッシュアウトの増加。法人向けクレジットカードの活用はキャッシュフローの悪化防止に有効
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